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#文豪ストレイドッグス
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いろんなシリーズの中太まとめです。
マフィアではなく、日本の極道設定です。
シチュエーション: 中也は武闘派の若頭。太宰は頭脳明晰な世話役。
いちゃつきポイント: 宴会の席で酔った中也が、強引に太宰を膝の上に乗せる。「お前は俺の所有物だろ」と真っ向から口説かれ、太宰は衆目の前で顔を真っ赤にしてフリーズ。「計算外だ、中也……離してよ……」と小声で懇願する太宰が見どころです。
障子を隔てた向こう側から、野太い笑い声と三味線の音が漏れ聞こえてくる。 関東に根を張る広域指定暴力団・「双黒組」。その定例宴会が執り行われている奥座敷は、文字通り熱狂の渦の中にあった。畳の上には豪華な舟盛りが並び、名だたる極道たちが盃を酌み交わしている。
その宴の中心部、上座にどっしりと胡坐をかいて座っているのが、若頭の中原中也だった。 仕立てのいい黒の着流しを無造作に肌蹴させ、首筋には禍々しくも美しい龍の彫り物が覗いている。その双眸は、酒の熱に浮かされながらも、獲物を射抜くような鋭さを失っていない。
「……中也、少し飲みすぎじゃないか。これ以上は組長への失礼に当たるよ」
その隣で、涼やかな顔をしてお猪口を傾けているのが、若頭世話役の太宰治だ。 彼は組内でも異色の存在だった。荒事には一切手を出さず、その明晰な頭脳だけで組の利権を数倍に跳ね上げ、敵対組織を音もなく潰してきた策士。白いシャツに羽織を引っ掛けただけの、極道らしからぬ風体だが、その眼の奥には底知れない闇が淀んでいる。
「あぁ? うるせェよ、太宰……。めでてぇ席だ、堅苦しいこと言ってんじゃねぇ」
中也は手にした大盃を煽ると、ドサリとそれを膳に置いた。 太宰は溜息をつき、手元の帳面を整える。彼はこの宴の進行から、各支部への目配り、そして酔った中也の制御までを完璧にこなす「計算」で動いていた。
だが、今夜の中也は何かが違った。 酒のせいか、あるいは最近続いた抗争の苛立ちの反動か。中也の視線が、事務的に場を回そうとする太宰の横顔にじっと固定される。
「おい、太宰」
「何だい、中也。おかわりならもう出さないよ」
「黙ってこっち来い」
低く、地這うような声。 太宰が怪訝そうに眉を寄せた瞬間だった。 中也の強靭な腕が、太宰の細い腰を強引に引き寄せた。
「――っ!? ちょっと、中也……!?」
太宰の体が浮く。抵抗する暇も与えず、中也は自分の膝の上に、無理やり太宰を座らせた。 周囲の喧騒が、一瞬で凍りついた。 組員たちの目が点になり、三味線の音が無残に途切れる。組のナンバーツーとナンバースリーによる、前代未聞の事態。
「中也! 離したまえ! 皆が見ているじゃないか、何を考えて――」
「あ? 見てりゃいいじゃねぇか。何か文句あんのか、てめぇら!」
中也が周囲を一喝すると、組員たちは慌てて目を逸らし、再び不自然なほど大きな声で騒ぎ始めた。だが、意識は完全に上座の二人に集中している。
太宰は真っ赤になって中也の肩を押し返そうとしたが、武闘派として鳴らした中也の筋力は、太宰のそれとは比較にならない。がっしりと背中から抱え込まれ、中也の熱い吐息が耳元を掠める。
「離せ……って言ってるんだ。これは私の計算にはなかったよ。君はもっと理性的だと思っていたけれど」
「理性的だぁ? そんなもん、とっくに溝に捨ててきたんだよ」
中也は太宰の項に鼻先を埋め、深く吸い込んだ。 石鹸と、僅かな煙草の香り。計算高く、いつだって自分を手の平で転がそうとする、この忌々しくも愛しい男の匂いだ。
「お前は、俺の『世話役』なんざじゃねぇだろ」
中也の手が、太宰の顎を強引に上向かせる。 至近距離でぶつかる、青と黒の視線。 太宰の瞳が、羞恥と困惑で激しく揺れている。
「いいか、太宰。てめぇは俺の所有物だ。指一本、髪の毛一筋、全部俺のもんだ。他の誰にも、一歩も近づかせねぇ……。それをこの場にいる全員に、焼き付けてやるよ」
堂々たる独占宣言。 これには、流石の太宰も絶句した。 いつもなら「嫌な冗談だね」と軽口を叩いて逃げるところだが、今の中也の瞳に宿る熱は、冗談で済ませられるほど甘くはない。
「……中也……」
太宰の声が震える。 組内でも「心臓に毛が生えている」と噂される死神のような男が、衆目の前で、耳まで真っ赤に染めてフリーズしていた。 計算外。完全なる想定外。 自分が誰かの所有物になるなど、その誇り高い魂が許さないはずだった。だが、中也の腕の中に収まっている今の自分は、不思議なほど無力で、そして――。
「計算外だ、中也……。お願いだから、離してよ……」
太宰は消え入りそうな小声で懇願した。 それはかつてないほど弱々しく、官能的な響きさえ含んでいた。 中也はそんな太宰の様子を愉しむように、唇の端を吊り上げる。
「嫌だね。夜が明けるまで、ここから一歩も降ろしてやらねぇよ」
再び煽られた大盃の酒が、中也の唇から滴り、太宰の着物の合わせ目に落ちていく。 騒がしい宴の席。けれど二人だけの世界は、熱い沈黙に支配されていた。 若頭の腕の中で、策士はただ、その熱に溶かされていくしかなかった。
宴が果てた後。 荒れた座敷には、空いた酒瓶と微かな残り香だけが漂っていた。 中也は、深い眠りについた太宰を横抱きにし、組の奥に構えられた私邸へと向かっていた。
膝の上でフリーズし、最後には酒を飲まされてぐったりと力尽きた太宰。 その寝顔は、普段の毒気が嘘のように幼い。
「……計算通りにいかねぇのが、人生ってもんだろ、太宰」
中也は誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。 彼が太宰を膝に乗せたのは、単なる酔狂ではない。 組内で太宰の頭脳を恐れ、あるいはその美貌に邪な視線を向ける連中への、強烈な威嚇でもあった。
「俺が若頭である限り……。いや、たとえ地獄に落ちようが、お前を離してやるつもりはねぇよ」
自室の布団に太宰を横たえる。 中也はその隣に腰を下ろし、太宰の額にかかった髪を優しく払った。 指先が、熱を持った頬に触れる。
太宰がうっすらと目を開けた。 焦点の定まらない瞳が、目の前の中也を捉える。
「……ちゅう、や……?」
「あぁ、俺だ。大人しく寝てろ」
「……最悪だ。君のせいで、私の威厳は、台無しだよ……」
太宰はそう言いながらも、中也の着流しの袖をぎゅっと掴んだ。 その矛盾した行動に、中也は苦笑いをもらす。
「威厳なんてのは、俺が守ってやる。お前はただ、俺のそばで知恵だけ絞ってりゃいいんだ」
「独裁者だね……。まさに、若頭に、相応しい……」
太宰の言葉は途切れ、再び深い眠りへと落ちていった。 その顔は、先ほどまでの羞恥に染まったものとは違い、どこか安堵の色が混じっているように見えた。
中也は、太宰の掴んでいる袖を離そうとはしなかった。 窓の外では、春の夜風が桜の花びらを散らしている。 極道の道は険しく、血生臭い。 だが、この繋いだ手の中にある確かな熱だけは、何者にも、どんな計算にも、奪わせはしない。
中也は残った酒の酔いと、太宰の体温を感じながら、静かに目を閉じた。 明日になれば、また「若頭」と「世話役」としての喧嘩腰の日常が始まるだろう。 けれど、あの宴の席で刻み込まれた「真実」は、二人の血の中に深く、消えない刺青のように刻まれている。
夜が明けるまで、あと数時間。 二人の静かな時間が、闇の中で深く、濃く、溶け合っていった。
翌朝。 双黒組の若衆たちは、朝から奇妙な光景を目にすることになった。
いつもなら誰よりも早く起きて指示を飛ばしている世話役の太宰が、あろうことか昼過ぎまで姿を見せなかった。 そしてようやく現れた彼は、首元までしっかりと詰まったシャツを着込み、顔を合わせる者すべてに「何か文句があるのかい?」と、今までにないほど冷徹な殺気を振りまいていたのである。
その背後で、若頭の中也が隠しきれない満足げな笑みを浮かべていたことは、組員たちの間では「絶対に触れてはいけない禁忌」として、密かに語り継がれることとなった。
計算高い男の計算を、たった一度の強引さで破壊した、ある春の宴の物語。 二人の歪で純粋な関係は、これからも極道の荒波の中で、狂い咲き続けていくのだ。
爽やかな(?)学園モノです。
シチュエーション: サッカー部エースの中也と、いつも保健室か図書室にいる太宰。実は秘密の付き合い。
いちゃつきポイント: 放課後の誰もいない図書室で、中也が太宰を本棚に追い詰める。「最近、俺を避けてただろ」と低めの声で詰め寄られ、太宰は本を顔に押し当てて赤面を隠そうとする。「……避けてないよ、中也の筋肉が暑苦しいだけだよ」と強がる太宰の顎をクイッと持ち上げる中也。
西日が差し込む放課後の図書室は、静寂そのものだった。 埃っぽい空気と、古びた紙の匂い。 窓の外からは、運動部の威勢のいい掛け声や、ボールが弾む音が微かに聞こえてくる。 そこは、学校という騒がしい箱の中で、太宰治にとって唯一の、誰にも侵されない聖域のはずだった。
「……ふぅ」
図書委員の腕章を巻いた太宰は、貸出カウンターの奥で、気怠げに頬杖をついていた。 目の前には、返却されたばかりの本の山。 彼はその一冊、使い古された文庫本を手に取り、パラパラとページをめくる。 内容は頭に入ってこない。 ただ、その文字の羅列を眺めているだけで、心が落ち着く気がした。
太宰は、この学校では浮いた存在だった。 顔は整っているのに、どこか影があり、いつも保健室か図書室にいる。 体育の授業は当然のようにサボり、集団行動は大嫌い。 教師たちからは問題児扱いされ、生徒たちからは遠巻きにされている。
だが、そんな彼には、誰にも言えない「秘密」があった。
ガタン、と図書室のドアが開く音がした。 太宰はビクリと肩を揺らし、反射的に手にしていた本で顔を隠す。 足音が近づいてくる。 迷いのない、力強い足音。 それは、彼が一番よく知っている、そして今、一番聞きたくない足音だった。
「……太宰」
低い、けれどどこか温かみのある声が、静寂を切り裂いた。 太宰は本の上から、上目遣いで声の主を見る。
そこに立っていたのは、中原中也だった。 サッカー部のエースで、次期キャプテンと目される、学校中の人気者。 泥にまみれたユニフォームの上からジャージを羽織り、首にはタオルをかけている。 スポーツマンらしい、爽やかで、そして、とてつもなく暑苦しい男。
「何だい、中也。図書室は運動部の溜まり場じゃないよ。用がないなら、早く部活に戻ったらどう?」
太宰は努めて冷淡な声を装い、本のページをめくるフリをする。 心臓が、いつになくうるさく脈打っているのを必死に隠しながら。
「用があるから来てんだよ。……てめぇ、最近、俺を避けてただろ」
中也は貸出カウンターを乗り越え、太宰にじりじりと近づいてくる。 その瞳は、獲物を追い詰める肉食獣のように鋭い。
「避けてなんてないよ。気のせいじゃない?」
「気のせいなわけあるか! 保健室に行ってもいねぇし、屋上にもいねぇ。ここに来ても、いつも他の奴と話してやがる」
「それは、図書委員としての業務だよ。君みたいに、部活しか頭にない筋肉莫迦には、理解できないだろうけど」
太宰は精一杯の毒を吐く。 けれど、中也の歩みは止まらない。
「あァ? 誰が筋肉莫迦だ、てめぇ……」
中也は太宰を、背後の本棚へと追い詰めた。 ドサリ、と太宰の背中が本棚に当たる。 逃げ場はない。 中也は太宰の両脇に手を突き、彼を自分の腕の中に閉じ込めた。 「壁ドン」という、少女漫画でしか見たことのない状況。 けれど、目の前の中也から漂う、微かな汗の匂いと、圧倒的な体温が、これが現実であることを突きつけてくる。
「……近いよ、中也。暑苦しい」
太宰は、顔を真っ赤にして、手にしていた本を中也の胸元に押し当てた。 自分の鼓動が、中也に伝わってしまいそうで怖い。
「暑苦しい? ……それが本音か?」
中也は、太宰の言葉を鼻で笑うと、顔をさらに近づけた。 至近距離で見つめ合う、青と黒の瞳。 中也の瞳の奥には、太宰への独占欲と、そして、深い愛おしさが渦巻いている。
「……避けてないよ。ただ、君の筋肉が暑苦しいから、近づきたくないだけだよ」
太宰は、掠れた声で強がった。 けれど、その声は震えていて、説得力など微塵もなかった。
中也は、太宰の顎を、クイッと持ち上げた。 本で隠されていた、太宰の真っ赤な顔が、中也の視線に晒される。 羞恥と、困惑と、そして、微かな期待に揺れる瞳。
「嘘つけ。……てめぇ、俺に会いたくなかったのか?」
中也の声は、今までになく低く、そして優しかった。 その声に、太宰の心は、呆気なく解きほぐされていく。
「……会いたかったよ」
太宰は、蚊の鳴くような声で、ようやく本音を漏らした。 中也を避けていたのは、彼が眩しすぎたからだ。 人気者で、真っ直ぐで、自分とは正反対の世界に住む男。 彼と一緒にいると、自分の醜さが浮き彫りになるようで、怖かった。 けれど、彼に会えない日々は、それ以上に辛かった。
中也は、太宰の言葉を聞くと、満足げに微笑んだ。 そして、そのまま太宰の唇を、自分の唇で塞いだ。
それは、放課後の図書室という、静寂の聖域で、二人の秘密が、確かな形となった瞬間だった。
西日が、二人の影を、長く、濃く、床に落としている。 外からは、まだ、運動部の威勢のいい掛け声が聞こえてくる。 けれど、今の太宰にとって、その声は、もう、遠い世界の出来事のようだった。 彼の世界は今、目の前の中也と、彼から伝わる温かさだけで、満たされていたからだ。
剣と魔法の世界です。
シチュエーション: 王国の守護騎士である中也と、強大な魔力を持つがゆえに孤独な太宰。
いちゃつきポイント: 遠征中のキャンプファイアーの側で。中也が「寒かろう」と自分のマントに太宰を抱き込む。太宰は呪いのせいで人肌に飢えているのに、いざ中也に直球で「お前を守るのは俺だ」と言われると、魔法の詠唱も忘れるほどドギマギしてしまう展開。
深い森の夜は、都市のそれとは比較にならないほど濃く、重い。 王国北方の領地に現れた「次元の歪み」を封じるための遠征。その野営地で、焚き火の爆ぜる音だけが、周囲の沈黙を辛うじて繋ぎ止めていた。
王国の誇る聖騎士団、その若き団長である中原中也は、赤々と燃える炎を見つめながら、傍らに座る男へと視線を巡らせた。
漆黒のローブに身を包み、包帯で覆われた手足を持つ男。 王国最強の魔導師でありながら、その強大すぎる魔力ゆえに「歩く災厄」と忌み嫌われる男、太宰治だ。
太宰の体には、古代の禁忌に触れた代償として「触れるものすべてを内側から焼き尽くす」という呪いが刻まれている。そのため、彼は常に人との接触を避け、結界という名の孤独の中に身を置いていた。
「……おい、太宰。そんな隅っこで縮こまってて、寒くねぇのかよ」
中也が声をかけると、太宰は本から視線を上げ、ふわりと薄笑いを浮かべた。
「おや、中也。騎士団長様は、部下の体調管理まで完璧にこなすつもりかい? 残念ながら、私の呪いは寒ささえも寄せ付けないほど冷酷なんだ。心配には及ばないよ」
いつもの、人を食ったような物言い。 だが中也には分かっていた。太宰の指先が、寒さのせいか、あるいは魔力の暴走を抑え込んでいる反動か、微かに震えていることを。
「減らず口叩いてんじゃねぇよ。お前の呪いがなんだってんだ」
中也は立ち上がり、太宰の隣へと歩み寄った。 太宰は反射的に身を引こうとする。
「よしたまえ、中也。私の結界に触れれば、君の誇り高い聖騎士の加護だって、ひとたまりもないよ。最悪、その右腕が灰になるかもしれない」
「灰にでも何にでもなりゃあいいさ。てめぇを一人で凍えさせておくよりはマシだ」
中也は躊躇うことなく、太宰の結界を力ずくで踏み越えた。 バチリ、と青白い火花が散り、中也の鎧の表面を呪いの残滓が舐める。だが、中也の内に宿る不屈の精神力――「重力」を操る特異な魔力が、それを強引に押さえ込んだ。
「――っ!?」
太宰が驚愕に目を見開いた瞬間。 中也は自分の赤い裏地の付いた重厚なマントを広げ、太宰の肩から背中を包み込むようにして、自分の胸元へと引き寄せた。
「中也、君……正気かい? これほど近くに寄れば、私の呪いが君の心臓を――」
「うるせぇ。黙って温まってろ」
中也の体温が、マントを通じて太宰に伝わる。 太宰は息を呑んだ。 人肌の温もり。それは彼が数年、あるいは十数年もの間、決して手に入れることのできなかった禁断の果実だった。 呪いのせいで、誰かに触れればその相手を殺してしまう。だから、彼は自ら孤独を選んだ。人肌に飢え、心の奥底では誰かに抱きしめられることを熱望しながら、それを悟られないように仮面を被り続けてきたのだ。
中也の腕は、岩のように強固で、そして驚くほど熱い。
「……中也。君の体は、暑苦しいくらいだね。まるで太陽をそのまま飲み込んだみたいだ」
太宰は強がって見せたが、その声は震えていた。 中也の胸の鼓動が、背中越しにトクトクと伝わってくる。生きている人間の、力強いリズム。
「太陽だぁ? そりゃあ光栄なこったな。だがよ、太宰。お前はいつも一人で全部背負い込みすぎなんだよ。呪いだの、災厄だの……。そんなもん、俺が全部叩き潰してやるって言っただろ」
中也の声は、焚き火の爆ぜる音よりも低く、深く太宰の心に響いた。
「お前が魔力を暴走させようが、世界を呪おうが、関係ねぇ。お前を守るのは、王国の騎士としてじゃねぇ。俺個人の意志だ。……お前を守るのは、俺だ」
真っ向からの、迷いのない言葉。 太宰は、魔法の詠唱さえも忘れるほど、激しく動揺した。 何万もの文字、複雑な魔方陣、世界の理を書き換える禁呪。それらすべてを完璧に記憶し、操る魔導師の脳内が、中也のたった一言で真っ白に塗りつぶされる。
「……あ、……えっと、……うぅ……。君は、もっと……こう、空気を読むということを知らないのかい?」
太宰は顔を真っ赤にし、視線を彷徨わせる。 普段の余裕はどこへやら、ドギマギとしたその姿は、強大な魔導師というよりは、恋を知ったばかりの少年のようだった。
「空気? そんなもん読んでたら、てめぇみたいな厄介な奴、救い出せるわけねぇだろ」
中也はフンと鼻で笑うと、マントをさらにきつく締めた。 太宰の細い体が、中也の体格のいい体にすっぽりと収まる。
「中也……、暑いよ。本当に、暑い……」
「我慢しろ。……それとも、嫌か?」
中也が覗き込むようにして尋ねる。 太宰は、中也の青い瞳に見つめられ、逃げ場を失った。 その瞳の中には、自分という「怪物」を恐れる色は微塵もなかった。ただ一人の男として、愛おしそうに自分を見つめる「騎士」がいるだけだ。
「……嫌じゃ、ないよ。……むしろ、……困るんだ。こんなに温かいと、明日からまた一人で寝るのが、嫌になってしまうじゃないか」
太宰は、中也の胸元に顔を埋め、消え入りそうな声で白状した。 中也は満足そうに口角を上げると、太宰の頭の上に自分の顎を乗せた。
「明日も、明後日も、その先もだ。俺がいる限り、一人になんてさせねぇよ」
夜の風が、森の木々を揺らす。 結界を越えて通い合った二人の体温は、冷たい夜気を焼き尽くすほどに濃厚だった。
呪われし魔導師は、初めて「呪い」という運命を、わずかばかり感謝した。 この呪いがあったからこそ、それをねじ伏せてまで会いに来てくれる、この「最高に馬鹿で、最高に愛おしい騎士」に出会えたのだから。
遠征の夜は更けていく。 二人は夜明けまで、重なり合った一つの影として、炎の側で眠りについた。 呪いの鎖は、騎士の情熱という重力によって、静かに、けれど確かに、解き放たれようとしていた。
翌朝。 騎士団の団員たちは、信じられないものを見た。
いつも不機嫌そうに一人で魔法書を読んでいた太宰が、なぜか中也のマントを羽織ったまま、まんざらでもない顔で歩いている。 そして中也は、いつになく上機嫌で、太宰の肩を抱いて「おい、遅れるなよ」と笑いかけていた。
二人の間に漂う、甘く、そして誰にも入り込ませない空気。 王国最強の盾と矛。 その真の結合は、魔力でも契約でもなく、ある寒い夜の「体温」から始まったのである。
物語は、ここから新たな伝説へと加速していく。 二人の歩む道の先に、どんな闇が待ち受けていようとも。 彼らが繋いだ手、共有したマントの熱が、すべての呪いを希望へと変えていくのだから。
ちょっと大人な、落ち着いた日常です。
シチュエーション: すでに付き合っている二人の、夜のひととき。
いちゃつきポイント: 中也が帰宅すると、太宰が玄関まで走ってきて抱きつく(いつもの甘え)。しかし、今日の中也は仕事で機嫌が良く、逆に太宰をひょいと抱き上げて寝室へ運ぼうとする。「わ、私からくっつくのはいいけど、中也から運ばれるのは聞いてないよ!」とバタバタ焦る太宰。守りがガバガバな太宰を中也が楽しむスタイル。
玄関の鍵が回る、金属的な乾いた音がした。 リビングのソファでノートパソコンを叩いていた太宰治は、その音を聞いた瞬間に弾かれたように顔を上げた。画面には書きかけの原稿が並んでいるが、今はそんなことよりも優先すべきことがあった。
「おかえり、中也!」
太宰はスリッパをパタパタと鳴らしながら、玄関へと駆け出す。 扉が開くと同時に、外の夜気と、それから中也が纏っている微かな香水の香りが流れ込んできた。
「おぉ、太宰。ただい……っ、おい!」
中也が言い終える前に、太宰は全力でその胸に飛び込んだ。 仕事帰りのスーツは少し硬くて冷たいけれど、その下にある中也の体温は、いつだって太宰を安心させる。太宰は中也の肩に顔を埋め、大型犬のようにすりすりと頬を寄せた。
「中也、遅いよ。中也がいない間、私はこの広い家で孤独死するかと思ったじゃないか」
「大袈裟なんだよ、てめぇは。たかが数時間の残業だろうが」
中也は呆れたような声を出すが、その手は自然と太宰の背中に回り、優しくその体を支えている。 在宅でフリーランスとして働く太宰にとって、仕事から帰ってくる中也をこうして玄関で迎えるのは、一日のうちで最も重要な儀式だった。外では鉄の仮面を被っている太宰も、この家の中、そして中也の前でだけは、骨抜きになったような甘えん坊になる。
「さぁ、中也。夕飯にする? それとも一緒にお風呂に入る? ……あ、それか私を愛でる?」
太宰は腕の中で顔を上げ、いたずらっぽく微笑んだ。 いつもなら、中也は「まずは飯だろ、腹減ってんだよ」と軽くあしらうか、「うるせぇ、さっさと離れろ」と照れ隠しに小突くのが定番の流れだ。
だが、今日の中也は違った。 中也の唇が、満足げな弧を描く。
「……そうだな。じゃあ、お望み通りにしてやるよ」
「え?」
太宰が瞬きをした、その一瞬。 ふわり、と視界が浮き上がった。
「――わっ!?」
中也が、太宰の膝裏に腕を通し、軽々と「お姫様抱っこ」の形で抱き上げたのだ。 あまりに淀みのない、鮮やかな動作。 太宰は反射的に中也の首に腕を回し、目を丸くした。
「ちょ、中也? 何をしているんだい。降ろしてくれたまえ、私はまだ、今夜のメニューについてのプレゼンを終えていないよ」
「メニューなんてどうでもいい。お前が『愛でろ』っつったんだろ。……今日は機嫌がいいんだ。たっぷり可愛がってやるよ」
中也は太宰を抱えたまま、迷いのない足取りで廊下を進む。 その向かう先は、リビングでも、ダイニングでも、浴室でもない。 二人の寝室だ。
「わ、私からくっつくのはいいけど、中也から運ばれるのは聞いてないよ! 心構えというものがあるだろう!? 待って、中也、一回ステイ! 落ち着こう!」
太宰はバタバタと足を動かして抵抗しようとするが、中也の腕はびくともしない。 普段は言葉巧みに中也を翻弄し、精神的な優位に立っているつもりの太宰だったが、こうして物理的な力で行使される「独占欲」には、驚くほど弱い。
「ステイだぁ? 嫌だね。てめぇが自分から飛び込んできたんだ、最後まで責任取れよ」
「横暴だ! 暴力反対! この野蛮な重力使いめ!」
「ははっ、いいから大人しくしてろ。……耳まで真っ赤だぞ、太宰」
中也が低く笑いながら指摘すると、太宰は言葉を失って口を噤んだ。 自分でもわかる。顔から火が出るほど熱い。 いつだって自分から仕掛けて、中也が赤面するのを楽しんでいたはずなのに、形勢が逆転した途端、このザマだ。
寝室に辿り着くと、中也は足でドアを閉め、太宰をベッドの上にゆっくりと降ろした。 ふかふかのシーツに沈み込む感触。その上に、覆いかぶさるようにして中也が身を乗り出す。
「……中也、君。今日は本当に、様子がおかしいよ」
太宰は上目遣いで、必死に「いつもの自分」を取り戻そうとした。 けれど、中也の瞳は、仕事の疲れなど微塵も感じさせないほど、熱く、艶やかに潤っている。
「おかしくねぇよ。……ただ、帰ってきた瞬間にお前が全力で俺に甘えてくるのが、最高に可愛かっただけだ」
直球。 中原中也という男は、こういう時に決して飾った言葉を使わない。 だからこそ、その言葉は太宰の「ガバガバな防壁」を容易く突き破り、心臓の奥深くまで突き刺さる。
「……あ、……ずるいよ、中也。そんな風に言われたら、私は……」
太宰は自分の顔を隠そうと、腕で目元を覆った。 指の間から覗く唇が、小さく震えている。 中也は、その隠された顔を暴くように、太宰の手首を優しく、けれど拒絶を許さない強さで掴み、枕元へと押し広げた。
「逃がさねぇよ。今夜は、お前が眠いって泣いても離さねぇ」
中也の低い声が、太宰の鼓膜を震わせる。 太宰は、もう抵抗することを諦めた。 いや、最初から抵抗などしたくなかったのかもしれない。 中也に抱き上げられ、運ばれ、支配される。その事実に、自分でも呆れるほどの甘美な悦びを感じてしまっているのだから。
「……降参、だよ。中也の勝ちだ」
太宰は力を抜き、中也の首に再び、今度は自分からしなやかに腕を回した。 中也の唇が、太宰の額、鼻先、そして――。
夜の帳が下りた一室で、二人の時間が甘く溶け合っていく。 明日になれば、また太宰が憎まれ口を叩き、中也がそれに怒る日常が戻ってくるだろう。 けれど、この夜の熱だけは、二人の間にしかない、決して誰にも触れられない「真実」として、深く刻まれていく。
仕事帰りの重力使いと、彼を待ちわびていた死神。 二人の夜は、まだ始まったばかりだった。
ビジネスパートナー……と思いきや?
シチュエーション: 表向きは仲の悪い二人のユニット。でもファンの前では完璧なパフォーマンス。
いちゃつきポイント: ライブ直前の舞台裏。緊張を隠そうとする太宰の手を、中也が黙って握りしめる。「……なんだ、震えてんのか?」と茶化しながらも、指を絡めて恋人繋ぎに。太宰はカメラの前で見せる余裕を失い、「本番前に脈拍を乱さないでよ……」と中也の肩に額を押し当てる。
会場全体を震わせる、数万人の地鳴りのような歓声。 重低音のSEが響き渡る中、ステージ裏の薄暗い通路には、出番を待つアイドルユニット「双黒」の二人がいた。
表向きは「顔を合わせれば喧嘩ばかりの不仲ユニット」として知られる二人だが、そのパフォーマンスのシンクロ率は、他の追随を許さない。ファンはその危うい関係性と、ステージ上での完璧なまでの調和に熱狂していた。
「……ふぅ」
鏡の前で最後の衣装チェックを終えた太宰治は、長い指先で髪を整える。 カメラの前ではいつだって不敵な笑みを浮かべ、何事にも動じない「天才・太宰」を演じきっている彼だが、今夜は少し様子が違った。 照明が落とされた袖口、わずかに差し込む光の中で、太宰の指先が小さく、小刻みに震えている。
数ヶ月にわたるワールドツアーの最終日。 完璧主義者の彼にとって、この重圧は決して無視できるものではなかった。
「おい、太宰」
不意に、すぐ隣から低い声がした。 振り返るまでもない。この場にいる、もう一人の主役。 黒のレザーを基調とした派手な衣装を完璧に着こなし、圧倒的なオーラを放つ中原中也だ。
「何だい、中也。出番前に君の顔を見ると、歌の歌詞を忘れてしまいそうだよ」
太宰はいつもの調子で、軽口を叩いてその場を誤魔化そうとした。 しかし、中也はそれには答えず、無言で太宰の右手を掴んだ。
「――っ、何をして……」
抗議の言葉を飲み込ませるように、中也は力強く、その震える指を自分の指で割って入れた。 指と指が深く絡み合う、「恋人繋ぎ」。
「……なんだ、震えてんのか? 天下の太宰治ともあろう男が、情けねぇな」
中也は茶化すように唇の端を吊り上げる。だが、その握り込む手には、太宰を落ち着かせるための、揺るぎない力が込められていた。
「震えてなんていないよ。これは、武者震いというやつさ」
「嘘つけ。手が冷てぇんだよ。……ほら、貸してろ」
中也はそのまま、太宰の手を自分のポケットの中、あるいは衣装の隙間に引き寄せ、自らの体温を分け与えるように包み込んだ。 グローブ越しではない、生身の肌から伝わってくる中也の体温。 それは驚くほど熱く、太宰の冷え切った焦燥をじわじわと溶かしていく。
「……中也。本番前に、脈拍を乱さないでよ……。これでミスをしたら、全部君のせいだからね」
太宰はもう、余裕を演じ続けることができなかった。 絡められた指先から伝わる心音。中也の鼓動は、驚くほど落ち着いていて、力強い。 太宰は逃げるように、中也の肩に額を押し当てた。 衣装の飾りがカチリと音を立てる。
「あぁ、全部俺のせいにしていいぜ。その代わり、ステージの上じゃあ俺だけ見てろ。俺もお前だけを、一歩も離さねぇように動いてやるからよ」
中也の言葉は、台本にあるどんな甘い歌詞よりも、太宰の胸を深く突いた。 ビジネスパートナー。宿敵。相棒。 世間が彼らに貼るラベルなど、今の二人には何の意味も持たなかった。 ただ、この暗闇の中で繋がれた手の熱だけが、唯一無二の真実だった。
「……君は本当に、ずるい人だね」
太宰は中也の肩越しに、小さく息を吐いた。 震えはいつの間にか止まっていた。 代わりに、胸の奥から湧き上がるのは、この男と一緒なら、どんなステージでも最高の景色に変えられるという、確信に近い高揚感。
「準備はいいか、太宰。世界中を、俺らの色に染め上げてやるぞ」
スタッフが「双黒の二人、入ります!」と声を張り上げる。 中也は太宰の手を一度だけ、これ以上ないほど強く握りしめてから、ゆっくりと離した。
二人がステージへと続く階段を上り、光の中へ足を踏み出す。 その瞬間、太宰の顔には、いつもの完璧で、不敵で、美しく残酷な「天才アイドル」の笑みが戻っていた。
大歓声が爆発する。 スポットライトの下、背中を合わせる二人。 数万人の観客は誰も知らない。 今、華麗なターンを決める直前に、彼らの指先が微かに触れ合い、一瞬だけ「あの楽屋裏の熱」を確認し合ったことを。
最高で、最悪な、二人のステージが幕を開ける。 夜空に輝く北極星のように、彼らは互いを道標にして、どこまでも高く、激しく、輝き続けていく。
ライブ終了後の打ち上げ。 カメラが回っている場所では、相変わらず「アイツの歌い方が気に入らねぇ」「君の声がうるさくて耳が腐ったよ」と罵り合っている二人。 けれど、テーブルの下で、太宰が中也の裾をそっと引っ張り、中也がそれに気付いて、誰にも見えない位置で太宰の指を軽く弾く。
その刹那のやり取りだけで、二人の夜は十分だった。 誰も入り込めない、レンズにも映らない。 「双黒」という名の、二人だけの楽園は、今夜もまた、甘く、深く、続いていく。