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「俺らは支え合いながら、生きていく」
季節は少しずつ冬の気配をまといはじめていた。
部屋の中は暖房が効いているけど、ふたりとも毛布を体に巻きながら床に座っていた。
テレビもつけず、音楽も流れていない静かな夜。
「……なんか最近、疲れること増えたな」
ぽつりと、さとみが言った。
「俺もや。なんか……しんどいっていうか、だるいっていうか。 無理して笑ってるのバレへんようにしてるのも、ちょっと疲れるわ」
ジェルが正直にそう言えるようになったのは、最近の変化だった。
昔なら黙って心に押し込めて、どこかで限界を越えていた。
「俺も同じような感じ。 でも、お前と一緒にいる時間だけは、少しだけマシになれるから……助かってる」
「……俺も、やで」
ふたりはしばらく無言になった。
でもその“無言”は、前よりずっとあたたかかった。
「さとちゃん」
「ん」
「俺ら、さ。 片方がしんどいときは、もう片方が支える――ってやってきたけど……
もし、ふたりとも限界やったら、どうしたらええと思う?」
ジェルの問いは、これまで避けてきた“もしも”の未来だった。
さとみは少し考えて、それから静かに言った。
「そんときは、一緒に倒れよ」
「え?」
「無理にどっちかが“支え役”になろうとするから苦しくなるんだよ。 だったら、ふたりとも疲れてるなら、ふたりで倒れて、 ふたりで泣いて、ふたりで寝て、ふたりで回復しよ」
「……それ、めっちゃいいな」
「どっちかが無理しないと回らない関係じゃなくて、 同じ温度で弱さ見せ合える関係でいたい」
ジェルは、目を伏せて、ふっと笑った。
「昔のおれが聞いたら信じられへん言葉やな、それ」
「今のお前が笑えてるから、ちゃんと届いてるってことだろ」
そう言って、さとみがジェルの頭を撫でた。
「……俺な、思うねん」
「ん?」
「完璧な人間にならなあかんって思ってたけど、 結局“完璧じゃない俺”を受け入れてくれるお前がおるだけで、十分やなって」
「じゃあもう、完璧とか目指すのやめよ」
「せやな。……これからは、ふたりで“弱くてもええやん”って思える時間、作っていこ」
ふたりは、笑い合った。
それは、泣いた夜の数よりも少ない笑顔かもしれない。 けど――その笑顔は、何よりも強かった。
「さとちゃん」
「ん?」
「俺、生きててよかったって思う夜、増えたわ」
「俺も」
そう言って、ふたりは手を取り合った。
しんどい夜も、心が折れそうな日も、たぶんこれからもある。
でも、ひとりじゃない。
互いが、支え合うでも、助けるでもなく――
ただ“そばにいる”ことで、ふたりは生きていける。
それは、決してドラマチックじゃない。
けれど、かけがえのない“ふたりだけの答え”だった。