テラーノベル
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「いらっしゃいませ。あ、中西か」
ランチ客がいなくなった店内から聞こえたマスターの声に
……はぁ……
氷を作っていた私の手が、止まった。
「直美」
「お疲れ様…昨日と連続で来るって、珍しいな。仕事ええの?」
「会社に戻るほどは時間がないし、ちょうどええねん。直美は心配せんでも大丈夫や。何がある?」
「ローストビーフサンドかポテサラサンド」
仕事中にここへ来た夫は、ハムサンドではすぐにお腹がすいてしまうから、ボリュームのあるサンドイッチを食べる。
ここには珈琲の香りを妨げるような、洋食屋さんのようなメニューはない。
他の定食屋さんとかで食べる方が腹もちがいいのに…しかも今週は昨日と今日の連続来店だ。
カウンターに座った夫は、ゆっくりと後ろを向いて店内を見ている。
「今日もいいお客さんばかり」
マスターがお客さんに聞こえてもいいように言うと、夫は頷いている。
何の確認や…いつ来たって、同じことなのに。
「直美、気を付けて帰れよ」
「うん、ありがとう。ハルくんも頑張って」
「真っ直ぐ帰れよ?買い物は明後日の土曜に一緒に行けるからな」
「あ…うん、わかった」
手を振って仕事に戻って行った夫を見送ってから、しばらくすると私も帰る時間だ。
「お疲れ様でしたぁ。直美さん、時間だよね?」
マスターの奥さんのアキさんが、階段を降りてカウンターの中へやって来た。
「はい」
最後の洗い物をする私の横で
「また今、中西が来てた」
と、マスターがアキさんにエプロンを渡しながら言う。
「また?いや、もちろん来てもらっていいんだけど」
「可愛い奥さんのことが気になってしょうがないって感じだね」
「それはそうだけど……」
アキさんは、言葉を探すように私を見てから
「軽くストーカー入った旦那さんって感じが、無きにしも非ず…だね」
シリアスな雰囲気を避けたのか、明るく笑いながら言った。
……ストーカー……か。
コメント
1件
アキさんもそう思う? ちょっと尋常じゃないよね…