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「ヤメロォォォ!!」
“ザシュッ”
刃に肉を通す時の独特の不協和音が、絶叫と共に辺りに響き渡る。
「イヤァァァアァァ!!」
“ブシュッ”
「ヤメエェェエェェェ!!」
“ドシュッ”
「アベァッ!?」
“ゴトッ”
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、と摘んでは椿の様に落ち、転がり積み重なる赤い玉。
無慈悲なまでに淡々と進行していく、理不尽の極み。
声にならない悲痛な絶叫と、吐き気を催す程の独特な鉄分の臭気が支配する此処は正に、この世の地獄と称するに足る光景であった。
「フフフ……ハハハハハ!」
そんな地獄絵図を玉座に居座ったまま、高見の見物を決め込む第三軍団長シンの狡猾な笑い声が、虚しいまでの命乞いを掻き消していく。
「素晴らしい……最高の宴だ」
血の臭いに酔ったのか、酒に酔ったのか。この饗宴にシンの昂りは留まる事を知らず、両手で拍手しながら煽り続けた。
“狂っている”
まだ生きている者達は、絶望の淵に立たされながら思う。だが、それもすぐに消えていくであろう事に。
「さあ、次は……」
シンの戦慄的な次の裁定に、誰もが震撼する。
「餓鬼の悲鳴を聴かせて貰おうか」
*
「やめてくれぇっ! 幼子だけはやめてくれえぇ!!」
絶叫が響き渡る中、年端もいかぬ娘子が無理矢理引きずられる様に、刑場に首を差し出された。
「うあぇえぇぇぇぇんっ!」
言葉にならない幼子の鳴き声。その顔は涙と鼻水で、くしゃくしゃに歪んでいる。
その背後に立ち掲げられた、血糊がこびり付いた刃が妖しく煌めいていた。
「どうしてこんな事を!? この鬼! 人でなしぃ!!」
飛び交う怒号。寧ろシンはその声の響きが心地好いかの様に、恍惚の笑み浮かべ身震いする。
「フフフ、嫌がる者を無理矢理殺るから愉しいのだ。特に餓鬼の鳴き声は最高の肴となる」
それは常人の理解を越えた、精神悦楽の絶頂。
「もう堪らない……殺れ!」
シンの非情な執行の声が、刑場に響き渡る。
「はっ!」
その執行の声を待っていた部下の、上段に高く掲げられていた刃が、幼子の頸椎目掛けて降り下ろされようとしていた。
「いやあぁあぁぁぁ!!」
交錯する悲痛な叫び声。訪れる惨劇の刻。
“ーーっ!?”
だがこれまでに無い、確かな違和感。
「……何をしている? さっさと殺れぃ!」
何時まで経っても、固まったかの様に刀を降り下ろさない部下の不可解さに、シンは業を煮やしたかの様に声を荒げる。
何時までと云っても、それはほんの僅かな間の事だが、シンにとっては興醒めするに等しい程の部下の意外な醜態であった。
「いっ……いえ、手が動かないのです!」
「ああん?」
部下の戯れ言にシンは苛立だしげに吐き捨てながら、刀を持つその両手を凝視する。
「なっ!?」
その状況に、シンは思わず目を見張った。
何故なら部下の両腕は、刀を振り上げたまま凍結していたのだから。
その状況に思考が停止していた、次の瞬間の事。
「ぐあぁっ!!」
刀を振り上げて固まっていた部下が、突如血飛沫と共に崩れ落ちる。
「何だ!?」
突然の出来事に、シンは思わず声を上げる。それは疾風の如き速さで、何者かが斬り抜いた姿を確かに捉えたのだから。
「誰だ、こいつは?」
刑場に突如、斬り込んだ一人の人物。
美しい艷やかな長い黒髪を靡かせ、巫女衣装を纏う少女。
そしてその傍らには同じ衣装を纏い、その少女より一回り幼き少女の姿。先程の部下を凍結させたと思わしき証で有るかの様に、その少女の周りには氷の欠片が漂っている。
アミとミオ、その二人の姿が其処に在った。
「「ぎゃあぁっ!!」」
更に断末魔の声が、多重に反響し合いながら聞こえてくる。
シンがその声の方へ振り向いた矢先、部下の軍団員以下四名が同時に崩れ落ちていく姿を見た。
一瞬で斬り伏せた合間に歩み寄る、三度笠を深く被る侍風貌の人物。顔を上げたその隻眼の瞳に怒りを宿した、柳生ジュウベエの姿も此処に在った。
「酷い……」
アミは幼子を縛りつける縄を、手に持つ小太刀を通して開放しながら、その現状に思わず目を背けそうになる。
「姉様、こいつら許せない!」
無意味な殺戮に対する憤り。それはミオも否、誰もが同じ気持ち。
「おのれら……許せん!!」
ジュウベエもシン以下、狂座の軍団員全てに刃を向け、憤慨を顕にしていた。
「フン……」
その突然の襲撃に乱される事無く、シンは未だに玉座に居座ったまま、サーモに依る三人の戦力解析を行っていた。
「……女の方が侍レベル六十八、小さい方が五十九か」
サーモの液晶画面に表示された、アミとミオの数値を見ながら感慨深そうに呟く。
「ホウ……男の方は九十七か! 臨界値に近いが、まあ所詮は通常範囲内に過ぎん」
解析を終えたシンは、妖しい笑みを浮かべた。余裕の顕れかの様に、玉座に居座ったままだ。
「雑魚共が。たかだか三匹で我等に歯向かおうとするとはな!」
そう吐き捨てながら、シンは右手をサッと軽く上げる。
それは以心伝心、部下達への合図。
玉座に居座るシンを守るかの様に、統率のとれた軍団員達が陣形を組み、三人に刃を向けて敵意を顕にする。
どう見ても多勢に無勢の状況に、シンは高らかに笑った。
「フハハハ! 達磨ばかりで退屈していた処だ。こういう予期せぬ事態も悪くない」