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壮輔

38
よか
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109
チュンチュン……
…………朝は嫌いだ。
昔から低血圧もあってか起きるのが本当に苦手だ。 モソモソとベットの布団の中で丸くなりながら鳥のさえずりを聞く。
昨日窓を少し開けて寝たせいで喉が痛い。
秋冬の寒暖差を舐めていたせいで、少し身震いしながらゆっくりと布団から這い出た。
「行ってきます」
両親の写真に挨拶を済ませ、高校への通学路を歩くこと数分、ふと昨日のことを思い出す。
結局あの不審者には適当な嘘をついてサッサとその場を離れた。女の子を助けることには成功したし、久々に暴れられて少しスッキリしたのが本音だ。
体格、力、威圧感。
女の私が男に勝つ方法は竜神の皆が教えてくれた。
素早く敵の急所を狙えば、どんなに劣っていても立ち向かえる。大人数で狙われれば勝ち目は薄いが、それでも何も出来ないわけじゃない。
守られるだけの姫ではなく、皆と肩を並べて戦いたかった。…ま、結局それは叶わなかったんだけど。
いつも渦中に飛び込むより先に守られた。
『お前は傷つくな』と、 幹部の皆に
蓮に
その背に庇われてきた。
下駄箱に着いて鞄から上履きを取り出して履き替える。
相変わらず校舎の中は私の陰口で溢れどうしてこう毎日話すことがあるのだろうかと関心するほどだ。
私の日常は変わらない。
変わるはずがなかった。
あの日、倉庫を追い出され、竜神の姫ではなく無くなった日から、繰り返される。
ドンッ…────!
「キャッ…!」
廊下の角を曲がった時、誰かとぶつかり相手が大きくよろめいて床に尻もちをついた。
慌てて「大丈────」と手を伸ばした瞬間、よく見知った大きな瞳と視線がかち合う。
「つ、むぎ」
久々に口から溢れ出た名は、かつての親友の名前で、まるで何年も口止めされていたかのように歯切れが悪い。
ぶつかったのが私だとわかった瞬間、紬はその大きな瞳を潤ませ、愛らしい唇で「杏ちゃん」と呼びかける。
「ど、どうして意地悪するの。私、杏ちゃんに嫌われるようなことしたかな?」
どうやらわざとぶつかって来たと思っているようだ。
昔から、小動物のようで泣き虫な紬が可愛くて意地らしくて好きだった。
だけど、今は────────
「意地悪じゃないわ。たまたまぶつかって」
「う、うそだよ。こんなに人気のないとこで…」
自分で口に出して不安になったのか、語尾が少し震えている。
確かに朝のHR前の廊下にしては今日は人気が少ない。けど、偶然は偶然だ
「嘘じゃない。紬こそ意地悪したなんて決めつけないで」
スっと紬の前に手を差し出して立ち上がるのを補助する姿勢を取るが、紬が何か思案げに長いまつ毛を伏せる。
「私、杏ちゃんが怖いの。────前みたいに、暴力を振るわれないかって」
紬が話した瞬間、「おいっ!!」と背後から怒号が飛ぶ。
声のした方を振り返ると、今にも飛びかかりそうな大我と、その後ろには竜神の幹部の樹、真守、副総長の宗四郎と、……総長の蓮の姿。
大好きだった人達が、今は酷く恐ろしいと感じる。
あの日以来、会うことなんてなかったのに
無意識に噛んだ口の端から、ほのかに血の味がした。
コメント
1件
杏ちゃん、朝から色々重すぎるよ……低血圧で目覚めて、廊下では陰口聞こえて、ぶつかったと思ったら紬に「暴力を振るわれた」って言われて、しかも蓮たちが後ろにいるっていう。あの「大好きだった人達が、今は酷く恐ろしい」って一文がすごく刺さった。昔守られた記憶があるからこそ、今の距離感が切ない。紬の思惑、気になるなあ。続きが楽しみです。