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辺りはすっかり暗くなって、まるでこの世界に二人きりのような空間に包まれている。




「今日、寝るときベッド使いなよ。」



髪がまだ少し濡れたまま、

お風呂上がりの樹音くんがそう言った。



『え、それは悪いよ……。』


泊めてもらっているのに、

そんな扱いを受けるのは気が引けてしまう。




「いーよ。寝づらいでしょ?」


「おれ、ソファーでも寝れるし。」



そう言いながら、タオルで髪を拭いている

樹音くんから、なぜか目が離せなかった。




「なに、そんな見つめて。笑」


「あ、もしかして…いっしょに寝たいとか?」


悪戯っぽく笑いながらそう言う樹音くんに、

少しだけ仕返しがしたくなって。



『……寝たいって言ったら、だめなの?』



断られるだろうな、そう思ってた。

ほんの出来心で言っただけ。


なのに――。



「いいよ。先、ベッドで待ってて。」


そう言って、洗面所へ向かっていく

樹音くんの背中を、ただ黙って見送った。


心臓の音が、やけに近くで響いていた。







━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


微かに聞こえるドライヤーの音を背に、

寝室で一人、ベッドの端に腰を下ろす。


シーツはひんやりしていて、

触れた指先が少しだけ強張った。


ドライヤーの音よりも、

自分の鼓動のほうがうるさい気がして。


――樹音くんがソファーで寝るよりは、まし。


そう自分に言い聞かせた、そのとき。


廊下の向こうから、

ゆっくりと足音が近づいてきた。


ドアの前で、一度だけ止まる気配がして。


息をするのも、忘れていた。









樹音side


お風呂上がり、リビングのソファーに座っている〇〇の目の下が、少し暗くなっている気がした。


ここ数日、まともにベッドで寝ていないからなのか。

それとも、慣れない環境のせいなのか。


理由は分からない。

でも、考えるよりも先に口が動いていた。


「今日、寝るときベッド使いなよ。」


そう言うと〇〇は、少し声を大きくして、


『え、それは悪いよ……。』


そう言って、おれの目をまっすぐ見る。




どう説得しようか、と考えている間にも、

その視線が外れなくて。


「なに、そんな見つめて。笑」


空気を誤魔化すみたいに言ったのに、

次の言葉は、完全に余計だった。



「あ、もしかして……いっしょに寝たいとか?」



冗談のつもりだった。

〇〇なら、きっと困った顔をして否定する。


――そう思ってた。




『……寝たいって言ったら、だめなの?』


少し潤んだ瞳で、そう言われて。

頭が一瞬、真っ白になる。




断る理由なんて、最初からなかった。


「いいよ。先、ベッドで待ってて。」


それだけ言って、

これ以上何か言いそうになる口を閉じる。


気持ちを落ち着かせたくて、

おれは足早に洗面所へ向かった。








洗面所のドアを閉めて  鏡に映った自分を見る。

どこか、余裕がない。そんな顔をしていた。



それを誤魔化すみたいに、ドライヤーの電源を入れた。


「……はぁ」


〇〇のさっきの表情が浮かんで、思わず息が漏れる。


あの誘いを拒めるほど、

おれには余裕がなかった。




髪はもう乾いているのに、

それでも風を当て続けていることに気づいて、電源を切る。


一度、深く息を整えてから、洗面所のドアを開けた。


寝室までの距離が、

いつもより、やけに短く感じた。









━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


寝室のドアを、音を立てないように開ける。


部屋の灯りは落とされていて、

カーテン越しの街灯が、ぼんやりと輪郭を照らしていた。


ベッドの端に〇〇が座っているのが見える。


シーツを握る指先が、少しだけ強張っていて。

視線は下を向いたままなのに、

気配だけで、こっちに気づいたのがわかった。



「……おまたせ。」


なるべくいつも通りの声色でそう声をかけると、 〇〇は小さく肩を揺らして、顔を上げる。


『う、うん……。』


短い返事。

それだけで、胸の奥がざわついた。




ふたりでベッドに横になると、

思っていたよりも距離が近い。


さっきまで無理やり保っていた余裕が、

少しずつ剥がれていくのがわかる。



「電気、少し明るい方がいい……?」


自分の鼓動をかき消すみたいに、そう聞いた。


『少し明るい方が、安心するかも……。』


そう言われて、言葉は返さず、

黙って電気のリモコンに手を伸ばした。




横並びで寝ているはずなのに、

体格差のせいか、〇〇は少し下側にいて。


ふわっと香るシャンプーの匂いが、

自分と同じで。

それだけで、また鼓動が早くなる。





遠慮がちに布団を使っている〇〇を、

見ていられなくなって。


「もう少しこっち来て。布団、ちゃんと使いな。」


「寒いでしょ。」


そう言って、〇〇の腕を引いて自分のほうへ寄せる。


『寒くないです……。わたし、子供体温だから。』


そう言う〇〇の手は、思った以上に冷たくて。


「うそでしょ。手、すごい冷たいけど?」


図星を突かれたのか、

〇〇は何も言わず、布団に顔を埋めた。


その仕草すら、どうしようもなく愛おしい。


「大丈夫だよ。なんもしないから。」




そう声をかけてから、少し経って。


『ありがとうございます……。ほんと、いろいろと。』


照れたみたいに言う〇〇を、横目で見ながら。


「なんもしてないよ、おれ。」


そう返して、少し間を置いてから。


「ほら。余計なこと考えてないで、寝な。」


これ以上、無駄に口を開くのが怖くて。


〇〇の体を引き寄せて、

そっと布団をかける。


安心したのか、数分もしないうちに、

規則正しい寝息が聞こえてきた。






――もし、〇〇が

自分のところから離れるって言ったら。


そのとき、おれは素直に送り出せるんだろうか。


夜は暗くて、静かで。

つい、ありもしないことを考えてしまう。


そんなことを考えていたら、

腕の中の〇〇が寝返りを打って、こっちを向いた。


あまりにも無防備で、

安心しきった寝顔。


それを見た瞬間、

胸の奥が、すっと軽くなる。


今は、まだ。

自分の腕の中にいる。


それだけで十分だと、自分に言い聞かせて。


抱きしめる力を、ほんの少しだけ強めて、

おれも静かに眠りに落ちた。


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