瞼に触れる光と小さな鳥の鳴き声が、落ちていた意識を浮き上がらせる。2、3度瞬きをして頭を覚醒させると、そこがいつもの自室ではなく、ホテルのベッドであることを思い出す。まだ怠い体を無理やり起き上がらせれば「おはよう、クラピカ」という明るい声が飛んできた。声の方向には、穏やかに笑うゴンの顔。手前のベッドには、猫のように丸くなったキルアが寝息を立てている。「おはよう」と布団から這い出ると、ちょうどキルアも目を覚ましたらしい。寝ぼけ眼を擦りながら「はよ」と言われたので、同じように挨拶を返した。 朝食は昨夜同様、広場のマルシェを利用した。食事の最中、キルアがケーキに乗っていたフルーツをフォークで刺して、無理やり自分の口に突っ込んできた。「うまい?」と聞かれたので、頷くと「そ」と言って、再度ケーキをクラピカの口にねじ込んでくる。意図がわからず「キルアが買ったものだろう」と反論すると「こっちがせっかく用意してんのにさ、食べてもらえないってなんかムカつくよね」と言われた。答えを求めてゴンを見ると「多分、クラピカが悪いよ」と笑顔で答えられ、困惑した。
ベルデに滞在できるのは今日までだ。食事のあとは、広場から程近いスーベニアショップに入った。店内は広く、現地で採れる食料品から謎の置物まで、さまざまなものが並んでいる。その中に目的であるナッツオイルのコーナーを見つけた。フェリペ・マウラは有名なナッツオイルのメーカーで、ベルデを本拠地にしている。名が知れてはいるが、原料が砂漠で育つ希少なナッツであることから、生産量が少なく現地以外ではあまり出回っていない。レオリオが欲しがるのも無理はないだろう。
ナッツオイルを2本購入して空港へ戻り、ゴンとキルアとはそこで別れた。別れ際「これ、レオリオにお土産」と袋を渡された。中身は気味の悪い面だ。だが「魔除けと恋愛成就のご利益があるんだって」と、何の悪意もない笑顔で言われてしまえば、受け取らないわけにいかなかった。
リブロ地方行きのチケットを取り、飛行船に乗る。リブロ最大の都市であるマテマティカの空港で飛行船を降り、列車で2時間ほどのところにあるのが、現在クラピカとレオリオが住むサヴァン市だ。学園都市として知られており、レオリオが通っていた医大や勤務する大学病院もここにある。またこの辺りで最大の規模を誇る図書館もあり、本好きの自分にとっても僥倖な場所であると言える。
自宅に着いたのは夜の9時を回った頃だった。部屋の鍵を回してドアを開けると、明かりが点いていない。リビングに入って蛍光灯のスイッチを入れると、テーブルの上にメモと菓子折りの袋を見つけた。メモには「おかえり。今夜も病院に泊まりだ。飯は冷蔵庫に入ってる。菓子折りはセンリツに渡してくれ」と同居人の字で記載されていた。どうやら相当厄介な状況らしい。
土産は顔を合わせたときにでも渡すかと、キッチンの隅に置いた。シャワーを浴びてベッドに潜ると、すぐ眠りに落ちた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!