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左の服屋の店先に、コーヒーカップを手にした男が二人、椅子を出している。そのすぐ脇を、お客がひっきりなしに通っている。これではさすがに苦情も出るだろうと思うのだが、誰も気にしている様子がない。それどころか、客は挨拶すら交わしている。二人のうちの片方、白髪頭のおじさんと目が合った。彼の口元が緩んだのを見て、暇なんですかと俺は尋ねた。おじさんは微笑しただけだった。向いに座る坊主頭の老人は「この男はここのオーナーだよ、こう見えてもね」と言う。
店の中を覗くと、忙しそうに働く従業員が見えた。オーナーは「彼らがやってくれてるんだよ、けっこう優秀なんだ」と店を指した。
従業員の顔は気のせいかどこか顔色が優れず、笑顔は作り物で、余裕なく、ここから見ててもへばっているように見える。オーナーと坊主の老人を見ると、後ろにそっくりかえってリラックスしている。
かなり無理させてますねと俺がいうと、オーナーはとんでもないという表情を浮かべ、「彼らがそれを選んでるんだよ」という。
「働いてお金を貯めて、CDとか、化粧品とか、服をたくさん買う。できれば、人に見せびらかす時計も欲しい。宝石の乗ったペンダントも欲しい。美味しいケーキもたくさん食べたい。高級レストランにも行きたい。腹がはちきれるまで酒を飲みたい。でもダイエットもしたい。ジムにも通う。コレステロール調整薬も必要だ。海外旅行にも行く。車はローンを組んで買う。家賃の高い豪華な家にも住んでみたい。だから、働く」と坊主の人がいう。あの人達を小馬鹿にしてるんですかと、なるべく口調を穏やかにしながら聞いた。「とんでもない! 驚いちゃいけない、それが彼らの希望なんだよ。仕事を提供する以外に、私に何ができるかな」とオーナーは言う。では、おじさんはお金があったらどんな物を買うんですかと聞くと「そんなもの手に入れるより、人を雇って時間を作るね」と答えた。