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うりとじゃぱぱ、そしてのあとたっつんからの言葉は、ゆあんとえとの心に、それぞれ小さな火を灯した。ただ「好き」という気持ちを抱えているだけでは、何も変わらない。そのことに、二人は気づき始めていた。
ある日の午後、動画の編集作業が一段落し、ゆあんは共有スペースで軽くストレッチをしていた。すると、キッチンからえとが紅茶を淹れてリビングへやってきた。
「ゆあんくん、お疲れ様。紅茶、飲む?」
えとの優しい声に、ゆあんはドキッとする。こんな風に声をかけてくれること自体は珍しくない。けれど、意識してしまった今、その一つ一つの行動が、ゆあんには特別なものに感じられた。
「あ、ありがとう。いただきます」
ゆあんは、平静を装って紅茶を受け取った。温かいカップが指先に触れ、じんわりと熱が伝わる。
えとが向かい側のソファに座り、自分の紅茶を一口飲んだ。その仕草すら、ゆあんには愛おしく見えた。
(何か、話しかけなきゃ……うりも言ってたじゃないか、「行動すること」って……)
ゆあんは、どうにか話題を見つけようと頭を巡らせた。
「あの、えとさん、最近ハマってることとかある?」
なんとか絞り出したのは、ありきたりな質問だった。しかし、えとは嫌な顔一つせず、楽しそうに答えてくれた。
「えー、なんだろう? 最近はね、新しいカフェ巡りにハマってるかな! この前もね、みんなには内緒で、一人で可愛いカフェに行ってきたんだよ」
えとが、少しはにかんだように笑う。その無邪気な笑顔に、ゆあんの胸はまたキュンとなる。
「へえ、いいね。どんなカフェだったの?」
「それがね、すごくおしゃれで、内装も可愛くて……」
えとは目を輝かせながら、カフェの様子を話し始めた。ゆあんは、えとの話に相槌を打ちながら、ただその声を聞いているだけで幸せな気持ちになった。
(もしかして、今がチャンス……?)
話が一区切りついたところで、ゆあんは勇気を出して言ってみた。
「もしよかったら、今度俺も連れて行ってもらえない? その、えとさんが行ったカフェに……」
ゆあんの言葉に、えとの目がわずかに見開かれた。そして、頬がうっすらと赤くなる。
「えっ、ゆあんくんが? 私で、いいの……?」
「うん。えとさんが好きだって言ってたから、俺も行ってみたいなって……」
ゆあんは、照れくさそうに視線を逸らした。えとは、少し迷った様子だったが、やがてふわりと微笑んだ。
「うん! いいよ! じゃあ、今度一緒に行こうね!」
えとの返事に、ゆあんの心はパッと明るくなった。思い切って誘ってみてよかった。たった一歩の勇気が、こんなにも嬉しい結果をもたらすとは。
一方その頃、えともまた、ゆあんへの気持ちを少しずつ行動に移そうとしていた。
その日の夜、たまたまリビングにいたのは、えと、のあ、そしてうりだけだった。他のメンバーは、それぞれ自室でゲームをしたり、動画編集をしたりしているようだ。
「ねえ、のあさん、うり。私、ゆあんくんに、何かできることないかなって考えてて……」
えとが切り出すと、のあとうりが顔を見合わせた。
「お、ついに来たか、その時が!」
うりが面白そうに言う。
「でも、何をしたらいいか、全然わからなくて……」
えとが悩ましげに眉を下げた。のあが優しくアドバイスする。
「えとさんがいつもやってることで、ゆあんくんが喜ぶこと、考えてみたらどうですか?」
「そうそう。例えば、ゆあん、甘いもの好きだよね? えとさんがお菓子作るの得意だし、そういうのどうかな?」
うりの提案に、えとはハッとした。確かに、ゆあんは甘いものが好きで、えとが作ったお菓子をいつも美味しいと褒めてくれる。
「あ! それ、いいかも! 今度作ってみる!」
えとの顔が、ぱっと明るくなった。
翌日、えとは早速、チョコレートクッキーを焼いた。キッチンには甘い香りが広がり、メンバーたちも「わ、美味しそう!」と興味津々だ。
焼き上がったクッキーを冷まし、丁寧にラッピングをして、えとはゆあんの部屋のドアをノックした。
「ゆ、ゆあんくん、いる?」
「はい? どうぞ」
ゆあんがドアを開けると、えとが少し照れたように立っていた。手には、可愛くラッピングされたクッキーの袋を持っている。
「あの、これ、よかったらどうぞ……。さっき焼いたクッキーなんだけど……」
「えっ! えとさんが焼いてくれたの!?」
ゆあんの目がキラキラと輝いた。予想以上の反応に、えとの顔はさらに赤くなる。
「う、うん……よかったら、食べてみてね」
「ありがとう! いただきます!」
ゆあんは、嬉しそうにクッキーを受け取った。その笑顔に、えとの胸は温かいもので満たされた。
「じゃあ、私、これで……」
えとが立ち去ろうとすると、ゆあんが慌てて声をかけた。
「えとさん! あの、この前のカフェのことなんだけど、いつ行く?」
突然の誘いに、えとは驚いた顔をした。そして、思い出したように頬を染める。
「あ、うん! いつがいいかな? ゆあんくんの都合のいい日で」
「じゃあ、次のオフの日とかどう? 俺、空いてるけど……」
ゆあんの積極的な誘いに、えとは再びドキリとした。ゆあんが、こんな風に自分から誘ってくれるなんて、滅多にないことだ。
「うん! いいよ! じゃあ、次のオフの日ね! 楽しみにしてる!」
えとは、弾んだ声でそう答えると、嬉しそうに自分の部屋へと戻っていった。
ゆあんは、手に持ったクッキーの袋をぎゅっと握りしめた。クッキーから漂う甘い香りと同じくらい、心が甘く、そして温かい気持ちでいっぱいになった。
「やった……」
ゆあんは、そっと小さく呟いた。
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