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約束の日、ゆあんは朝から落ち着かなかった。シェアハウスのリビングで、スマホをいじるふりをしながら、何度もえとの部屋の方に目をやる。
「ゆあんくん、そんなにソワソワしてどうしたん? デートか?」
ゲームをしていたたっつんが、ニヤニヤしながら声をかけてきた。じゃぱぱも横で笑っている。
「ち、違う! ただちょっと、出かけるだけ!」
ゆあんは慌てて否定したが、顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「へえ~、誰とだろな~?」
じゃぱぱがさらにからかってくる。その時、ひょっこり部屋からえとが顔を出した。
「ゆあんくん、お待たせ!」
えとは淡い色のワンピースに身を包み、少し緊張したような、でも嬉しそうな笑顔を見せた。その姿に、ゆあんは思わず見とれてしまう。
「えとさん……っ」
「おー! ええやん、えとさん! デート楽しんでこいやー!」
たっつんが大声で茶化す。えともゆあんも、顔を真っ赤にしてたっつんを睨んだ。
「たっつん! もう!」
「じゃ、じゃあ、行ってきます!」
ゆあんは慌ててえとと共にシェアハウスを後にした。後ろから聞こえるメンバーたちの楽しそうな声に、二人は思わず笑い合った。
二人で電車に乗り、えとが教えてくれたカフェへと向かう。普段は大人数でワイワイと移動することが多いため、二人きりの空間は新鮮で、少しだけ気恥ずかしかった。
「ねえ、電車、大丈夫? 混んでるけど」
ゆあんが気を遣って尋ねると、えとはにこりと笑った。
「うん、全然大丈夫だよ! 今日、ゆあんくんが来てくれるって言ってくれて、すっごく楽しみにしてたんだ!」
えとのまっすぐな言葉に、ゆあんの胸は温かくなる。
目的の駅に着き、えとが「こっちだよ!」と元気よく案内してくれた。商店街の脇道を入ると、すぐに可愛らしいカフェが見えてきた。木製のドアに小さな看板が掛かっていて、店内からはコーヒーの香りが漂ってくる。
「ここが、私が言ってたカフェだよ!」
えとが嬉しそうにカフェを指さした。店内は想像していた通り、おしゃれで落ち着いた雰囲気だった。窓際の席に座り、それぞれ飲み物を注文する。
「本当に可愛いカフェだね。えとさんらしいっていうか……」
ゆあんが素直な感想を言うと、えとは少し照れたように笑った。
「えへへ、ありがとう! ゆあんくんも気に入ってくれてよかった」
他愛ない会話から、二人のデートは始まった。お互いの好きなもの、最近あった面白い出来事、動画撮影の裏話……。普段、シェアハウスで話していることと大差ないはずなのに、二人きりで話していると、なぜか特別に感じられた。
ゆあんは、えとが楽しそうに話す姿を見ているだけで幸せだった。えとの声、笑い声、表情の全てが、ゆあんの心を鷲掴みにする。時折、えとがゆあんの目を見て話す度に、ゆあんの心臓は激しく音を立てた。
(こんな時間が、ずっと続けばいいのに……)
そんなことを考えていると、ふいにえとが真剣な表情でゆあんを見つめた。
「ねぇ、ゆあんくん。私ね、ゆあんくんのこと、すごく尊敬してるんだ」
「えっ? 俺?」
思わぬ言葉に、ゆあんは驚いた。
「うん。いつも冷静で、どんな時も周りをよく見てるし。動画の企画でも、ゆあんくんの意見はいつも的確で、本当にすごいなって思うんだ」
えとが真っ直ぐな瞳で自分を褒めてくれることに、ゆあんは照れくささと同時に、深い喜びを感じた。
「ありがとう……えとさんも、いつも周りを明るくしてくれて、みんなえとさんの笑顔に元気もらってると思うよ」
ゆあんも精一杯の気持ちを込めて伝えた。えとは少しはにかみながら、「そんなことないよ」と笑った。
カフェを出た後、二人は近くの公園を散歩した。夕焼けが空をオレンジ色に染め始め、風が心地よく吹き抜ける。普段は賑やかなメンバーに囲まれている二人が、こうして静かに並んで歩いているのは、とても不思議な感覚だった。
ベンチに座り、沈んでいく夕日を眺めていると、えとがポツリと呟いた。
「今日は、本当に楽しかったな……ゆあんくんとこんな風に二人きりで出かけるなんて、思ってもなかったから……」
その言葉に、ゆあんの胸の奥で、決意が固まった。今日感じたこの温かい気持ち、この幸せな時間を、ずっと大切にしたい。そして、この気持ちを、ちゃんとえとに伝えたい。
ゆあんは、ゆっくりとえとの方に向き直った。心臓が大きく脈打っている。
「えとさん……」
ゆあんの真剣な声に、えともゆあんの方を向いた。その瞳には、少しだけ戸惑いの色が浮かんでいる。
「あの……俺、」
ゆあんの声は、少し震えていた。しかし、ここで引いてはいけない。うりくんの言葉を思い出す。「行動すること」。
「俺、えとさんのこと……好きです」
ゆあんの口から出た言葉は、思ったよりもはっきりと、澄んだ空気の中に響いた。えとの目が大きく見開かれ、そして、ゆっくりと頬が赤く染まっていく。
沈黙が、二人の間に流れた。夕日の光が、えとの顔を照らし、その表情をゆあんはただ見つめることしかできない。鼓動が、うるさいくらいに聞こえる。
「……ゆ、ゆあんくん……」
えとが、か細い声でゆあんの名前を呼んだ。その瞳には、少しだけ潤みが浮かんでいるように見えた。
ゆあんは、えとがどんな答えを出すのか、怖くて、でも知りたくて、じっとえとの返事を待った。公園の片隅で、二人の世界だけが、止まっているかのように感じられた。
お熱いことでw あ、介入しちゃってすいません(たち)