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“電脳世界裏首脳会議”
通常の世界首脳会議とは異なり、裏に於いて行われる非公式な世界サミットの事である。
世界各国の首脳が狂座の力を介し、電脳通信網――所謂精神体顕現で行われる。
開催地は狂座の中核が在る日本。正確な場所は完全に非公開となっており、裏の者さえその存在を知る者は少ない。また完璧なブロックシステムにより、ハッキング及び情報が漏れる事も無い。
今回の大規模テロ行為によるワシントンD・C壊滅及び、アメリカ大統領死亡を受けて急遽開催された。
ちなみに電脳世界裏首脳会議が行われるのは実に、かの『9・11』テロ以来である。
――少し前、地下会議室内にて。
※自動音声翻訳機――『日本語』
暗く、最低限の照明が各々を照らす室内。その中心に立つ霸屡の姿。
彼だけは精神体としてではなく、実体としてこの緊急サミットに出席していた。
狂座の現責任者代行として、表と裏を繋ぐ中心としてだ。
『困るよ霸屡君!』
『そう、このような事態を未然に防ぎ、内密に処理するのが君達狂座の役目ではないか!』
『しかも被害規模でいえば、かの『9・11』さえも上回り、かつてない世界恐慌が訪れるのは避けられまい』
『つまり非常に不味いのだよこの状況は。今回の件を皮切りに予想されるは、世界情勢そのものはおろか、我々の存命の危機も――』
今回の件に関しては流石の霸屡も頭を痛め、また言い訳も出来なかった。各国の首脳からの批難を、黙したまま真摯に受け止める他無い。
かつて世界中を震撼させた、かの『9・11』テロの時は、世界非常宣言――超法規的依頼を請けた狂座がランクSS依頼として、テロの首謀者と中心人物達を極秘裏に消去殲滅。表に多大な傷痕を残すも、鎮圧し事なきを得たが今回は事情が異なる。
『しかも犯行組織であるネオ・ジェネシス。その首謀者は狂座の元責任者、あのSSS級エリミネーター、コード・ネーム『雪夜』その者という話ではないか』
そう、今回の件が不味いのは正にそこにある。
“ちっ! もう聞き付けましたか……”
一番知られたくない事実を指摘され、霸屡は追い詰められていく。心無しかその額には、冷や汗も滲み出ていた。
『如何に袂を別ったとはいえ、彼が表にまで浸食したのは君達の責でもあると思わぬかね?』
『然り。しかもあの怪物が表立つとするなら、情勢はおろか我々の――世界の根底そのものが覆される事になる』
『分かるかね? 表と裏は決して干渉してはならんのだよ』
世界の首脳達と裏はつながっていた。この事実が公になる事を各国は危惧しているのだ。
「仰せの通りです。彼等『ネオ・ジェネシス』は我等狂座が責任を、身命を以て殲滅します。その為の狂座なのですから」
霸屡は苦しいながらも、その主旨を各国へと伝えた。日本の首脳は居たたまれないのか、未だに発言権を有していない。
『当然だよ。仮に君達が全滅する事態になろうとも、彼等は完全に根絶せねばならない』
『頼むよ霸屡君。何も我々は君だけを責めている訳ではないが、もし万が一の場合、我々も辛い決断をせねばならない事を……』
意味深な一言を最後に、気配が次々と途絶えていく。電脳通信が途絶え、裏首脳会議はこれにて御開きとなったのだ。
「辛い決断ときましたか。愚かな事で……」
霸屡は途絶える前に放たれた最後の一言、その本当の意味を反芻し、含み笑みを浮かべた。そして思う――
“結局滅びるのは何時も自らの手……か。人とは得てして進歩の無い連中で。いや、進化し過ぎた結果招く自業。ユキが切り捨てるのも分かる。本当に正しいのは彼――”
「そして間違っているのは……。ふっ、私が言えた事では無いですがね……」
無人となった地下会議室で一人、霸屡は自傷気味に呟いた。
『は……霸屡君。こ、このままだと――』
全員退席したと思われたが、まだ一人通信を切っていない者が居た。
「御心配無く総理。貴方は国民の不安を煽る事無く、冷静に構えていれば宜しい。その間に……片を付けます」
日本の総理だ。狂座の中核が在る日本とは、御互い特に密接な関係にある。霸屡は取り乱す事無く、冷静な報道を彼に伝えた。
『本当に頼むよ……。このままでは日本そのものが。私はそんな事を国民には伝えられない』
不安を残しながら、日本の首脳も通信を絶つ。
「…………」
今度こそ一人となった霸屡は思う。
“これは日本だけの影響では済むまい”
「遂に彼等も全てを知る時が来たみたいですね……」
ある決断を胸に。そして向かうは五つの反応がある――かの場所へ。
霸屡は分子配列相移転にて、この場からその姿を消したのだった。
************
「――そんな事が有ったのですか……」
如月家自宅内にて、霸屡のこれまでの経緯に納得する琉月。
「胡散臭ぇな。大体何だよ、その裏首脳会議ってのは? そんなもん聞いた事ねぇぞ」
時雨だけは未だに疑って掛かっているが。
「それはそうでしょう。裏に於いても極秘事項であるものを、一介のエリミネーターが知るよしもありません。それより――」
霸屡は軽く受け流す。今優先すべきは――
「早急なエンペラー及び、ネオ・ジェネシスのこれ以上の表侵出阻止。最早一刻の猶予もありません」
そう。それが正に最重要課題。ネオ・ジェネシスが次なる一手を打つ前に。彼等の力は既に表に披露されてしまったのだ。今や世界的危険分子となった彼等を、これ以上野放しにする事は許されない。
「当然だ。勿論、奴等の居場所は既に掴めてんだろうな? 今すぐ乗り込むぞ」
「いえ、残念ですがまだ……。ですので、私達は“あの御方”の力を借り、指示を仰がねばなりません」
逸る時雨を他所に水を差す霸屡だが、別の案が彼にはあった。
「あの御方?」
誰の事だろうか。皆はおろか、琉月にさえ見当が付いていない。
霸屡は少し躊躇いながら、一同を見回し――言った。
「我等が狂座の長。その創始者の事です。貴方達はこれから、あの御方へ謁見して頂きます」
“狂座の創始者”――その単語に一瞬、皆が怪訝に固まる。
「はぁ!? 何言ってんだお前? 狂座の創始者は、あの裏切り者のエンペラーの野郎だろうが!」
誰よりも早く声を上げたのは時雨だ。確かにその通りだ。霸屡の言っている事は矛盾している。
だが幸人と琉月、この二人は違った。
思い出したのだ。かつて仲介室にて、何気無く洩らした霸屡の言葉の意味を。
『狂座創始者のあの御二方』
それがエンペラーである事は当然として、霸屡の言葉を鵜呑みにするなら、もう一人居る事になる。勿論、それが誰だか二人には皆目見当も付かないが。
「勿論そうです。表向きには……ね」
では何故隠す必要があるのか。意味深に語る霸屡を、幸人と琉月の二人は改めて思った。
“狂座には何か重大な事が隠されている”――と。
SS級や統括さえも知らされていない事実。そしてそれを知る霸屡という人物。
“同僚で在りながら得体の知れない”
「狂座はかつて、二人の天才によって創られた組織。世間的には裏に位置する狂座の、表を統治していたのがユキ――エンペラー。そしてその狂座の裏に位置するのがもう一人、あの御方なのです。貴方達が知らないの無理はありません。これを知るのは私と――エンペラーのみなのですから……」