おはようございます。私の名前は奥樽家(オタルゲ) 鳥愛(とあ)です。
なんでもない日常を愛する社会人です。朝からバタバタしていて申し訳ありません。
といっても大抵毎日こんな朝なのですが。朝起きて、洗面所に行き、歯を磨きながらトーストの用意をする。
残り4枚になった8枚切りのパンの袋を開け、パンを1枚取り出し、トースターへ突っ込み、スイッチオン。
バッグクロージャーと呼ばれるパンの口を留めているのでしか見たことのない
変わった形のプラスチックでパンの袋の口を閉じる。
キッチンの上の棚からお皿を1枚出し、トースターの上に置く。洗面所へ行って、口をゆすいで、顔を洗う。
後ろ髪はお団子でまとめ、前髪はピョーンっと天井に向かって結んでいる。
洗面所に置いてある化粧水を肌に叩き込む。ピーッ、ピーッ、ピーッ。トースターが急かしてくるので
「はいはいはい」
と言いながらキッチンへ行き、あらかじめ用意しておいたお皿に
こんがり狐色になったトーストを中指と親指の先で持って置く…というより、半分投げ落とす。
トースターの蓋を閉め、冷蔵庫のドアを開ける。もうそろそろ底を尽きるバターを
バターの箱に入れっぱなしのバターナイフでこそぎ取り、トーストに塗る。
バターはみるみるうちに溶けて狐色のトーストの表面に艶が出た。バターを冷蔵庫にしまい
お次は瓶詰めした砂糖をトーストの表面に振りかける。シュガートースト。
ジャムとかじゃないんだーと思われるかもしれないが、これが忙しい朝にはちょうど良い。
まず第一にジャムをすくうスプーンを必要としない。
朝の情報番組、めざめのテレビを見ながらトーストを食べる。
お供する飲み物は心の紅茶、通称ココティーのストレートティー。
甘いシュガートーストにはストレートティーがちょうど良い。
ニュースやら、流行りの情報やらを見ながらトーストを食べ終える。
お皿を持ってキッチンへ。ここで第二のポイント。ジャムトーストの場合
トーストからこぼれ落ちたジャムがある可能性があるため割としっかりと洗わないといけないが
シュガートーストの場合はザー。キュッ。ピカンッ!この通り。水洗いだけで済むのだ。
スーツに着替え、軽くメイクをする。眉毛はマスト。描かないとやってられない。
あ、言い忘れていたが、私はメガネ女子である。
(27歳、今年28歳を“女子”というか否かは今はどうでもいいですよね?(威圧))
あまり色のついていないリップクリームを塗り、さあ出発だ。テレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。
「本日の第1位は!獅子座のあなた!」
とテレビのアナウンサーが告げた。
「お」
私は8月27日生まれ、獅子座である。
「思わぬ形で運命的出会いがあるかも?」
「運命的出会い」
27歳女性が平均的に付き合ってきた人数くらいには男性とのお付き合いはあったものの
仕事が忙しく、都合が合わないことも多く
社会人になってからお付き合いしていた男性とは社会人になって早々にお別れしていた。
現在は絶賛フリーである。
「ラッキーパーソンはぁ〜?1番のお調子者!」
「は?」
意味がわからないラッキーパーソンを聞いて
「それでは皆さん、いってらっしゃい」
というアナウンサーのお見送りの言葉を聞いてからテレビを消し、玄関の扉を開いて、いざ出勤。
私の職場は達磨ノ目高校。そう。私は高校の先生なのである。担当教科は地理。
去年からクラス担任も任されており、それは今年も同じ。
教職というのは実にブラックな職業であり、もはやサービス業である。
生徒であるときは授業がめんどくさいーテストやだー夏休みやったー!
夏休みの宿題F○ckU!冬休み短ーいと言っていたが、生徒でよかったねと教職になって思う。
授業は授業で準備が大変。プリントが必要なときは人数分プラスαを印刷し
というかそもそもプリントを作るのも大変だし。
授業内容もクラス毎、学年毎に記録しないといけない。ま、いけないことはないが
前回どこまで授業したか忘れてしまうのでメモ代わりである。
さらにテストもテストで難易度設定として簡単な問題から難しい問題
選択肢の問題、筆記問題を作成し、さらにその後、答え合わせである。
だいたいは家に持ち帰ってやる。サビ残である。
夏休みの宿題だって、考えて作成して、やっと夏休みだと思ったら
テストの赤点の子の補修やテストの作成に答え合わせ。
そして夏休みが明けたと思ったら夏休みの宿題の答え合わせ。
しかもやっていない生徒の把握。催促。とんでもない職業である。
教職でよかったこと。それは朝早いので通勤ラッシュを避けれれること。
ゆっくりと好きな音楽を聴きながら出勤できる。電車を降りて、駅から少し歩くと、はい、ここです。
ここが私が地理の教師として働いている達磨ノ目高校です。
生徒数…知らんわ。多いです。めちゃくちゃ多いです。そして校則が緩い。
髪のカラーリングOK。ピアスOK。着崩しOK。なので生徒の個性は非常に豊かである。
赤い髪の子。インナーカラーが青い子。襟足が緑の子。片耳にピアス10個開いている子。一生パーカーの子。
職員室前の「誰誰先生は今職員室にいます。いません」みたいなホワイトボードの
自分の名前のプレートを職員室の部分に貼る。
「おはよーございまーす」
職員室のドアを開いて、挨拶をしながら入る。
自分のデスクに座り、ノートパソコンを開いて、電源ボタンを押す。
「鳥愛(とあ)先輩ーおはよーございますー」
キャスターつきのイスで近づいてくる彼女。
兄邏(けいら) 天美(あみ)。私の1個下の可愛い後輩である。ちなみに家庭科の先生である。
「天美ちゃんおはよー」
2人が少し話をしていると
「おはよーございまーす!」
と元気よく入ってきた青年。彼は須藤(すどう) 我希(わき)。まだ24歳。数学教師という茨道を歩んでいる。
「お!兄邏先輩、奥樽家(オタルゲ)先輩!おはよーございます!」
「おはよ。元気だねぇ〜」
「ですね」
「てか、お2人、昨日のスッシー(MyPiperの寿司沢さんの愛称)の動画見ました?」
「見てない」
「右に同じく」
「じゃあ、ENINSHOW(イーニンショウ)さんは?」
「見てない」
「右に同じく」
「えぇ〜。見てくださいって去年から言ってるじゃないですか」
「時間ない」
「右に同じく」
という会話をしていると生徒が登校してくる時間になる。
「おはよーございまーす」
「おはよー」
「お、天美(あみ)ちゃん、おはよー」
「兄邏(けいら)先生ね。おはよー」
「お、ワッキーちゃんおはー」
「須藤先生な。おはよー」
須藤先生は年齢も若く、テンションが高く生徒から人気が高く
下の名前の我希(わき)からワッキーのあだ名で親しまれている。
生徒がだいたい登校し終え、ホームルームのため教室へ行く鳥愛(とあ)。
教室内では仲良いグループが集まって話をしていたり
1人でいたりと、外見も過ごし方も個性豊かな生徒たちで賑わっている。
ん?1人まだ来てない…。?あれ?狩野本(かりのもと)くんの隣に席あったっけ?
と疑問に思いながらも
「はい。おはようございます」
とホームルームを進め、いつも通りの1日常が始まろうとしたそのとき。
コンコンコン。教室のドアがノックされる。鳥愛(とあ)はドアに近づき、スーッっと引き戸を開ける。すると
「奥樽家(オタルゲ)先生。おはようございます」
と校長先生が立っていた。このときから。このときから鳥愛(とあ)のなんでもない日常が変わり始める。
別になにも悪いことはしていない鳥愛(とあ)だが、なぜか背筋がシャキッっと伸びた。
「おはようございます。…どうかされました、か?」
あからさまに不安そうな顔に校長先生は笑う。
「そんな顔せずとも大丈夫ですよ。奥樽家(オタルゲ)先生の働きぶりには
なんの問題もありません。なんなら表彰したいほどです」
「はあ」
正直、校長先生が私の働きぶりを知っているわけがないし、校長先生がなんの仕事をしているかもわからない。
あと表彰は勘弁してほしい。昇給してほしい
と心で思う鳥愛(とあ)。
「それで、どうかされましたか?」
「あぁ、そうそう。急で申し訳ないんだけどね。
この子、奥樽家(オタルゲ)先生のクラスに転校生として入ってもらいます」
と校長先生の後ろから現れたのは、涼しいほどの水色の髪に、涼しいほどの水色の眉毛とまつ毛。
その水色の長いまつ毛に守られている、涼しいほどの水色の瞳。
キリッっと鋭くも、どこか気怠さを感じさせる目。
身長も180センチ以上はあろう。鳥愛(とあ)が見上げている。脚も長く、スラッっとしている。
「えっ。えっ?えっ?」
とにかくパニックである。第一に今日から転校生?なにも聞かされてないけど?
第ニに明らかに日本人でないことは明白。日本語喋レマスカ?
「じゃあ、よろしくね」
仏のような笑顔でお辞儀をしてから廊下を歩いて去っていった校長先生。
「あっ…あっ…」
まるで池の周りに人が来たときの鯉のように口をパクパクさせる鳥愛(とあ)。
「イコリ・オース・アイビルです。よろしくお願いします」
「あっ」
アイビルは日本語で挨拶した。
「あっ…えぇ〜っと。ハ…Hi!! My…My name is Toa Otaruge.I…I…I speak English a little」
テンパってなぜか英語で自己紹介する鳥愛(とあ)。その様子に微笑むアイビル。
「先生。日本語で大丈夫です」
「おぉ、あ、そうなのね。そっかそっか」
アイビルのその微笑みを見て
なんだこのイケメンは
と思った。そして
「ちょっと待っててね」
と言い
「はい」
と言うアイビルを廊下に残し、教室に戻る鳥愛(とあ)。
「鳥愛ちゃん、どったの」
「ん?いや実は…っていうか鳥愛ちゃんじゃなくて奥樽家(オタルゲ)先生ね」
「ほおぉ〜い」
「実は、実に急なんですが、転校生を紹介したいと思います」
「えぇ〜」
「えぇ〜!」
「おぉ〜」
「おぉ〜!」
と教室内が一気に騒めく。鳥愛(とあ)はドアに近づいて引き戸を開いて、廊下に顔を出し
「じゃ、入って」
とアイビルに言う。鳥愛の後ろをアイビルがついていく。
アイビルの姿を見た生徒たちは歓声をあげるかと思いきや、イケメンすぎて言葉を失い、静かになった。
鳥愛(とあ)が黒板にチョークでアイビルの名前を書く。そのカンッカンカンカンッという音が響く。
イコリ・オース・アイビル
書き終え、チョークを置く。
「じゃ、自己紹介お願いします」
「イコリ・オース・アイビルです。イギリスからきました。よろしくお願いします」
そのとき初めて
あ、イギリスから来たんだ
と鳥愛(とあ)も思った。パチ。パチパチ。パチパチパチ。パチパチパチパチ。
拍手が1人、2人、3人、4人とどんどんと増えていって、クラス全体が拍手で包まれた。
「イケメン過ぎんだろ!」
「ヤバいんだけど!」
「地毛!?それ地毛!?」
大人気である。
「じゃ」
と名前を言いかけて黒板に自分が書いたアイビルの名前を見る。
イコリ・オース・アイビル
あれ?イギリス人ってことは…イギリスはファーストネーム、ミドルネームにファミリーネーム?
となるとイコリが名前?じゃあ、アイビルくんと呼ぶべきか
と思い
「アイビルくんはあそこ」
と指指す。指指したアイビルの席の隣の席の狩野本(かりのもと) 葉道(はど)が手を挙げ
ブンブン振っている。
「あの狩野本(かりのもと)くんの隣の席ね」
「はい」
アイビルが席に向かって歩く。するとアイビルの歩いた後に残り香が。その匂いが鳥愛(とあ)の鼻に届き
いい匂い…なんの香水つけてんだ?高そうだな。高校生のくせに
と思っていた。それはアイビルが歩いた両サイドの女子はもちろん
男子をも魅力する匂いだった。鳥愛(とは)は教卓に近づく。腰が教卓にあたる。
「いてっ」
中からプリントがヒラッっと落ちる。拾う鳥愛。
あ。昨日配ったプリントだ
アイビルくんにも渡さなきゃと思い、落ちたプリントは教卓の上に置き
教卓の中のプリントを手に持った。葉道(はど)の隣の席に座るべく葉道に近づくアイビル。
「デカっ」
葉道が見上げて驚く。
「何センチ?」
「さあ…わかんない」
アイビルがイスに座る。
「オレ、隣の席の狩野本(かりのもと) 葉道(はど)。
一応?めっ…ちゃカッコいいバンドのギター兼ボーカル?させてもらってます」
めちゃくちゃカッコつけた自己紹介をする葉道。
「イコリ・オース・アイビルです。よろしく」
「よろしく!」
葉道(はど)が手を出す。アイビルも手を出し、握手する2人。
「つめたっ…いねぇ〜」
アイビルの手を握った葉道が驚く。
「手が冷たいってことは心があったかいってことだね」
プリントを持った鳥愛(とあ)がすぐそこに立っていた。
「お!鳥愛(とあ)ちゃん。いいことゆーねぇ〜」
「奥樽家(オタルゲ)先生ね。はい。アイビルくん。これ。
昨日クラスに配ったプリント。たぶんもらってないー…よね?もらってた?」
「いえ」
と食い気味で言い、プリントを受け取るアイビル。すると鳥愛(とあ)の手にアイビルの手が触れた。
あ、ほんとに冷たい。末端冷え症なのかな
と思うが口にも顔にも出さない鳥愛。アイビルに背を向け、教室の前のほうに戻っていく鳥愛。
「…あったかい…」
と呟くアイビル。朝のホームルームは
急遽発生した転校生イベントというビッグイベントを除けば割といつも通り終わった。
職員室に戻る鳥愛(とあ)。
「鳥愛先輩、おかえりなさい」
「ただいまぁ〜…」
「お。どうかしたんすか?」
「私の愛するなんでもない日常にヒビが入り始めた」
「どしたんすか」
俄然気になって身を乗り出す天美(あみ)。
「急にうちのクラスに転校生が来た」
「ほお。え?それは事前に聞いて」
「ない」
「マジっすか?そんなことあるんすか?」
「わからん。あるんかも。なんてったて」
「アイドル?」
「なんてったって担任持ったの去年からだし」
「なるほど」
そんな事前告知なしで転校生なんて、ほとんどありえない。
「おぉ〜。とんでもないイケメンが入ってきたもんだ」
とアイビルの顔を覗き込む女子。
「あ、うちはこいつ(葉道(はど))がボーカルやってるバンドのベースやってます!
羽飛過(うひか) 円(まどか)です!よろしくね!」
手を差し出す円。
「イコリ・オース・アイビルです。よろしく」
立ち上がるアイビル。
「デッカ!」
アイビルが180センチ以上。それに対し円は152センチと小柄である。握手をする2人。
「お!ほんとだ!冷たい!あぁ〜お肌もスベスベだしサラサラァ〜。気持ちいぃ〜」
右手で握手し、左手でアイビルの手の甲を撫で回す円。
「こら。やめなさい、セクハラおばさん」
と円のパーカーのフード部分を掴み、引き剥がす男子。
「誰がおばさんだ!っ、セクシー…っ、お姉さん…でしょうがぁ〜っ」
「それは170センチ、ナイスバディーになってから言ってください」
と言いながらアイビルに視線を移し
「あ、オレはこいつらのバンドのドラムやってます。
鳩群留(はとむど) 蘭(らん)です。よろしくね」
「イコリ・オース・アイビルです。よろしく」
蘭もアイビルと握手する。
お、ほんとに冷んやりしてる。それに肌もスッベスベ
と思ったが、口にも顔にも出さず笑顔で握手を終えた。
「そーいや、こないだ言った曲、どこまで行った?」
「うちはザッっとだけど通せるレベルかなぁ〜。…でもまだつっかえるかも」
「オレはBサビの終わりくらいまでかな。そっからの抑えた感じとラスサビへの盛り上がりがまだ全然」
とバンドのメンバーでのトークが始まった。
「おぉ〜顔ちっちゃ」
とまた女子生徒が寄ってきた。
「あ、私は雨上風(はれかぜ) 万尋(まひろ)。斜め前の席だから、もしかしたらお世話になるかも。よろしく」
「イコリ・オース・アイビルです。よろしく」
万尋は握手をしなかった。
「ねえねえ。イギリス出身でしょ?」
「まあ。うん」
「プロレスって結構ポピュラーだった?」
「プロレス?」
「うん。私さ、プヲタなの」
「プヲタ?」
「プロレスヲタク。めっちゃ好きなの。アメリカンプロレス」
「へぇ〜」
「アメリカでは結構ポピュラーなのは知ってんだけど、イギリスではどうなのかなって。
私の好きな世界最大の団体でUKのグループ作ったんだけど、そんなパッっとしなくてさ。
ま、PLE、前はPPVって言ってた月1のどデカいイベントはイギリスでも大盛況なんだけどさ?」
「うぅ〜ん。そんな盛んってほどではなかったね」
「やっぱそうなんだー。あ、そうだ。私の好きな団体見てみてよ」
とアイビルに団体名を教えて自分の席に戻っていった。
1時間目の授業が始まり、鳥愛(とあ)は2時間目から他のクラスで地理の授業。
3時間目と4時間目も他の学年で地理の授業だった。
一方、3時間目、4時間目は隣のクラスと合同で体育だった。
新学年始まりの体育はお決まりの体力測定。記録用紙が配られ
ペアを組んで長座体前屈やら垂直跳びやら反復横跳び、シャトルランなどをしていく。
葉道(はど)はバンド仲間の蘭とペアを組んだ。
「あ、アイビルくんはさ」
と蘭が1人の男子を連れてきた。
「こいつ、アイビルくんの前の席のやつ。赤馬(アカバ) 士(つかさ)ね」
「…よろしく」
「よろしく」
ということでアイビルは士とペアを組むことになった。まずは長座体前屈から。
「ちょっと…蘭姉ちゃん」
何とは言いませんがいろいろと申し訳ありません。大目に見てやってください。
「兄ちゃんな」
「ちょ…もう無理よ」
「まだいけるって」
蘭が葉道(はど)の背中を押す。
「待って待って待って!アキレス切れるって!」
※長座体前屈で後ろから押してはいけません。一方、士はというと、ぐにょーん。めちゃくちゃ柔らかい。
「おぉ」
ペアにバトンタッチ。
「なんで柔らかいんだよっ!」
葉道(はど)が蘭に仕返しをしようとするが、ある程度柔らかい蘭。
「毎晩ストレッチしてるからな」
「くそっ」
蘭の背中を叩く葉道。
「いった!」
一方、アイビルはというと、ぐにょーん。めちゃくちゃ柔らかい。
「やるね」
お次は反復横跳び。
「はいはい。いけるよー。まだスピード上げられるよぉ〜」
手を叩きながら急かす蘭。
「これがっ!…精一杯っ!…だって…の!…」
「はいはい。口動かさずに足動かすー」
静かにイラッっとする葉道(はど)。
その横で、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ。っとめちゃくちゃ素早く反復横跳びをする士。
「はっや」
士を見て呟く蘭。アイビルは普通の顔をしながら回数を数えていた。
「はあ…はあ…何回だった?」
「あ、ごめん。途中士の早さに目いっちゃって途中から数えてなかったから、もっかいやって」
「おい!」
ペアにバトンタッチ。今度は蘭とアイビルの番。蘭は卒なくこなす。
「はいはいー。まだまだー。いけるよー!」
お返しと言わんばかりに急かす葉道(はど)。
「速いな」
アイビルの反復横跳びを見て呟く士。葉道もアイビルの反復横跳びを見て
「はっや!」
と声をあげた。
「あ、蘭姉ちゃ」
「兄ちゃん」
「ごめん。途中でアイビルの反復横跳びに目奪われて数数えてなかったぁ〜。もっかいやって?」
めちゃくちゃウザい、わざとらしいぶりっ子顔で言う葉道。
「あ、自分で数えてたから平気」
「くそが!」
お次は垂直跳び。
「…よいっしょっ!」
葉道(はど)が跳ぶ。
「おぉ〜。結構跳ぶじゃん」
結構跳んだ。
「いつもテンション上がったときに跳ぶじゃん?今はギターがない分跳べたわけよ」
ドヤ顔ウザいなと思う蘭。その隣で葉道よりも高く跳ぶ士。
「おぉ〜士も跳ぶね」
と蘭が関心する。
「ま。コーナーキックのときジャンプで抜きに出ないとだから」
「なるほどね」
ペアにバトンタッチ。今度は蘭とアイビルの番。蘭がジャンプする。
「お?そんなもんですか、蘭姉」
「兄ちゃんな。ドラムなんて飛んで跳ねないっての」
その横でアイビルはめちゃくちゃ跳んでいた。
「やるじゃん」
士が呟く。お次はシャトルラン。まず葉道(はど)と士。
ドレミファソラシドの音の始めのドがスタートで終わりのドまでにゴールへ行く。
それを数度繰り返して、ドレミファソラシドのピッチが早くなる。
「アイビルくん、運動神経いいんだね」
体育館の体育館で集会があるとき校長先生や他の先生が上がる舞台
文化祭で演劇部や吹奏楽部、バンドが発表をする舞台に座ってアイビルと蘭が話をする。
「そうかな」
「イギリスではふつーだった?」
「あぁ〜…まあ、良い方だったかな」
「だよね。いいなぁ〜」
「別に…」
「あ、蘭でいいよ」
「蘭も運動神経悪くはないでしょ」
「まあ…悪くはないかな?リズム感には自信ありだけど」
と笑顔になる蘭。葉道(はど)もだいぶ粘ったが、脱落。
「お疲れ〜」
「お疲れ」
「うぃ。…サンキュ…あぁ〜っ…キッツ」
「も〜バンドマンに憧れてタバコなんて吸うから〜」
「吸ってないわ!」
「お、元気になった」
結局、最後のほうまで残ったのはサッカー部、野球部、バスケ部、バレー部など
運動部がほとんどだった。その中には士もいた。
結果最後まで残ったのは士だった。数回ウイニングランをして終えた。
「お疲れ〜」
「お疲れい!さすがやん?」
「お疲れ」
「おう。サンキュ」
多少息は上がっているものの、落ち着いていてクールである。
ペアにバトンタッチ。今度はアイビルと蘭の番である。始まる。
「士ー。なんかアイビルのことライバル視してるー?」
舞台上で葉道(はど)が士に喋る。
「ん?なんで?」
「んー?バンドマンの勘?」
聞いたことのない勘の類である。
「その勘はあてになんの?」
「それは士次第じゃない?」
「…まあ。ライバル視ではないけど、運動神経は見てるね」
「ほお。それはなぜに?」
「運動神経良ければ運動部からスカウトあるかもしれないじゃん?
んでサッカー部に来たらポジション争いになるから」
「なるほどなぁ〜」
と納得した後
「どお?あてになったんじゃない?」
と笑顔だけど、どこかドヤ顔の葉道(はど)。
「まあ…」
と話していると蘭が早々に脱落する。
「おいおい蘭姉」
「兄ちゃん…」
疲れていてもそのツッコミは欠かさない。いろいろとファンから苦情が来そうだし、訂正する役である。
「ほらぁ〜タバコ吸うからぁ〜」
これ見よがしに仕返しである。
「マジ?蘭、タバコ吸ってんの?」
さすがに驚く士。
「はあ…今…ツッコんでられん…吸ってない…から」
「なんだ。葉道(はど)のボケか」
ニカーっと笑う葉道。アイビルはというと涼しい顔をして続けている。それがどんどん脱落していき
ほとんど運動部しか残っていない状態でもアイビルは涼しい顔をして走っている。
「お。士先生。どうですか?アイビル選手の体力は?」
アナウンサーのようにマイクを持ったように握った右手を口元にあて喋ってから
その握った右手を士にインタビューするように突き出す葉道(はど)。
「いや。すごいよ」
「でもまだ士の回数までいってないけどね」
と言っているともうそろそろ士と同じ回数に届くくらいになった。
気づけば、運動部も脱落し、アイビル1人に。そして士と同じ回数で脱落した。
「おぉ〜。お疲れぇ〜。アイビルスゲェじゃん!」
「お疲れさまぁ〜。スゴいね」
「お疲れ。ナイファイ」
「ありがと」
その後も体力測定が続いた。3、4時間目の体育が終わり、更衣室で着替えるアイビル、葉道(はど)、蘭、士。
「アイビルはなんか部活とか入んの?」
その質問には敏感な士。
「いや。全然考えてない」
「ほお〜?そーなんだ?」
と言いながら士に近づき、体当たりをする葉道。
「いった」
「士ー!よかったやん!アイビルと仲良くできるな!」
「ん?なんで?」
「いやさ?話してたんだけど、アイビルがサッカー部来たら、ポジション争いになるから
ちょっち、ライバル視してたんだと」
「なるほどね〜」
士がアイビルのほうを向き
「赤馬(アカバ) 士。前の席だから。よろしく」
「イコリ・オース・アイビル。後ろの席。よろしく」
「知ってる」
握手をする2人。
「お。マジで冷んやりしてる」
「イエーイ!これでオレら仲良しやんな!」
と蘭も巻き込んでアイビル、士、蘭に抱きつく葉道(はど)。
「暑苦しい暑苦しい。せめて汗拭きシートで汗吹いてからにしてくれ」
お昼になった。鳥愛(とあ)は4時間目の授業が終わって職員室に帰ってきた。
「おかえりなさーい」
天美(あみ)がイスの背もたれが壊れるんじゃないかというほど反りながら言う。
「ただいま」
「お疲れ様です。お昼食べましょ」
「そうね」
達磨ノ目高校の校舎は割と大きく、食堂も併設されている。
食堂で頼んで食べるも良し、お弁当を持ち込んで食べるも良し。鳥愛(とあ)と天美(あみ)は職員室を出て
職員室前のホワイトボードの自分の名前のところにマーカーで「食堂」と書いてから食堂へ行った。
「鳥愛(とあ)先輩、今度の土日なにしてます?」
「土日…土日…土曜はたぶん仕事」
「持ち帰りで?」
「そう…だね。来週から授業始まるから。あ、ま、正確には今週からなんだけど
今週は説明とか概要とかテストとかそーゆー説明で終わったからさ?」
「本格的な授業って話ですよね」
「そそ。その授業のためのプリント作んないと。出来れば後々楽したいから、次のプリントも作りたい」
「ほえぇ〜大変だ」
「どしたの?」
「いや。ホラー鑑賞会したいな〜って」
「好きだねぇ〜天美(あみ)ちゃんは」
「好きですねぇ〜」
「でも怖がりなんだよね」
「そうなんすよー。だから鳥愛(とあ)先輩に来てほしくて」
「なるほどね。仕事しながらでいいならいいよ」
「マジっすか!」
「いいよいいよ。土曜ね」
「っしゃー!泊まります?」
「ワンチャン。ま、徹で仕事するかもだけど」
「りょーかいっす。手伝えることあれば手伝います」
「助かるわぁ〜」
一方、教室でお昼ご飯を食べるアイビル、葉道(はど)、蘭、士。
「日本語ペラペラよね。どこで学んだの?」
「アニメ」
「ほえぇ〜。さすが日本の文化。世界に誇れるわ」
「あと日本語の曲も聴いたね」
「ほお。なんてバンド?」
「バンドに限んなよ」
「「魔性の果実」とか「魅惑の果実」とか」
「ほおぉ〜。あの今やアイドル的人気の」
「結構コアだったのにね。最近ドンときたよね」
「士はなんの音楽聴くの?」
「オレ?オレはー…洋楽が多いかな。Own DirectionとかLucky Duckyとか」
「あれ?それ両方ともイギリスのグループじゃない?」
「お。蘭知ってんの?」
「いや、日本でも有名でしょ。葉道も知ってるよな?」
「まあ、知ってるけどあんま聴いてはないな」
「それこそイギリス出身のアイビルじゃん。知ってるよね?さすがに」
「「Last first kiss」とかね」
「!好き好き!」
「わかる」
「えぇ〜。なんか3人で盛り上がってんのズルくね?オレも聴こうかな。
Own DirectionとLucky Ducky。あ!なんなら次の課題曲にしちゃう?」
「いいんじゃね?全然バンドじゃないし、5人で歌うやつだし
バリバリ英語だからボーカルキツイだろうけど」
「Oh!!そうか」
そんな会話をしてお昼が終わった。5時間目が始まり、終わり、その日の授業は全て終わりとなった。
「士士」
葉道(はど)が士の名前を呼ぶ。
「なに?」
「明日ってサッカー部練習ある?」
「明日?明日はない。野球部が使うから」
「んじゃーさ。明日アイビルの歓迎会しようぜ」
「「歓迎会?」」
士と蘭がハモる。
「そ!ワック(ワク・デイジーの略称)とかでさ」
「ま、いんじゃね?」
「まあ、いいけど」
「決定ー!んなら明日、放課後行こうぜ!な!アイビル!」
「うん。楽しみ」
職員室でプリント作成などをしていた鳥愛(とあ)が教室に来る。帰りのホームルームが始まる。
「ということで、お疲れ様でした」
「起立」
生徒が立ち上がる。
「礼」
「はい。お疲れ様でした」
教室内が帰りの支度をする生徒、一目散に帰る生徒で騒めき出す。
「葉道(はど)ー蘭姉ー」
「兄ちゃんな」
円が葉道と蘭の名前を呼びながら近づいていく。
「練習行くぞー」
「急かすんじゃないよ」
「いつも通りドラムセット運ぶの頼むわ」
「ういぃ〜」
「こんなか弱い女の子に」
「はいはい」
「流すなしー」
「手伝おうか?」
とアイビルが申し出る。
「お。マジで?」
「それは助かる」
「イケメンは心までイケメンか」
ということで4人は荷物を教室に置いたまま音楽室に向かった。
音楽室に置いてあるドラムセットを4人で多目的教室運ぶ。
「ふぅ〜…アイビルナイス!お陰で早めに運ぶ終わったわ」
「ありがとう!アイビルくん!」
「ありがと、アイビル…もう呼び捨てでいい?」
「いいよ。蘭」
「てかアイビルくんいい声してるよね」
「あぁ、たしかに。葉道(はど)ボーカル解雇してアイビル入れる?」
「あり!」
「あり!じゃねぇーわ!」
「じゃ、オレはここら辺で」
「そっか。じゃ、また明日!」
「明日ね!」
円がハイタッチを求めるように手を挙げる。
「ん?」
「ん!」
無言で手挙げて!と言う円。アイビルが手を挙げる。
「高いな…」
円は少し助走をつけてジャンプしてアイビルとハイタッチをした。
「イエーイ!」
「また明日ね、アイビル」
「うん。また明日。蘭、葉道(はど)…羽飛過(うひか)」
「おぉ〜やっぱイギリス出身でも女子は名前じゃなくて苗字呼びなのね」
「たしかに」
「あ〜ん。イケメンに名前で呼ばれたかったぜ」
アイビルは微笑み、手を振る3人と別れ、多目的教室を出た。
自分の教室に荷物を取りに戻るとアイビルの右斜め前の席の女子が何かを取りに戻ってきていた。
「あ」
向こうが気づく。
「イコリ・オース・アイビルです。斜め前だからお世話になるかもしれませんので、よろしくお願いします」
と自己紹介をした。
「遠空田(とおくだ) ニコです。よろしく」
「ニコ。どんな字書くんですか?」
「…「虹」に「言葉」の「言」で虹言(にこ)」
「すごい綺麗な名前だね」
「…そ、そお?」
「うん。なんで?」
「読めないから。ふつー」
「いいんじゃない?響きだけを重視した読めない名前じゃないでしょ。
「虹」に「言葉」の「言」ってめちゃくちゃ意味ありそうだし。それだけご両親に愛されてるって証拠だね」
静かに喜び、微笑む虹言(にこ)。
「ただ…」
「ただ?」
「アイ○スの子にいるのよ。ニコって名前の子」
「アイ○ス?」
「アイドル○スター。…アイビルくんで、いい、の、かな?」
「うん。いいよ」
「アイビルくん、日本語をアニメで学んだって言ってたよね?ごめんね。聞こえちゃってさ」
「ううん。謝らないで。しょーがないよ。近くで話してたし。
それに聞かれて困る内容でもないし」
「ありがと。アイ○スは日本のアイドルのアニメ。ま、ゲームもあるけど」
「そうなんだ。知らなかった」
「んで、そこに虹って字を使った学校も出てくるのよ」
「あぁ〜ニコに虹」
「そ。だから、それもちょっとあるんだよね。ま、私以外にヲタクいなさそうなんだけどね」
「あ、遠空田(とおくだ)さんはヲタクなんだ」
とアイビルに言われ、目を丸くし、口に手をあて
口が滑ってしまったという表情をする虹言(にこ)。その後、諦めたような表情になり
「そうなの。ま、ヲタクってほどじゃないんだけど。
全然全然。私如きがヲタクなんていったら先人、先輩のヲタクの皆様に失礼にあたるから。
でも、じゃあ、ヲタクになりたいか、なりたくないかって言われたら
そりゃーなりたいに近いかな。2次元好きとしては目指すべきだよね。
ま、2次元好きとは言ったけど、そこら辺の2次元と一緒にされたら困るっていうか
されたくないってほうが正しいかな?そんなそこら辺に転がってる
2次元ブーム、アニメ、マンガブームに乗っかってるニワカと一緒にされると
さすがに心外というか。どうせマンガなんてスマホで読んでるんでしょ?しかも無料で。
ま、別に否定はしませんよ?原作者さまにいくらかは還元されてるんだろうし?
でもやっぱ私は紙媒体ですから。ヲタクを目指す者として紙媒体は買わないと。
購入者特典があるなら、それを目当てに
もうすでに買っている巻であっても喜んで買わせていただきますよね。
あ、これで原作者様へ還元される。これでまた次作への貢献ができたのではないかってね。
そんな思いもない2次元、アニメ、マンガブームに乗ってるだけの一般人とは
アニメ、マンガ、2次元への愛が明らかに違うんですよ。
あんま言葉にも出したくないですけど、実写化されたら見るんでしょ?ドラマでも映画でも。
で、CM用のコメントとかで「すごく原作通りだなって思いました」とか言うんですよ。
は?どこがだよ。目ついてますか?って感じですよ。
あと芸能人でもアニメ、マンガ好き気取ってる人もいるじゃないですか?
あーゆー人がテレビでアニメ、マンガ紹介してんの見ても頭痛くなるんですよね。
気持ちの悪い。それに加えて実写化へのコメント出してたらなおさら気持ち悪いですよね。
二度とアニメ、マンガ好きなんて言わないでほしいレベルに。
あと実写化制作してる人も「いやぁ〜原作ファンで」とか、嘘つけ!って感じ。
あと「ついにあの…が実写化」とかコマーシャルで言ってたりしますけど
なにが「ついに」?誰も待ってないから。特にヲタクの諸先輩方はコ○したいレベルで怒ってるから。
あ、そっか。現実がクソすぎて、もうこっちの次元の出来事には興味ないか。
とにかくそんな偽りの2次元への愛を語ってるニワカ共と一緒にされるなんて…
…考えただけで…おえっって感じ(ペラペラペラペラ)」
怒涛の言葉のラッシュに目を白くさせるアイビル。
「あっ」
口に手をあてる虹言(にこ)。
「ごめん…なさい。私。あ、つい。つまんなかったよね。悪い癖が…」
「いや?楽しかったよ。ちょっと驚いたけど」
と言いながら微笑むアイビル。
「そ、そお?」
「うん。それにそれだけプライドがあって、譲れない
そしてそれだけ熱心に語れるものがあるって幸せだと思うよ」
「そ、そっかな」
少し嬉しそうな虹言(にこ)。
「じゃあ、またヲタトークに付き合ってもらってもいい?」
「いいよ。オレヲタクじゃないけど」
嬉しそうな顔の虹言。
「じゃ、また明日ね。アイビルくん」
「うん。また明日」
手を振って教室を出ていく虹言(にこ)。アイビルも荷物を持って、教室を出て家へと帰った。
陽はだんだんと落ち始め、空がオレンジ色に染まってくると
「もうそろそろ帰んなぁ〜」
と教師たちが教室にいる生徒に帰宅を促す。
もちろん部活の生徒も同じくらいの時間に部活が終わり、帰宅の準備をして帰り始める。
しかし教師たちはまだ帰らない。教室等の戸締りを行い、荷物を持って、ようやく帰れる。
それは私、奥樽家(オタルゲ) 鳥愛(とあ)も、もちろん例外ではない。
やっと帰れる
そう思いながら、イヤホンで大好きな「Talkative eye」や
「UNDER THE MOONLIGHT」「宝背亀(ホウセキ)」「Always a game players(通称:AGP)」
「off world laughing(通称:OWL)」などの曲を聴きながら帰った。
自宅の最寄り駅で降り、スーパーへ立ち寄って出来合いのお惣菜を買って帰る。
料理なんてする暇も気力もない。しかしこれが私の日常。私の愛する変わらぬ日常。
…ま、今日は急な転校生で、変わらぬ日常が崩れかけたけど
しかし、転校生が1人入ってきたところで、然程業務は変わらない。
出欠確認で1人増えるだけ。プリントを印刷する部数が1増えるだけ。
イギリスから来たって言われたときは、英語…コミュニケーションどうしよ。と考えたものだが
アイビルくんはバリバリの日本語を話せると知り、安心した。
明日から、ほんの少しだけ変わったけど、基本的に変わらぬ私の愛する日常が
「先生」
呼ばれて振り返る。そこにはアイビルくんがいた。アイビルくんのことを考えていたら本人が現れた。
運命か?
なんて、バカバカしすぎる考えを振り払うように頭を振る。
「アイビルくん、どうしたの?こんなとこで」
「家、この辺なんで」
「あ、そうなんだ?近いんだね」
「先生…」
「ん?」
「オレ、先生のこと好きです」
私の、私の愛する変わらぬ日常が音を立てて崩れ始めた。
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