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枢空 乃希
それから、どれくらいの時間が過ぎただろう。
気がつけば、君は目を覚ましていた。
『……ぷりちゃん』
かすれた声。 でも、さっきまでの不安に押し潰されそうな響きじゃなかった。
『起きたんか』
そう言うと、君は少しだけ目を細めて、弱く笑った。
『……まだ、居た』
その一言に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
『当たり前やろ』
軽く返したつもりだったのに、 声が少しだけ震えていた気がした。
君は、俺の袖を掴んだまま、 少しだけ視線を逸らした。
『……あのさ』
『ん?』
『もし、俺がさ』
そこで言葉が止まる。
言いたいことは、なんとなく分かってしまった。
分かってしまったからこそ、 続きを聞きたくなかった。
『もし、じゃない』
被せるように言った。
『そういう話、すんな』
少し強くなった口調。
君は一瞬驚いた顔をして、 それから、ふっと小さく笑った。
『……ぷりちゃん、ずるい』
『なにがや』
『そうやって、逃げ道くれるとこ』
逃げ道なんかじゃない。 ただ、聞きたくないだけだ。
失う前提の話なんて。
『……俺ね』
君は、今度はちゃんと続けた。
『手紙、書いてたの』
『手紙?』
『うん』
ベッドの横にある棚に目をやる。
そこには、ノートが一冊置かれていた。
『最初はな、もしもの時のためにって思ってたの、』
もしもという言葉に、少しだけ息が詰まる。
『でも、途中から分からなくなっちゃって、』
『何が?』
『渡したいのか、渡したくないのか』
静かな声だった。
でも、その一言一言が、 やけに重かった。
『だってさ』
君は、少し笑った。
『渡したら、終わる気がして』
その言葉で、全部分かってしまった。
手紙は、“終わり”の準備だ。
だから君は、渡せなかった。
『……ばかやな』
気づけば、そう言っていた。
『なんでやねん』
『終わらへんわ、そんなもん』
少しだけ、強く言い切る。
君は、少し驚いた顔をしたあと、 静かに目を伏せた。
『……そっか』
その表情は、 納得したというより、 少しだけ、安心したように見えた。
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