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なんとなく、嫌な予感がしていた。勘というやつだろうか。
いや、この施設の空気感からかもしれない。新しい奴らが来ると噂されていて、その奴らにどことなく寒気がやまなかった。
ただでさえ、非人道的なことをしているというのに、今更なにを……。深層部でこれ以上何をする気なんだ。
〈奈落〉については、知らされているわけじゃなかった。偶然、知ってしまった。それだけに過ぎない。知らないほうが、ずっとずっと幸せだった。
knが羨ましい。あいつは〈奈落〉について何も知らないのだから。知らなくて済むのだから。
噂話が広がっていく。言いたかった。呑気に話す奴ら全員に。「そんな生ぬるいものじゃない」と。俺等が歩く地面の下で、何が起きているのか。
「うっ…」
あの文面が蘇り、部屋を出たあとすぐに目眩がした。正気を疑った。〈奈落〉について書かれたあの文章……。
でも、emさんだけは、守らないと……この場所の本当の闇から……。
grからの呼び出しで、朝早くから出かけなきゃいけなくなった。一体、なんなんだ。なぜ、今?
「失礼します。zmです」
会議室のドアをノックすると、grの低い音が聞こえた。
「入れ」
異様に重たい扉を開けると、そこには会議用の長机が置いてあるのみ。奴は、そこに腰掛け、優雅にコーヒーを飲んでいた。
「教育係の総入れ替えを行う」
彼は、コーヒーに砂糖を混ぜながらそう言う。
隣には、2人分の空白を置いて立つkn。いたはずの者たちの、空白。rbrは反逆により殺された。shaのために死ぬなんて、そんなこと、全然アイツらしくない…。rbrの葬儀は執り行われず、遺骨だけ渡された。その日はずっと、小さな箱を、抱きしめて泣いた。
shpは逃亡した。なぜかは知らないけど、knはshpのことを覚えていない。ひとりで、時折独り言のように名前を呟いては、自分自身に困惑していた。その目が、少し潤んでいたのを俺だけが知っている。ciと共に脱出したものの、警察に捕まったらしい。やはり、ここで殺された。わざわざ、ここに連れてきて。
「へえ…」
新しい研究員がやってくるからだろう。別になんの疑問もないけど。
「ちなみに、理由は?」
knも特に興味はなさそうだけど、ひとつだけ聞いた。
「研究は、もう十分だからだ」
「…もう研究は必要ないってこと?」
「少し違う。今の研究員はもう必要ないということだ」
grが唇の端を怪しく持ち上げる。個室の電気が点滅し、ガチャ、と何かの音がなった。耳がいい俺は悟ってしまった。これは、銃の音。
「優秀な研究員が入ったからな。お前たちはもう用済みだ」
バシュッ、とgrの袖から麻酔銃が発射される。意識が急速に遠のく。気づいていたのに、避けられなかった。もし、反逆したらemさんは…そう思うと、動けなかった。
knが膝をつき、倒れこむ。俺も、視界がぐわんぐわんと歪み、もう限界が近かった。
「っは、おま…ッ!」
気力を振り絞り、grを睨む。奴は、薄く笑っただけだった。
意識が、途絶える。
ばしゃっ…
遠くで水の音。ぽたん、ぽたん…と滴る音に加えて、誰かの声。
重いまぶたを開けると、黒いマントがひらめいた。
「お目覚めかな」
「……よお、そんな冷淡な口きけるな」
小さく笑う音。真っ暗闇に閉ざされた空間。悪臭。目を凝らすと見える血痕。
「わざわざ、地下牢獄に連れてきたん?」
「上で殺しをすると鼻のきく連中が煩いからな。その分、ここは特別な許可がないと決して入れないし、出れない」
この牢獄に入るのは二回目だから、すぐわかった。やはりそれも望んだことではないけど。
「ほんま、ビビりやな。バレたくないんやったら、こんなことせえへんほうがええやろ」
「そうせざるをえない」
「……」
後ろで手を拘束されており、動けやしない。代わりに非難の目を贈る。薄っぺらい笑顔はやはり変わらなかった。
「俺はここで殺されるんやろ? …ひとつだけ、守ってほしいことがあるんやけど」
「最後の願いというわけか。いいだろう」
「emさんに、俺の遺体を渡してほしいんや。一部でもいいから」
grの片眉がぴくりと上がる。直後、また微笑を浮かべる。
「ほう…ちなみに、理由は」
「んー…お守りみたいな? やったら、骨のほうがええかもな」
本当に小さく、grの肩が震えた。狂ってる、とそれまた小さく唇が動いた。
「狂ってるのはお互い様や」
思い切り、舌を噛み切る。
人に殺されるような、軟弱な性格はしていない。自ら死ぬほうが、ずっと誇り高い気がする。
出血多量で、俺は死ぬ。
emさんだけは、生きて……俺らの分まで。
「癪やな」
低い声と、びゅんっと風を切る音。
ぁ、
真っ黒な剣が、俺の首に届いた。
真っ黒な空。周りの〝生物〟が嬉しそうになにか言う。
「名前はどうしましょ…」
「zmとか…?」
「いいね」
俺は、地球で生まれなかった。
「地球、どこやろ…」
今日も今日とて、真っ黒な宇宙空間を眺める。瞬く星星。目を凝らしても、見分けがつかない。そもそも、地球が存在するのかさえわからないのに。
実体のない体を、じっと視る。透けた体を通して、わずかに揺れる地面。ボーリングの玉みたいな顔を除けばマジで透明人間。人間と全然違うから、最初は歩くのさえ四苦八苦したけど、最近は慣れたものだ。
「地球って知っとる?」
「チキュー?」
周りの宇宙人─サルガス人。ここの星はサルガスといって、蠍座の尻尾のへんにあたる星。地球が、見えなくもないはず。
でも、周りの人(?)は地球を知らない。誰も宇宙進出なんて考えてへんもんなぁ…。というか、星の外に出ること自体が禁忌みたいなところはあるし。
「はよ星滅ばへんかな…」
前世の未練を果たしたい。自死を選んだのに、結局あいつにとどめ刺されたし…。骨渡してもらえたかな……。
今、あいつらがいる確証もないし、そもそも地球が存在する世界線なのか?あったとしても、たどり着くのはかなり奇跡に近い。俺が死んでから何年経ってるのかもわからへん。
というか、ひとりで脱出すれば良いのでは。…無謀すぎるかぁ…? うーん…。
やっぱ、星ぶっ潰すしかない。じゃないと出られへんくない? 周りに反対される未来しか見えん。いやでも、今まで住まわせてもらったし…。……。
熟考の末、たどり着いた答え。
仕方ない。亡命するか。
――
というわけで、数十年かかったけど、なんとか地球にこれた。材料とか一から集めたもんな…。前世でいろんな機械触ってきただけあって、回路とかは初めてにしてはいい出来。マジで骨が折れた。ないけど。
ただ、乗ってきた宇宙船は見事に木っ端微塵。大気圏の空気摩擦に耐えられなかった。もうあとには下がれない。地球人に見つかったらどうなるかわかったもんじゃないので、フワフワ浮遊しながら探索するつもりである。
頭だけやったら最悪大丈夫。
「いくかあ……」
emさん、今いくつなんやろ…。俺が誕生してから30年は確実に経ってる。いちばん若くて50くらい…? じじいやん。
まあ会えただけで万々歳だけどなぁ。
「え……なんやこれ…」
「あ」
さっそくやらかした。遭遇した誰か。見た目は15歳くらい。
誰かにバラされても、子どもなら、まあ誰も信じないか…じゃあセーフ。
…でも。なーんか、声とか雰囲気emさんに似てるような…。さすがに気のせいか。あいつこんな小さくないし。
「あー…誰にもいわんとって?」
「喋った!!?!?」
そりゃ驚くわ。ボーリングの玉が浮遊してて、しかもそれが話してるから。
「ん? 待って…。ごめんなさい、間違ってたら申し訳ないんですけど」
「え?」
「zmさんですか?」
「は??????」
次から♡達成か、執筆完了で更新することにします。
文章荒すぎる。
♡↬100