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枢空 乃希
どれくらい、そうしていたのだろう。
気がつけば、窓の外はすっかり暗くなっていて、
病室の蛍光灯だけが、やけに白くて、
現実に引き戻されるような気がした。
腕に、じんわりとした重さ。
君はまだ、俺の袖を掴んだまま眠っている。
『ほんまに、…離さへんな、』
小さく呟いてみる。 もちろん返事はない。
けど、その代わりみたいに、 君の指がほんの少しだけ動いた気がした。
その時、不意にドアが軽くノックされた。
コン、コン
静かな音と一緒に入ってきたのは、 看護師さんだった。
一瞬だけ、俺と君の体勢を見て、 少し驚いたように目を丸くしたあと、 すぐに柔らかい表情に戻った。
「ああ……眠ってるんですね」
小さな声でそう言って、 点滴の様子を確認し始める。
俺は動こうとした。 でも──
「そのままで大丈夫ですよ」
先に、そう言われた。
「こうやって誰かに寄りかかって眠るの、久しぶりかもしれません」
胸の奥が、少しだけ痛くなった。
知ってたつもりだった。 でも、つもりだっただけだ。
「……よく、頑張ってますよ」
看護師さんはそう言って、 点滴を整え終えると、静かに部屋を出ていった。
ドアが閉まる音が、やけに小さく響いた。
静寂が戻る。
俺は、君の方を見た。
変わらず眠ってる。 けどさっきより、少しだけ表情が穏やかに見えた。
「……頑張りすぎやろ」
思わず、そんな言葉が漏れる。
医者になるって夢も、 一人で抱え込む癖も、 弱さを見せないところも。
全部。
そう思いながら、 もう片方の手で、そっと君の頭を撫でた。
医療用帽子の上からでも分かるくらい、 その頭は小さくて、軽かった。
その時。
『……ぷり、ちゃん、』
かすれた声。
起きたのかと思って顔を覗き込むと、 目は閉じたまま。
寝言、かと思った時。
『俺、…怖い、』
その一言で、 時間が止まったみたいになった。
君が、怖いなんて弱音を吐くのを 初めて聞いた気がした。
ずっと強がって、 何でも一人で抱え込んでた君が。
君の頭を、そっと撫でる。
届いてなくてもいい。
『…大丈夫やで、俺、居るから。』
今度は、少しだけはっきりと。
君の手を、少しだけ強く握る。
逃げられへんように、じゃない。
離れんように。
すると──
君の指が、 ゆっくりと、俺の手を握り返した。
ほんの少しだけ。 でも、確かに。
その瞬間、 胸の奥にあった何かが、すっとほどけた気がした。
小さく笑う。
強くならなくていい。 全部背負わなくていい。
少しだけでいいから、 こうやって頼ってくれたら。
それだけで、十分や。
俺は、君の隣に座ったまま、 窓の外を見た。
真っ暗な夜の中に、 街の灯りがぽつぽつと浮かんでいる。
長い夜になりそうだな、と思った。
でも──
悪くない。
君が隣にいる、この夜なら。