夢の中、俺の前に立っている人がいた。おんりーだ。
昔から一緒にいた人。一時も離れることはなかった人。
唯一の親友だった。いや、唯一の”家族”だ。
おんりーのおじいちゃんが亡くなったときのことは、今でも鮮明に覚えている。
おんりーのおじいちゃんは大雨の中、川に流されてしまった。おんりーを庇って流されたんだ。
その日からおんりーは、口数が少なくなり、俺の後ろに立つようになった。
次々と亡くなっていく人々を眺めながら。もちろん、俺とおんりーの家族も友達も亡くなっている。
別れの言葉も言う間もなく。気づいたら遺体になってしまっている。
おんりーは、よく言っていた。「俺は死神だ。」「いつか俺が、おらふくんを殺してしまうんだ。」と。
おんりーは多分、俺が特攻隊員になってしまったのも、自分のせいだと思っている。自分のせいにしてしまう。
でも俺が一番思うのは、おんりーが特攻隊員じゃなくて良かった、ってこと。
おんりーじゃなくて、俺が選ばれて良かった。だって、大切だから。
唯一の家族がいなくなってしまったら、悲しいから。それはおんりーも同じだろうけど。
俺は、運が良い方だと思う。こんな大切な”家族”と出会えて良かった。
俺はみんなと違って、家族との思い出がない。
物心ついた頃には、もう1人だった。
この年齢になるまで生きられたのは、本当に運が良いことだ。
MENと出会って、おんりーとおらふくんと出会って……ドズさんと出会って、4人の存在は”家族”だということに気づいた。
もし、4人がそう思っていなくとも、俺が幸せだから良い。
MENは、冷静な人だ。出会ったときからそうだった。
たまに乱暴になってしまうけど、優しい人だと分かっている。
MENと俺は一人っ子だから、俺のこと「兄弟」って言ってくれたことを嬉しく思っている。
MENは俺のために、食べ物を半分分けてくれたりした。
俺はMENと同じ地域の人じゃなかったから、食料水分は与えられなかった。
でも、MENだけは違った。「同じ人間なんだから、差別することないのにね。」って言ってくれた。それがどれだけ嬉しかったことか。MENは知らないと思う。
いつか、MENに恩返ししたいと思っていたのに……特攻隊員になるなんて。
運が悪い。
いや、これは運が良いというべきだ。
これが成功すれば、世界が平和になるかもしれない。4人の笑顔が増えるかもしれない。そう願って、願って、願い続ける。
この夜が明けたら、特攻隊員出発だ。
ぼんさんとおらふくんは、明日に備えて眠っている。
「おらふくんは、俺を助けてくれたんです。」
おんりーが、星の瞬く空を眺めながら呟いた。
「俺は、おらふくんに毎日のように「俺は死神だから、いつかおらふくんを殺しちゃう。だから、近づかないで。」って言ってたんです。」
おんりーの話によると、おんりーのおじいさんはおんりーを庇って亡くなったらしい。他の家族も友達も、おんりーの知らないところで次々と亡くなってしまっていたんだそう。
「そしたら、おらふくんが「ありがとう。」って言ったんです。」
MENが「訳が分からない。」という顔をしながらおんりーを見た。
「はは、そんな顔すんなってMEN。」
「だって…(笑)」
おんりーが目を瞑って懐かしそうに微笑む。
「「俺を殺したくないから、遠ざけてるんだよね。おんりーは優しいね。」っておらふくんが言ったんです。おらふくん傷つくだろうなって思ったんだけどね……。」
おらふくんのポジティブな性格がよく出てると思う。なんとなく想像できてしまう。
「そんなこと言われると思ってなくて。思わず笑っちゃって。」
「そうだろうな(笑)」
「流石おらふくんだね。」
おんりーが悲しそうに瞳を揺らす。
「俺、おらふくんの優しさに救われて……。」
咄嗟に天を仰ぐおんりーの目には、涙がたっぷり溜まっていた。
「唯一の家族なのに…。」
その言葉に、どんな意味が込められていたかは分からない。でも、辛いのは最大に伝わってくる。
「ぁ……。」
MENが、小さく声を漏らした。MENの目線の方に目を向ける。
そこには、苦しいほど明るい太陽があった。朝日だ。
後ろから足音がして、振り向く。
そこには、準備が完了しているぼんさんとおらふくんが立っていた。
「おはよう!」
ぼんさんが、いつものように笑顔で挨拶をした。
「みんな、何グズグズしてるの?行くよ!」
本当に特攻隊員なのか分からない程元気な2人。その姿に悲しくなってくる。
「ぼんさん、地元の人には手紙書いたの……?」
MENが控えめにぼんさんに問いかけた。
「ん?書くわけ無いじゃん。家族でもあるまいし。」
当然、というように答えるぼんさん。ぼんさんの家族も亡くなっているそう。
「俺の家族は、お前たち4人だけだし。」
これも当然、というように言った。その言葉が、家族を失った僕らにとってどれだけ嬉しいかも分からないくせに……。
こんな楽しい時間はもう終わり。特攻隊員集合場所に着いてしまった。
「はぁ……もう終わりかぁ……。」
いつも元気なぼんさんも、とても辛そうに呟く。おらふくんも目に涙を浮かべていた。
「絶対、5人で夢を叶えような。」
と、ぼんさんが。
「「「「もちろん!」」」」
それに4人で応える。
ぼんさんとおらふくんはペチッと頬を叩いて、僕ら3人より前に出て振り返った。
「「またね。」」
その言葉に、おんりー、MEN、僕は満面の笑みで頷いた。
それから、2人が見えなくなるまで手を振り続けた。
コメント
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ぼんさぁぁん!おらふくぅぅん!( > <。) 皆良い人ですね...!泣かないでぼんおらが見えなくなるまで手を振ってて... でもやっぱり、最期に見る家族の顔は笑っていた方が良いですもんね...!