『貴方ノ為ならどんな罪モ犯ス』〜桃の花は赤く散る〜
第1輪 私ノ執事はどこカおかしイ
私の朝は、ユーハンが起こして始まる。
コンコンッ。
ガチャッ。
ユサユサッ。私は主様の身体を揺らす。
『主様。起きて下さい。』
『後、少し…。』
『あらあら…。その寝顔も素敵ですが、私は起きてる時の主様が見たいです。』
『…そんなふうに言われたら起きないわけにはいかないじゃん…。』
私は起き上がる。
『ふふ、おはようございます。食事の支度ができております。身支度をお手伝いしますね。』
と、言ってユーハンは私のパジャマのボタンにてをかける。
『えっ!?あの、自分で…。』
『何言ってるんですか?私は貴方の執事です。お着替えさせるのも執事の務めです。』
『着替えくらい自分で…!』
『おやもしかして……私に下心があるとお思いで?』
『いやそういう訳では…。』
『私は一度忠誠を誓った相手には献身的に仕える。それが私の流儀です。さぁ、私にお任せ下さい。』
『っ…。』
(ここまで言われたら断れない…いやでも恥ずかしさの方が勝ってる…。)
『でもやっぱり恥ずかしいから…着替え終わるまで、部屋の外に出ててくれる?』
『残念です…分かりました。』
ユーハンは部屋を出ていく。
『…ふぅ。』
シノノメ・ユーハン…彼はデビルズパレス別邸1階の執事だ。彼は忠誠を誓った相手には献身的にお仕えする。そう。主である私に。
(ユーハンらしいっちゃらしいけど…いくらなんでも着替えまではね…。)
『お待たせ、ユーハン。』
ガチャッ
『いえ。大丈夫ですよ。では髪を梳きます。』
『うん。お願い。』
私は櫛を渡してユーハンに髪を梳かしてもらう。
『……。』
(あぁ。なんて無防備なお方だ。こんなにも警戒心がないなんて…私のことを見てないんですね。男として。私は貴方のことを1人の女性として見ていて、こんなにもお慕いしていると言うのに。)
まぁいずれ…その身に解らせてあげますよ。
私が貴方のこと…狂おしい程愛してるってこと。
『はい。出来ました。』
『ありがとう。あれ、この髪飾り…。』
『はい。赤色の紐リボンを付けさせて頂きました。今日の洋服に似合うかなと。』
『ありがとう、ユーハン。じゃあ行こっか。』
『はい。』
ふふっ。鈍感な主様。今日の服に赤色は似合いません。牽制ですよ。他の人へのね。
『頂きます。』
『今日は主様の好物を作りました!たくさん食べてくださいね!』
『うん!ふふ、美味しい!』
『それは良かったです!デザートもありますよ!』
『やったぁ!』
『……ふふっ。』
遠くで主様を見ていた。
可愛らしい笑顔ですね。……私にだけ向けてればいいのに。まぁ、まだダメです。あるじ様が完全に私に堕ちる前に手にかけたら主様が悲しみます。まぁそれもまた一興かもしれません。
『ご馳走様でした。デザートも美味しかったよ。』
『ありがとうございます!』
『あ、いけない。エスポワールに買い物があったんだ。』
『あ、そしたら俺と行きましょう。ちょうど買い出しあったし…。』
『分かった、そしたら一緒に――。』
と、その時――。
『いえ、それなら私が行きますよ。ロノさんはご飯の仕込みがあるでしょうし。』
『え、いいのか?買い出し頼んで。』
『えぇ。では行きましょう。主様。』
『う、うん。』
(今、遮られた――?)
『欲しいものは買えましたか?』
『うん。買い出しも済んだし帰ろっか。』
『えぇ。』
と、屋敷へ向かって歩いていた時――。
ドンッ!
『痛…っ!』
勢いよくぶつかられてしまう。
『あぁ?どこ見て歩いてるんだ。悪魔執事とその主が。』
『主様!お怪我は…!』
『へぇ。俺より先に主の心配か。俺は貴族だぞ?』
『先にぶつかってきたのはそっちですよ。』
『あぁ?俺に楯突くのか?俺はグロバナー家の傘下のトゥルージュ家の長男だぞ。お父様に言えばお前なんて…。』
『グロバナー家を利用するのがあなたのやり方なんですね。なんて汚い…。』
『っ、お前――!』
『っ、ユーハン!!私なら大丈夫…。大丈夫だから…。』
『ですが…!』
『申し訳ございませんでした。私の不注意で…。』
『それでいい。次はないぞ。悪魔執事。』
『……。』
『……。』
私とユーハンは黙って屋敷に帰る。
自室にて。
『あの、ユーハン…。』
『はい。主様。』
『ユーハンが私のためにしてくれてるのは嬉しいけど…少し、やりすぎじゃないかな。』
『……。』
『っ…。』
ユーハンは黙って私を見つめたまま。
『っ、ユーハンの気持ちは嬉しいけど、立場上やり過ぎたらダメって言いたいんだ。私は。相手は貴族だし…後からどんな仕打ちが――。 』
『…かしこまりました。主様がそう言うなら…。』
『ありがとう、ユーハン。』
彼は納得してくれた。と、思っていた――。
まさか、あんなことが起こるなんて――。
シノノメ・ユーハン…彼はデビルズパレス別邸1階の執事だ。彼は忠誠を誓った相手には献身的にお仕えする。そう。主である私に。だが
それは異常な忠誠心だった。私に危害を加える者に対しての異常な執着…。消して許さないという強い信念…。それに対して私は少し恐怖を覚えるのだった。
次回
第2輪 育つノは赤イ執着
コメント
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ユーハン魅力的すぎます!次回も楽しみに待ってます。