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風宮 むぅまろ🦇🍀︎ 🍬🍚
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「お疲れ様。やっと終わったね、しのぶちゃん」セットの端にある長椅子に腰を下ろしていた童磨が、メイクを落とす間もなく駆け寄ってきた彼女を、いつもの柔らかな微笑みで迎えた。カメラが止まれば、そこには万世極楽教の教祖も、蟲柱としての険しさもない。ただ、互いに想い合う二人の時間が流れるだけだ。
「ええ、本当にお疲れ様でした。最後、ちゃんと刺せていましたか?」
しのぶが少し息を切らしながら尋ねると、童磨は「完璧だったよ」と言って、彼女の細い手首を優しく取った。劇中ではあんなに冷酷に命を奪い合った二人だが、今はその肌の温もりが心地いい。
「ねえ、しのぶちゃん。せっかく大仕事を終えたんだし、ちょっと甘えてもいいかな」
童磨が茶目っ気たっぷりに目を細めると、彼はそのまま自分の膝を軽く叩いた。いわゆる「おしまが」、膝枕の催促だ。
しのぶは一瞬、周囲に誰もいないことを確認してから、ふっと毒気の抜けた笑みをこぼした。
「……もう。わがままですね」
口ではそう言いながらも、彼女は躊躇うことなく彼の膝に頭を預けた。重なり合う衣装の擦れる音が、静かなスタジオの片隅に響く。
見上げれば、童磨の虹色の瞳が優しく自分を見つめている。彼はそっと、しのぶのサイドの髪を耳にかけ、その額を指先でなぞった。
「しのぶちゃんの頭、意外と重みがあるんだね。たくさんのことを考えて、一生懸命頑張ってきた証拠かな」
「……あなたの膝が硬いだけですよ」
しのぶはわざとそっけない態度を取ったが、童磨の指が髪を梳くたびに、強張っていた肩の力が抜けていくのがわかった。童磨はそのまま、愛おしそうに彼女の頬を撫で続ける。
「このまま眠っちゃってもいいよ。僕がずっと、こうして支えてるから」
その声はどこまでも穏やかで、劇中のあの空虚な響きは微塵も感じられない。しのぶはゆっくりと目を閉じ、彼から伝わる確かな体温に身を委ねた。
「……明日も、明後日も、こうしていられますか?」
「もちろん。これからはもう、毒も刀もいらない世界で、僕の隣にいてよ」
童磨のささやきに応えるように、しのぶは彼の指先をぎゅっと握りしめた。戦いの幕は下り、二人の間にはただ、穏やかで甘い時間が、おしまがの温もりと共に溶け合っていった。