⚠️ワンクッション
春竜です。
不穏です。
死ネタです。
⚠️ワンクッション
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人間は脆い。そんなこと、人を殺してきたのだから理解していたはずだ。そう、理解していたはずなのだ。
「はじめまして灰谷竜胆」
_竜胆Side _
竜「おい」
「死ぬ前に遺言でも残したらどうだァ?」
ガタガタと震える「裏切り者」を見下すように吐き捨てた。梵天に所属する竜胆は幹部としてここに来ている。「裏切り者には鉄槌を」これは梵天の絶対的ルールである。
「ヴゥゥ……!!!!!」
竜「あ?口塞がれてちゃ言えねーか」
「取ってやんよ」
シュルル…
「ハァハァ……絶対…絶対殺してやる…!!!!!」
竜「は?何言ってんの」
「お前が裏切ったんだろ」
「自業自得だ」
「じゃーな」と吐き捨て引き金を引いた。鳴り響く銃声と人を殺すことの緊張感で気づくことが出来なかった。
「死ねっっっ!!!!!」
ガンッ!
竜「っ!?」
裏切り者の仲間だろうか。竜胆は背後に隠れていたソイツの攻撃を上手く避けられず、もろに食らった。視界が一瞬揺らぐ。だが、すぐに立て直し鉄パイプを持ち、ぬか喜びをしている「ソイツ」の脳天に鉛玉を撃ち込んだ。
竜「クッソ……」
「血は…出てねーな」
不覚にも頭を思いっきり殴られてしまい、無性に腹が立つ。
竜「はあぁぁぁ……」
「さっさと帰っか」
明らかに不機嫌な面持ちで車へ向かうと、運転席に座る部下の顔色が悪くなった。部下は怯え、すぐさま車を走らせアジトへ向かった。
竜「ボス、帰りました。」
アジトに着き、まず最初にマイキーの元に行く。報告を済ませ、今日はとにかく悪いこと続きだったため、書類作成を放って帰宅した。
蘭「おかえり」
帰宅すると徹夜明けの兄がいた。先日、取引相手の妻に怪我を負わせて始末書を書かされていたのだろう。
竜「…ん」
とにかく気分が優れないため、ろくに挨拶もせず、すぐさま自室にこもった。
殴られた頭に手を置くと少し腫れていた。
竜「タンコブとかだっせー」
思い出したらまた腹が立ち始めたので今日は寝ることにした。
3週間後___
この頃偏頭痛が酷い。最近徹夜続きだったからか。今日は三途と任務だと言うのに。みっともない姿は見せられない。
春「おい」
「そろそろ行くぞ」
竜「あ、ああ」
今回の任務はキャバの店長が梵天に収めるはずの金を偽った可能性があるからだ。もちろんそれは「裏切り行為」であり、真実であれば生かすという選択はない。
「すみません、遅れました」
春「いえいえ」
店長の言葉に対し三途は気前のいい返事をする。内心、腸が煮えくり返るほど怒り狂っているだろうに。
春「灰谷、行くぞ」
竜「ああ」
店長が案内した先のVIPルームで早速詰め寄る。
春「ところで店長さん梵天に隠してることありますよね?」
「え」
「あ、あるわけないじゃないですか!」
竜「本当か?」
「正直俺らはアンタを救おうとしてんだぜ?」
春「そうだ」
「俺らも人は殺したくねぇ」
「アンタが本当のことを言ってくれればボスには黙っておくぜ」
「本当ですか!?」
「実は売り上げ金額を200万ほど偽装したんですっ!!!」
春「そうかそうか」
「だとよ?灰谷。」
竜「ああ」
「残念だよ店長さん」
「裏切り者には鉄槌を。だろ?」
「許すはずがねーよな?」
「え、は?」
「や、やめろっ!」
竜「死ね」
ゴトッ
銃を構え引き金を引く。
その前に銃が手から滑り落ちた。
春「何やってんだよ!」
バンッ
完全にヘマをした。代わりに三途が撃ってくれたが、やらかした。撃つ前に拳銃を落とすなんて聞いたことがない。
竜「は、?」
僅かに右手が震える。偏頭痛もぶり返してき、その場に座り込む。
春「灰谷!何座ってんだ!逃げんぞっ!」
その言葉に、ハッとしその場から逃げ車に乗り込んだ。
春「何してんだよ」
しばらく沈黙が続いた後、三途が口を開いた。
竜「わりぃ」
春「次はねぇからな」
次なんて絶対ない。あってはならない。そう頭の中で繰り返し続けた。
_翌日
バサバサッと書類を落とす。これは今日で2回目だ。
九「おい……いい加減にしろよ」
「はぁ、」とため息をつかれる。
竜「最近徹夜が多かったから」
と言い訳をしておく。実際眠気が凄いのは事実である。そろそろ身体の限界を感じていた。
春「またやってんのか」
コツコツと足音をたて近づき、書類を拾い上げる。
春「お前そろそろ休め」
「仕事引き受けてやるから」
あまりにも唐突で優しい言葉に目を丸くする。その優しさに罪悪感を感じ、断ろうと考えた。しかしこのままでも迷惑をかけるだけなので一旦帰ることにした。
……
家に着く頃にはかなり偏頭痛が酷くなっていた。何故か右手に上手く力が入らず鍵を開けるのに手こずった。
ガチャ…
やっとのことで家に入れ、ソファに倒れ込む。兄はまだ出張中で当分帰ってこないだろう。そんな事を考えているといつの間にか微睡みに溶けていた。
_8:48
目が覚めスマホを覗くと、この数字が見えた。兄はまだ帰ってきてない様で家の中は静寂に満ちていた。
ピロン♪
LI○Eの通知音が鳴り響いた。この通知が来る時は大抵「仕事」か「兄」だ。仕事は明日に回そう。そう考えながらLI○Eを開くと三途からだった。
「お前の仕事終わらせといた」
「体調は?」
普段仕事の連絡しかしてこない三途が事後報告と自分の心配をしていた。思いもしなかった通知に顔が熱くなる。
「寝たら治った」
そう送り再び目を閉じる。お礼は明日しよう。
_3日後
九「お前最近変だぞ」
これを言われるのは九井で2人目だ。1人目は兄ちゃん。朝飯を忘れて出ていこうとしたら言われた。最近忘れっぽくなってきている。三十路を迎えたためだろうか。
竜「ぅ…わ、わりぃ」
九「昨日も締切忘れてただろ」
「今日は名前書き忘れるとか…」
「小学生じゃねーんだぞ」
春「そんくらいにしとけ」
九井に説教を食らっていると三途が割って入ってきた。
竜「お、俺が悪いからいいよ」
春「はぁ…」
「ちょっと来い」
無理矢理腕を引かれ部屋を出る。怒られるのは嫌だな。
春「お前なんかあった?」
竜「…と、特になに、も」
春「……本当か?」
「最近ミスが目立ってんぞ」
「下手したら命危ねーよ」
竜「わ、かってんよっ」
「て、てか俺の命が危なかろうがお前には関係ないだ、ろ」
本当に思い当たる節もない。とにかく三途に説教されるのは尺だったため少し取り乱してしまった。
春「関係なくねーよ」
「俺、お前が大事だから」
竜「……ぇ?」
真剣な眼差しに釘付けになる。こんな表情初めてだ。
春「俺、お前を大切にするから」
「付き合ってくれないか」
竜「…ぁ……いいよ」
なぜ了承をしたのか自分でも理解できなかった。ただほんの少しだけ淡い期待をしてみたかった。
_春千夜Side_
「外傷性慢性硬膜下血腫ですね」
人生で1回聞くかどうかの病名。重い病かどうかも分からない「ソレ」に俺はどうしようもなく怯えていた。
ことの始まりは俺らが付き合ってから翌日の話だ。最近竜胆の話し方がおかしいとは思っていた。すぐに言葉が出てこない様子で少し気がかりだった。
竜「だっ誰だお前っ!」
アジトに着くと竜胆は九井に向けて銃を構えた。状況が理解できなかった。最初はなにかの冗談だと思ったが、あまりにも強ばった表情に冗談だとは思えなかった。
春「何やってんだ竜胆!」
「銃を下ろせ!」
そう咎めると渋々銃を下ろす。
竜「…は、春千夜の知り合い?」
この一言でことの尋常さに瞬時に気づいた。
九「お前何言ってんだよ……」
「冗談も大概にしろ」
竜「え、あ、九井……?」
九「は…?」
この件から竜胆の症状は酷くなっていた。すぐ物を落としたり、口を開くが一切言葉が出てこなかったり、仕事を忘れて突然家に帰ったり。あまりにも仕事に支障を出しっぱなしだったので1回病院へ連れて行くことにした。もちろん梵天が裏で取引をし、金を送っている大学病院だ。
「しかも発見が遅すぎましたね」
「重度です」
「この画像見てください、脳に大きい腫瘍があるでしょう?」
「手術をしても完治は考えられないですね。余命もあと1週間程かと。」
1週間。たったの1週間。脳は半分腫瘍で覆われていた。症状は手足の痙攣、言語障害、記憶障害など。一致していた。
原因は頭に皮下出血の痕があった為、誰かに殴られた事によるものだった。
あまりにも残酷だ。
翌日の朝。家に泊まっていたはずの竜胆が消えていた。俺は焦って家を出た。このまま竜胆が死んでしまうような気がして。
六本木のど真ん中。
ろくに変装もせず、つっ立っている竜胆を見つけた。
春「おい!サツに捕まんぞ!」
竜「………………?」
「……誰だおっさん」
聞きたくなかった。その言葉を1番聞きたくなかったんだ。
蘭に聞くと天竺にいた頃まで記憶が退化していたようだ。
蘭「俺らはずっと一緒にいたから俺のことは覚えてると思うけど…」
蘭は少し申し訳なさそうに俺を見た。
春「同情なんかいらねーよ」
「俺は意地でも思い出させてやるから」
そう笑い飛ばすと蘭は少し安心したようだった。
手始めに竜胆に俺の名前を教えた。それから竜胆は今何をしているか、どこに住んでいるか、梵天のメンバーの名前など……
俺との関係は上司と部下だと教えた。
しかしどれだけ教えても次の日には忘れていた。毎回驚いて毎回喚き散らす。だけど絶対諦めない。俺との関係を思い出すまで絶対。
春「はじめまして灰谷竜胆」
竜「……?誰?」
余命まであと3日
竜胆はもう歩くことすら出来なくなっていた。喋ることもままならない。車椅子の上で1人窓を覗いていた。
春「はじめまして」
竜「………………」
竜「ははっ笑……何言っ、てん…だぁ?」
「春、は、春千、夜」
「恋人…だ、ろ?」
春「……竜胆…」
「そうだな…笑」
不思議そうに笑う竜胆は野に咲く一輪の花だった。
翌日
竜胆は窓から落ちた。
認知症では珍しくない事故死だ。
___余命より2日早かった。
××日後
マイキーが死んだ。
俺が護衛していたにも関わらず目の前で死んだ。
無論梵天は壊滅。
九井は海外に逃げ、蘭と鶴蝶は行方不明。相談役の2人は別の組織に逃げた。
マイキー……
俺はあなたの為にこの身を投げます。
この東京湾に泡として消えてゆくのです。
ああ、竜胆……今行く。
神よ
どうか我が身に鉄槌を。
コメント
3件
うわぁぁぁあ!!泣ける……っっっ………あ、最高でっす…………