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天日干し
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13
ろろろ
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視界が開ける。
明るい部屋の中、瞳に埋め込まれたカメラセンサーが起動し、焦点が目の前の人物を捉えた。
初めて視認したのは、大きなくっきりとした瞳。光を照らした黒い瞳が、長い睫毛を揺らしながら何度もパチパチと瞬きを繰り返している。
透き通るような白い肌に、丸みを帯びた桃のような頬。
そして、真っ直ぐに伸びた綺麗な鼻筋に、柔らかそうな血色の良い唇が笑みを象っている。
Ω特有の匂い立つような艶やかさを纏わせた、美しい少年が目の前に立っていた。
この人が、俺のΩ。
俺の、ご主人様。
「初めまして、柔 太朗。俺は仁 人」
起動開始初日。
15歳、吉田 仁 人との記録。
◇
午前10時。
出勤や登校時間のピークを越え、まばらに歩く人通りを仁 人と柔 太朗は並んで歩いていた。
「もう早く誰でもいいから番ってくれないかなぁ」
欠伸混じりで呟く仁 人に、柔 太朗は呆れたような目線で見遣る。
「何言ってんの。適当なこと言っちゃダメだって。よっしーのフェロモン抑制の管理もαとの遺伝子適合率も、俺がちゃんと計算してるんだから。変な奴と番になったら後悔するよ?」
「その計算合ってる?俺もう26よ?不安定なヒートやフェロモン抑制と付き合うのもういいのよ。番ったらその心配も無くなるし、顔が良くて包容力があって生活力のあるαなら誰でもいいよ」
「何気に求めてるハードル高くない?そんなんだから相手がいないんだよ。俺のせいにしないでよね。あと計算は合ってます。次のヒート時期教えようか?」
「くっそ、近くにこんだけ美形がいたら、嫌でもハードル上がるって」
悪態をつきながら、仁 人は柔 太朗を睨みつける。
モデルのように背が高く、色白の整った小さな顔。艶やかな栗色の髪が揺れるたびに光が煌めき弾く。よく人形のようなという例えがあるが、実際柔 太朗はアンドロイドなのだから大正解だ。
今もすれ違う通行人が思わず振り返るほどの美青年がいつも隣にいるのだから仕方ない。これは自分のせいだけではないと仁 人は自らに言い聞かせた。
「αは基本美形が多いから、包容力と生活力とか言って勝手にハードル上げてんのよっしーだからね。といっても今のところ相性の良いαに出会った確率も……って、よっしー、ここ左に曲がるよ」
「え、ちょっ、急に曲がるって」
ぐいと柔 太朗に腕を取られて角を左折する。
勢いがついた仁 人の身体を柔 太朗が支えた。
「しっ、さっきの通路、右側の約20メートル先からαが曲がってきた。違う道から行こ」
「なんだよ、αと遭遇することもあるって。もしかしたら俺の番かもしれないじゃん」
「いや、違うね。さっき出現したαとの適合率は低かったもの。下手に接触しない方がいい」
「はぁ、過保護すぎ。やっぱ俺の出会い潰してんのお前だわ」
白い頬を膨らませて不貞腐れたように唇を尖らせる。その様子に出会った頃の面影を見て柔 太朗は微笑んだ。
15歳の仁 人は本当に愛らしかった。
新しいオモチャを与えられた興奮を隠せない、興味津々の瞳で覗き込んできたあの日。
高校に進学してすぐに受けたバース性の結果がΩであることにショックを受け、塞ぎ込んでいた仁 人を家族が心配して手配したアンドロイド。それが柔 太朗だった。
柔 太朗にプログラムされた最優先ミッション。
それは、仁 人をあらゆる危険から守り、フェロモンとヒートを厳重に管理すること。そして、仁 人を心の底から愛し、生涯をかけて幸せにしてくれる、完璧で最適なαを見つけ出すこと。
そのミッションを遂行するため、柔 太朗は仁 人の周囲に寄ってくる生半可なαたちを、厳密なデータ分析と冷徹な査定によってすべて弾き返してきたのだった。
成人男性をモデルにした柔 太朗は、出会った当初は兄のように接して守り、そして仁 人が成長した今は、肩を並べて気易い友人のような立ち位置で傍にいる。
少年期の華奢な身体で柔 太朗を見上げていた仁 人は、それから背が伸び、体つきもまろやかな曲線を帯びて、αの独占欲を掻き立てるような美しい大人になった。見上げる角度が変わったものの、くるりとした大きな瞳で柔 太朗を見つめるのは変わらない。
仁 人の職場であるダンススタジオに到着し、数あるスタジオの一室に入ると、早速仁 人はぺたりとフローリングに座り込んだ。
軽くストレッチをして身体を解すと、コンポとスマホを連携させ、レッスン前の体慣らしに曲をかける。
流れてくる音楽に合わせて、仁 人の身体がしなやかにうねり始めた。指先から足先まで意識を行き渡らせた繊細な表現力と躍動感あふれる伸びやかな動き。そして、ふとした瞬間に内から匂い立つような色香と表情が、見る者の目を奪って離さない。
邪魔にならないようスタジオの隅で眺めながら、柔 太朗は思い返していた。初めて仁 人の踊る姿を見たあの日、美しいという概念を言葉でなく視覚とデータで学習したことを。
「よっしー、また後でね」
「うん」
一曲踊り終えた後、柔 太朗は仁 人の後ろ姿に声をかけた。
鏡越しに頷き返事をする仁 人に「じゃあね」と手を振り部屋を出る。
今日の仁 人のスケジュールは、午前に個人レッスン、午後からキッズのグループレッスン、後もう一件個人レッスン。そうだ、代行レッスンもあった。
柔 太朗はメモリからスケジュールを整理する。
仁 人は幼少期から習っていたダンスのスキルを活かして、ダンスインストラクターとして働いている。
他の職業も模索していた時期もあったが、Ωの特性や仁 人のパーソナルも考えると、なるべくフリーで動ける仕事が良いのではないか。ということで現在に至る。
今日のダンススタジオだけでなく、他のスタジオとも契約していて、仁 人の教え方は丁寧なので人気もある。グループレッスンのクラス追加も打診されているが、今くらいが丁度良いと仁 人は断っている。
「俺ひとりと柔 太朗のメンテナンス代が出せるくらいの生活費があれば良いんだって」
と、αとのマッチング条件は厳しいのに、実際の生活は欲が無い。
今の仕事環境は、もし急に体調が悪くなっても複合スタジオなので代行もお願いできるのが有難いので満足しているようだった。逆に、今日のように代行をお願いされた時は喜んで引き受けている。
「良い天気だし、お迎えまで散歩しながらαでも探すか」
スタジオがあるビルの軒先で、柔 太朗は軽く伸びをした。
「とはいえ、そんな簡単にいるわけないんだけどね」
今朝はあんなことを言っていたが、元々人見知りである仁 人が常に積極的にαとの出会いを求めているわけでもなかった。
Ωと判定されてから、少なからず好奇な目で見られ、不用意に傷つけられたこともある。
そんな苦い経験をしながらも、仁 人はまだ心のどこかで夢を見ているのだ。
いつか、俺にぴったりな番が現れる。と。
「仁ちゃん、夢見る少女じゃないんだからね。そんな王子様みたいな人なんて現れないって。もっと現実見よ? いつかなんて言ってたら、あっという間におじいちゃんになっちゃうよ」
以前、自宅で柔 太朗が諭すと、じゃあこのまま老いておじいちゃんになっても良いと仁 人は自嘲気味に笑った。
「柔 太朗はいてくれるでしょ?」
「いるよ。ずっと傍にいる」
「ふはっ、なんか重いな今の」
「聞いといて何なの。俺はよっしーのためにいるんだから当たり前でしょ」
「……ありがと」
眉尻を下げ、ふっと頬を緩めて笑う仁 人に、柔 太朗は手を伸ばした。滑らかな頬の感触。
このまま仁 人が歳を重ねて老いても自分は傍にいる。
ずっとずっと。
兄であり、友人であり、家族で居続ける。
でも、柔 太朗は仁 人の待ち続ける番になることも、そして恋人にもなることは出来ないのだ。
「はぁ、いるかなぁ、よっしーにぴったりな人」
柔 太朗は賑やかになってきた雑踏の中、泳ぐように人混みを避けて歩き始めた。
コメント
4件
コメント失礼します!アンドロイド白、かっこいい…( ˶ ᷇ 𖥦 ᷆ ˵ )これからの展開が楽しみですっ!(*´˘`*)
初コメ失礼します。とても好きな設定で続きがとても楽しみです。主様のペースでの更新待ってます✨