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32話 「闇に沈む競売会場」


王都の外れ、レンガ造りの古びた倉庫街。

昼間は商隊の荷を積み下ろす活気に満ちているが、陽が沈めば一転、ここは別の顔を見せる。

俺とミリアは、夜の帳が下りきった頃、指定された倉庫の一つへと足を踏み入れた。


「……にしても、ギルドの依頼で来るような場所じゃないよな」

「文句は後で聞きます。依頼内容は『競売に出される希少素材の確認』。

……ここは合法の市じゃありません。油断はしないでくださいね」


木製の大扉の向こうは、予想以上に豪奢な空間だった。

天井から吊るされたシャンデリアが、蝋燭の明かりでゆらゆらと輝く。

壁には金縁の額縁がかけられ、絨毯は足が沈むほど分厚い。

だが、その美しさは表面だけ。

鼻を突く香の匂いに混じって、獣臭と鉄の匂いが漂っていた。


ざっと見渡すと、会場は二つの階層に分かれていた。

上階のバルコニー席には、絹の衣を着た貴族や富豪らしき男女がゆったり腰掛け、ワインを片手に談笑している。

下階は粗野な男たちが多く、腰には剣や斧がぶら下がっている。

合法な商談なら武器の持ち込みはありえない。つまり、ここは完全に裏だ。


「……あれが目当ての素材か」

ステージの上、ガラスケースの中に青く輝く鉱石が鎮座している。

『蒼月鉱』――滅多に採れない希少金属で、魔道具や高級武具の触媒になる。

ギルドは、この石がどこに流れるのかを知りたがっていた。


俺たちは下階の隅に腰を下ろし、拍子木の音と共に競売が始まるのを待った。

最初は古代の陶器や珍獣の剥製など、表向きは合法そうな品が続いた。

だが、やがて雰囲気が変わる。檻に入れられた猛禽や、見たことのない魔物の死骸が運び込まれ、観客の目がギラつく。


「次は……人か」

司会役の男が、金歯を覗かせて笑いながら言った。

奥からごろごろと檻が運ばれてくる。中には、小さな影が座り込んでいた。


薄暗い中でも、その銀髪は月光のように際立って見えた。

細い肩、鎖で繋がれた手首。年の頃は十かそこらだろうか。

怯えてうつむく横顔はまだ幼い。

……だが、ふと顔を上げた瞬間、目が合った。


蒼い瞳が、まるで刃のように鋭く俺を射抜く。

その一瞬、全身の毛が逆立った。

『ただの子供じゃない』――本能がそう告げた。


「……知り合いですか?」ミリアが小声で囁く。

「いや……ただの通りすがりだ」

「通りすがりにしては、随分長く見てましたけど」

ミリアの目は笑っていない。だが俺は視線を檻から外し、蒼月鉱の順番を待つことに意識を戻した。


少女の檻は奥に引っ込められ、別の出品へと移る。

やがて蒼月鉱の競りが始まり、予想通り上階の貴族席で高値の応酬が繰り広げられた。

結果、赤い外套の男が落札する。ギルドへの報告はこれで済む……はずだった。


――だが、帰る道は穏やかではなかった。



会場を後にし、夜の倉庫街を歩く。

人通りは少なく、遠くで馬のいななきと怒号が混じって響く。

ミリアが小さく耳を動かした。

「……聞こえますか? 金属のぶつかる音」

「ああ。喧嘩か、それとも――」


角を曲がった瞬間、数人の男たちが商人風の男を囲んでいた。

男は荷車を引き、必死に後ずさるが、傭兵風の連中が武器を構えて詰め寄る。

「その荷は高値で売れる。置いていけ!」

「ふざけるな! これは依頼品だ!」


俺はため息をつき、腰の剣をゆっくり抜いた。

「行くぞ、ミリア」

「了解です」


刹那、傭兵の一人が俺に気づき、刃を振り下ろす。

受け止め、弾き返し、逆袈裟に斬る。浅く切っただけで男は怯み、距離を取った。

ミリアは素早く背後に回り込み、蹴りで二人をまとめて転がす。


……その時、視界の端を何かが横切った。

振り返ると、さっきの銀髪の少女が檻に入れられたまま、荷車で運ばれていくところだった。

運んでいるのは奴隷商らしき男と、先ほど会場で見かけた傭兵の一人。

俺を見た少女は、再びまっすぐな視線を投げてきた。

声を発しないまま、「助けて」と訴えるような、あるいは「見ていろ」と挑むような、不思議な眼差しだった。


助けるべきか――その思考を、背後からの殺気が断ち切る。

振り向けば、巨大な黒狼が闇の中から飛びかかってきた。

鎖を引く傭兵が笑う。「こいつはペットだ。だが、てめぇらには死神だ!」


黒狼の爪がミリアをかすめる。

俺は剣を構え、足を滑らせるように間合いを詰めた。

一閃。火花と血飛沫が夜に散る。

黒狼は咆哮し、さらに荒れ狂う。

だがミリアが側面から短剣を突き立て、俺が首元を斬り裂いた瞬間、動きが止まった。


倒れる巨体。逃げ去る傭兵。

少女の檻は再び闇に消えていった。



戦いの後、商人は深く礼を述べ、蒼月鉱の落札者や奴隷商の情報を話してくれた。

だが、俺の頭の中には銀髪の少女の瞳が焼き付いていた。

関わらなければ、それで済む。

だが――あの視線は、どうしても忘れられなかった。



『世界最強だけど昼寝がしたい』

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