コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◻︎検査
妻と娘たちが家を出て行ってから、一週間が経過した。一度だけ、愛美の母親から電話があった。
『愛美から、“離婚するかもしれない”と聞いたけど、何が原因なの?』
「あの…僕が悪いんです。仕事ばかりして家庭のことに目を向けることができなくて。すれ違ってしまって……」
『そう……夫婦のことは夫婦にしかわからないけど、子どもには何の責任もありませんからね。険悪なムードの家庭よりはそれぞれ別々の方がいいかもしれないけど。とりあえず、話し合ってみたら?』
やはり、離婚には反対なんだろうなと思うが、もういまさら引けない。せっかくの桃子との生活を手に入れられそうなのに。
なんて返事をしようか考えていたら、義母の声の向こうから、絵麻の声が聞こえてくる。
『おばあちゃん、お父さんなの?絵麻も話したい!』
『いいわよ、はい』
『もしもし、お父さん?ねぇ、いつになったら帰ってくるの?』
___帰ってくる?
絵麻の言葉に少しの違和感があったが、きっと愛美が“ずっと仕事で帰ってこないから”とかなんとか言って絵麻と莉子を実家へ連れて行く理由にしたのだろう。まだ子ども達には離婚の話はしてないようだ。
「ごめんな、絵麻。お父さん、ずっと仕事ばっかりで。でもその分、絵麻と莉子の養育費はちゃんと払うからな」
『よういくひ?それ、なぁに?』
「あー、まだわからないか。お小遣いも多めに渡せるようにするってことだよ」
『やったぁー!じゃあ、絵麻、お父さんとなかなか会えなくても我慢する。でもお休みの日は、遊んでね』
「……わかったよ」
協議離婚が成立すれば、面会の時間もちゃんと取れるだろうし。
『じゃあ、和樹さん、もう一度、愛美と話し合ってみてね』
「はい、近いうちに。それじゃ……」
シクシクと胃が痛む。市販の胃薬を飲んでいるが、あまり効果はないようだ。
___検査だけは行っておくか
桃子との生活も楽しみたいし、子どもたちの養育費も稼がなければならない。さっさと治してバリバリ働こうと思う。
検査の予約は、病院の空きと仕事の都合で、三週間後になった。