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ルン
121
#BL松
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51
「逃避行へ、行きませんか」そう言われたのは、よく晴れた日の朝だった。
英「…逃避行」
その言葉を噛み砕く様に、繰り返した。
日「少しだけ、旅行感覚で」
日「…別にいいでしょう?」
彼はそう聞き、軽く首を傾げてみせた。
英「……構いませんよ」
英「貴方がそこまで言うのなら」
ふっと息を小さく吐く。
少しの間があり、彼は小さく微笑んだ。
日「ありがとうございます」
一拍置いて、彼は窓の外に視線を流す。
日「……では、少しだけ世界から逃げましょうか」
───今思えばこの承諾が、物語の始まりだったのだろう。
英「……ところで、いつ行くご予定で?」
ふと、思いついたかの様に問うた。
日「今日です」
英「……今日、ですか」
一瞬、言葉の意味を咀嚼する。
日「えぇ」
当然の様に返される声。
その軽さに、僅かに息が詰まる。
英 (……本当に、今から)
準備をする時間も、別れを告げる時間もない。
ただ「逃避行」という言葉だけが、すでに現実に形を持ち始めていた。
英「…随分と、急ですね」
日「逃避行ですから」
短い返答。
まるでそれ以上の理由など、最初から存在しないかのように。
英「……そう、ですか」
小さく目を伏せる。
日「では、出かけましょうか」
そう言うと、彼は当然の様に歩き出した。
英「…本当にこのまま行くんですか」
思わず問いかける。
日「えぇ」
日「十分でしょう」
イギリスは一瞬だけ、自分の部屋へ視線をやる。
いつも通りの景色。
けれど今日は、それがやけに遠く見えた。
英 (……戻るつもりは、無いんですね)
玄関を出ると、光が思ったより強かった。
英「……眩しいですね」
日「晴れですから」
じめじめとしたアスファルトを歩く、2人分の足音がする。
英「……本当に、これで良かったんですか」
ぽつりと溢れた言葉は、ほとんど風に消えた。
日「…何がですか」
振り返りもせず、歩みだけが続く。
英「全て、です」
日「…まだ、始まったばかりですよ」
駅へ向かう道は、思ったより静かだった。
人の声も、風の音もどこか遠い。
ただ、足音だけが現実に残っている。
英 (……逃げているのは、どちらなんでしょう)
やがて、駅の建物が見えてきた。
英「……もう着くんですね」
日「えぇ」
いつも通りの返事。
それだけで終わるはずだった。
イギリスは足を止めることなく、その横顔を見た。
日「…何か」
英「いえ」
言いかけた口を噤む。
駅の構内へ足を踏み入れた瞬間、音が変わった。
外の静けさが途切れ、人の気配が一気に濃くなる。
英 (…現実に、戻されますね)
日「行きますよ」
歩み出す日本の後ろ姿に、一歩遅れてその背中を追う。
改札の音、遠くのアナウンス、誰かの足音。
全部が混ざって、妙に現実的だった。
ホームに出ると、風が少しだけ強くなった。
線路の向こうに、まだ何もいない空間が広がっている。
英 (…まだ、戻れる距離だ)
列車の音がホームを切り裂く、甲高い音。
日「……行きますよ」
彼は軽く振り返り、電車へ向かう。
彼の背中を追う。
一歩、遅れて。
扉が開く音がした。
金属の匂いと、わずかな風。
英 (……本当に、戻らないのですね)
英「これで…終わりですか」
日「…いいえ、始まりですよ」
列車の扉が閉まる。
空気が一度だけ揺れて、外の音が遠ざかる。
───ゆっくりと、車輪が動き出した。
遠ざかる音だけが、しばらく残っていた。
コメント
3件
うわあ、すごく静かなのに、心臓がぎゅっとなるようなお話でした…!「逃避行」って言葉が、旅行みたいに軽く出てくるのと、実際の切実さとのギャップがたまらないですね。特に「戻るつもりは無いんですね」の英さんの気づきの瞬間、胸が痛くなりました。晴れた朝の眩しさと、決断の重たさの対比が美しいです。続きが気になります…!🌷