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「……ん」
意識が徐々に浮上してくる感覚がする。
俺は明るい光を視界に感じてゆっくり目を開ける。
「……あっ、そうか」
俺は視界に飛び込んできた光景を見て昨夜のことを思い出す。
広いベッドに広い部屋、そして装飾が豪華な内装。
そう、昨日はみんなで食事を満喫?した後に宿屋で泊まろうと思っていたところ、セレナお嬢様が公爵家の邸宅に泊まるよう提案してくれたのだった。もちろん最初は俺もレイナさんも申し訳ないと断ったのだが、マリアさんもぜひとお嬢様に便乗した結果なぜかいつの間にか公爵家邸宅に泊まることが決定していたのだ。
俺は以前にも泊った経験があったので以前ほどの緊張はなかったが、レイナさんは貴族の豪華な屋敷にすっかり怯えきっていて子犬のようになっていた。レイナさん、ちゃんと寝れたのだろうか…?
俺は完璧に目が覚めたのでベッドを出て着替えを済ませる。時間がまだ早かったのでインベントリに入れていた本を読みながらゆっくりと過ごすことにした。こんな朝もいいな…と環境の影響もあってか非常に優雅な気持ちに浸っていた。
「起きてる?おはよー!!」
すると何の前触れもなく突然セラピィが俺の目の前に少女形態で現れた。そういえば、ここしばらくいろいろあったからあまり構ってあげられてなかったな。もしかして寂しかったのかな。
「セラピィ、おはよう」
セラピィに挨拶を返すと彼女は近づいてきて俺の手に持っている本を覗き込む。
そして何だか不思議そうな顔をしながら俺の顔を見つめてきた。
「…何読んでるの?」
「ん、これ?これはちょっと前に買った魔法書だよ。いろんな魔法のことについて書かれてるんだ」
セラピィは「ふ~ん」と言いながらもう一度本を覗き込む。
すると俺の膝の上に座ってこう聞いてきた。
「一緒に読んでもいい?」
とても愛くるしい仕草に俺は思わず口角が上がってにやけそうになる。
俺は必死にバレないように表情を取り繕いながら平然を装って答える。
「ああ、もちろんいいよ」
「やった!」
そうして俺とセラピィは傍から見ればまるで親子かのような微笑ましいだろう状態でゆっくりとした時間を過ごした。俺はこの時、とても心が満たされていたように感じた。
…コンコンッ
本を読み始めてからしばらく経ったとき、ドアの方から誰かがノックした音が聞こえてきた。俺はすぐに返事を返してノックの主を確かめる。すると外から声が返ってきた。
「おはようございます、ユウトさん」
声の主はレイナさんであった。
俺は膝の上に座っているセラピィを椅子に座らせて本を渡す。そしてセラピィに本を読んでていいということを伝えてすぐさまドアを開けに向かう。
「おはようございます。レイナさん、昨晩は良く寝れましたか?」
「そうですね…少し寝付きは良くなかったです…」
やはり緊張してあまり寝れていなかったようだ。
今も眠そうにあくびが我慢できずに漏れているぐらいだからな。
「ユウトさんは…寝不足ではなさそうですね」
「ええ、以前も一度泊まらせてもらったことがありますからね。少し慣れちゃいました」
俺は少し冗談めいた感じで笑いながらそう話した。
まあこんな豪華絢爛な場所は何度来たって緊張はするだろうけど…
「…へっ?!ゆ、ユウトさん!!う、う、後ろ?!?!」
「えっ?!?!」
突然レイナさんが変な声を漏らしたかと思ったら顔を青ざめさせて俺の後ろを指差した。俺もそんなレイナさんに驚いてすぐさま後ろを振り向いた。するとそこには本を持って俺のすぐそばで立っていたセラピィの姿があった。
「な、何だ…セラピィか…」
「えっ?!ゆ、ユウトさん?!その子のこと知ってるんですか?!」
どうやらレイナさんはセラピィのことを幽霊か何かだと勘違いしていたようだ。
まあたしかに急に人の背後に何も言わずに知らない子が立っていたら幽霊だと思うよな。
でもそういえばセラピィって精霊だし、精霊って幽霊と言ってもある意味間違いではないのかもしれない…がまあ今はそんな細かいところはどうでもいいだろう。とりあえず俺はセラピィが幽霊ではないことを伝える。
「ゆ、幽霊じゃないんですね…よかった」
何とかレイナさんをなだめることに成功した俺だったが、次の瞬間何かに気づいたレイナさんは先ほどとは違う理由で慌て始めた。
「いや、そんなことよりも何で女の子がこんな朝早くにユウトさんの部屋にいるんですか?!どういう関係なんですか?!?!?!」
レイナさんは凄い勢いでセラピィについての質問を俺に投げかけてきた。いや、まあ何も知らない人から見れば朝から少女を寝室に連れ込んでいるヤバイ奴に見えるなと変に冷静に自分の現状を分析していた。さてどこからどういう風に説明したものか…
「どうされましたか?!」
すると廊下で騒いでいたのを聞きつけたのかマリアさんが急いでこちらへとやってきた。レイナさんの只ならぬ雰囲気に事件かと勘違いしたマリアさんが加わってさらに状況が悪化してしまった。とりあえず、まずはマリアさんに事情を説明して一緒にレイナさんをなだめる側を増やすことにする。
「…ということなんですよ」
「なるほど、そうだったのですね。私はてっきり侵入者か何かかと…」
いや、こんな警備がガチガチの屋敷に侵入するやつなんているか?
まあ教団の件もあったから心配しすぎるぐらいがいいのかもしれないけれど。
そうして俺たちはレイナさんにセラピィのことを説明するためにちゃんとした話し合いの場という名の朝食会をすることになった。もちろんそこにセレナお嬢様も交えて話せる範囲で話すことにした。
セラピィの件を話そうとすると少し誘拐事件の話も入ってきてしまうためお嬢様もいた方がいいだろうというマリアさんのアドバイスがあって朝食の場でという運びになった。
お嬢様も参加してもらう理由の中には最近なかなかセラピィに会えていなかったから寂しそうだったというマリアさんのお嬢様への配慮も含まれているようだ。もちろん二人が対面できる時間を作ることはお嬢様だけではなくセラピィにとってもいいことだろうからな。
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「…という感じでセラピィさんの説明は以上になります。レイナさん、何かお聞きしたいことなどはありますか?」
「い、いえ!説明いただきありがとうございます!!」
隣でレイナさんがカチコチになりながらお嬢様にお礼を告げている。
とても綺麗に分かりやすくお嬢様がセラピィのことを説明してくれたおかげで正直非常に助かった。精霊であることを伝えて上手く事件のことは隠しながらも契約をしたことを伝えたりなど非常に人に情報を伝える能力が高いかった。俺はお嬢様のスペックの高さに改めて尊敬の念が浮かんできた。
「それにしてもまさか精霊さんにお会いできるなんて…それにユウトさんもセレナ様も契約をされているだなんてすごいです!」
「私にとってセラピィさんはユウトさんと同じく命の恩人であり、そして友人のような感覚なのです。なので私はセラピィさんを精霊として崇めるよりも一緒に笑いあっていたいと思っています」
お嬢様はセラピィの手を取って微笑みかける。
そんなお嬢様を見たセラピィも笑顔でお嬢様に抱き着いていく。
何とも微笑ましい光景に心がじんわりと温かくなっていくような気がする。
「と、とりあえずレイナさん。何とか誤解は解けましたか?」
「あっ、ユウトさん先ほどはすみませんでした!!」
そう聞くとレイナさんはこちらにペコペコと頭を下げて謝っていた。
もう大丈夫ですよと優しく告げてこの件は終わりにすることにした。
レイナさんへの説明も済んだところで本格的に朝食を頂くことになった。さすがに朝食は豪華なというわけではなくあっさりとして料理が並んでおり、俺もレイナさんも比較的落ち着いて食べることが出来た。
すると食事を終えたあたりでお嬢様が俺に話しかけてきた。
「そういえばユウトさん、今日のご予定はどうなされますか?」
「そうですね、今日は依頼の準備のために買い出しに行こうかと思っています。食料とか道具とか…あとは武器も買えたらなと思ってます」
俺がそう告げるとお嬢様は少し考える仕草をした。
「それならユウトさん、ぜひマリアに王都のいいお店を案内してもらってはどうでしょう?」
「いえいえ、そんな!申し訳ないですよ!!」
お嬢様専属メイドであり、そして護衛でもあるマリアさんに俺の買い物の付き添いをしてもらうなんて申し訳なさすぎる。絶対マリアさんもお嬢様のそばを離れるわけにはいきませんって断るに…
「私は今日、特に予定もありませんし…マリアどうですか?」
「お嬢様がよろしければ私は構いません」
いや、いいんですか?!
…まあマリアさんが良いって言うなら僕が断るわけにもいかないだろう。
「そ、それではマリアさんお願いできますか?」
「はい、お供させていただきます」
ということで俺はこのあとマリアさんと王都での買い物することに決まった。たしかに俺は王都のお店に全く詳しくないし、こんな広い都市を一日で回るのは不可能に近かったからありがたいことではある。
「では、レイナさん。私たちは良ければお二人が買い物に行っている間、お話ししませんか?」
「えっ、お話ですか?!」
「昨日の件、とかですよ」
その言葉を聞くとレイナさんは思い出したかのように少し顔を赤らめてお嬢様からの申し出を受け入れた。
昨日の件ってもしかして俺の話…?俺のいないところで何を話されるのか少し気になるけど、逆に聞きたくないような気もするからちょうどいいのかもしれない。
「セラピィさんも一緒にお話ししませんか?」
「うん、する!!」
お嬢様がセラピィにも聞くとセラピィは嬉しそうに返事をする。
ということは本格的に俺はマリアさんと二人っきりで買い物か…ちょっと緊張してきたかも。
そういうことで今日の予定は俺たちは買い物へ、お嬢様たちは女子会という予定に決まった。さて王都にはどんなお店があるのか少し楽しみである。