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「ミロア!!」
階段の駆け上がる音がした後、部屋の扉が大きく開かれた
『お兄ちゃん…!』
「お前の声がしたと思って…母さんに何があったんだ?!」
『分からない!だけどこのままじゃお母さん死んじゃうよ!』
「そんなの見たら判る…!俺が下へ運ぶからお前はジュニーと大人連れて来い!」
どれくらい経っただろうか
10分のような、1時間のような
兎に角長い時間をかけて
私達の気持ちはなんとか落ち着いた
兄が家に帰って来た
「近くの院へ運んだよ。なんとか生きてはいる。安心しろ。最近咳が多かったから、喉から…そう、喉から血が出たんだよ。炎症だろうな。…今週には金がまた入るから治療もしてやれるし薬も買える。あんま考えんな」
『ジュニーは?』
「まだ母さんの側にいたいってまだ院に…」
兄は私と反対側の椅子へ座り、俯いた
嗚呼、目を見ることが出来ない
「……あのな。お前が兵士になる事だけどよ。」
なんと幸運な事か、兄の方から切り出してくれた
アルミン、ごめんね
ちゃんと助言してくれたのに
やっぱり私は
どうしようもなくお兄ちゃんと話したいって思ってしまう
空気が湿っている
夕日はまだ落ちていない
ここには、二人だけ
“今”しかないと思った
「やっぱり俺は反対す…」
『…どうして言ってくれなかったの』
「は?」
『お母さんが倒れる前に話を聞いたの。お兄ちゃんが兵士にならなかったのは、私達の為だって』
外の雲が大きく動いて
家に差す西陽が兄と重なる
その逆光を、ただ見ていた
「…ミロアはそれ、嘘だと思うか?」
『嘘な訳無い。お母さんが言ってたんだよ。どうして私に言ってくれなかったの。それに、ジュニーにだって…』
私の手は汗でじっとりしていた
らしくもなく震えて、自分でも緊張していると分かった
指先に力が入る
今、私は
次に兄がどんな言葉を発するのか、
ということしか考えていない
怖い
また怒鳴られるのか
違ったらどうしよう
泣いてしまうかな
それともまさか、私みたいに逃げ出すかな
兄は一呼吸置いた後、頭を抱えて口を開く
「どうしてなんて簡単に言うんじゃねぇよ。お前は母さんや父さんが、どんな気持ちで俺を送り出したか知らねぇだろ。俺が、どんな気持ちでっ…ここに戻ってきたか」
静かな空間に、拳の握る音が響いた
「そして、俺も知らないんだよ…お前が俺をどう思ってたか。…怖かったんだ。もっと良い方法があった筈なのに、だけどもう戻れなくて、伝える方法が…」
予想外の兄のそんな弱気な言葉に
居ても立っても居られなくなってしまった
『お兄ちゃんがそうするしか道がなかったんなら、それが仕方ないってやつなんじゃないの…!なんで、』
ガタン、と椅子を音を鳴らし立ち上がった
私は何をされるか分かった
「仕方ないとか1番思っちゃ駄目だろうが!俺のせいだ、俺が勝手にやったんだ!!」
また兄は、大声を出した
そうだ
兄は感情が大きく揺れるとすぐそれが態度に現れる
兄自身もそれを知っていて
己の武器としている
そして私が大声を出されると泣いてしまう事も知っている
1年前から私達は何も変わらない
それも今日で終わりにする
そのつもりで伝えた
戻れないのは、こちらも同じなんだ
『っなら尚更!言ってくれたって良いでしょ?!家族なのに、私のお兄ちゃんなのに…!大切なことだけ伝えないでずっと、必要ない喧嘩ばっかりして!』
私の泣き顔を見て
兄の硬く握られた拳は少し緩んだ
「…兵士になるな」
『嫌だ……嫌だ…!』
兄はもう一度だけ、冷静に願った
だけど
やっぱりだめだよ
私は父さんのようになりたいんだ
私の返答で、必死に取り繕った冷静を欠いた
「お前はここで生き残らなきゃいけないんだよ!!なんで分かんねぇんだ?!ずっとずっと言ってきたのに…!俺には分かる、お前は調査兵団に行ったら父さんのように苦しんで死ぬ!だから!!!」
兄が言葉を続けようとした瞬間
辺り一帯が揺れ、轟音が鳴り響いた