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◻︎夫の本心
___やはり、和樹は私と離婚したかったのだ
売り言葉に買い言葉で、離婚の二文字が出ても和樹は特に慌てていなかった。もしかすると、ずっと離婚を言い出す機会を狙っていたのかもしれない。和樹に桃子という不倫相手がいることは、まだ誰にも話していない。和樹の前でも、私は知らないフリを通している。
雑誌の人生相談コーナーを読むと、“さっさと不倫の証拠を掴んで相手の女からも慰謝料を取って、新しい人生を歩むべき”なんて回答が目につく。
___冗談じゃない!
それでは、一時的に金銭で解決したとしても、結局は相手二人にも新しい生活を許すということになってしまうじゃないか!そんなことでは私の気が済まない。
できることなら、和樹と桃子二人からありったけのものを奪い取ってやりたいと思う。普通に慰謝料と養育費だけでは、気持ちの解決ができない。
◇◇◇◇◇
「あのね、お母さん、今日、お父さんと電話で話したよ」
実家に戻ってから2日目の夜。絵麻が話してくれた。
「あら、そう。お父さん、元気だった?」
「うん、なんかね、よういくひをたくさん稼ぐために、お仕事頑張るんだって」
「そんなこと言ってたの?」
「うん、絵麻のお小遣いもたくさんになるって」
まだ何も子どもたちには話していないのに、養育費?そんな言葉を絵麻に言うなんて。
これでわかったことは、和樹は私とやり直す気なんて、これっぽっちもないということだ。絵麻や莉子のことも、私に押し付ける気なのだ。
___頼まれても子どもたちの親権は譲らない!
「ねぇ、お父さん、いつまでお仕事で帰って来られないの?」
「うーん、どうかな?おばあちゃんちは、イヤ?」
「ぜんぜん!電車で学校に行くのも楽しいから」
絵麻と莉子には、“お父さんがずっと仕事で帰れなくなるから、おばあちゃんちに行こう”そう言って連れてきた。コンビニのバイトも自転車で行ける距離だし、お母さんが家事を手伝ってくれるから、私も安心して夜遅いシフトも入れる。一人暮らしのお母さんの心配もしなくて済むから、この出戻りはいいこと尽くめだ。
「ただいま!」
長女の莉子が帰ってきた。さすがに中学1年にもなると、隠していても親の都合は理解できてしまうらしい。なんとなく不穏な空気はわかっているようだけど、特になにも言ってはこないのは、莉子なりの気遣いなのかもしれない。
「お帰り。晩ご飯は、おばあちゃんのお得意のピーマンの肉詰めだって」
「やった!おばあちゃんのやつ、美味しいんだよね」
「あ、そうだ!お父さんから莉子に何か連絡あった?」
家を出てくる前に、莉子に頼んで一言メモを書いてもらった。“仕事で疲れてるだろうからとスタミナドリンクをプレゼントするね”と。父親は娘には甘いものだ。これで少しでも娘たちの大切さが身に染みるようにと、考えた細工だ。
「お父さん?あ、LINE来てた、ありがとうって」
「そう、それならいいけど」
メモは見たということだ。子ども達は父親を慕っている、けれど父親は子どもたちを育てる気はない、それならそれなりの養育費を出してもらわないと。
◇◇◇◇◇
バイトの休憩時間。
1人になった時、ポチッとスマホの再生ボタンを押して、録音データを確認する。
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「昨夜はごめんなさい。絵麻にもよく言っておいたから…」
「そんなことか、もういい」
「そんなことって……でも、お願いだから絵麻の気持ちもわかってあげて。絵麻だけじゃなくお姉ちゃんのことも」
「僕だって考えているよ!考えているけど……今は仕事が忙しくて、頼むから一人にしてくれ!!」
「え?一人に?どういうこと?私たち家族は必要ないってこと?」
「あー、そういうことだ、もうウンザリなんだよ。疲れて帰ってきても少しもくつろげないし、自由もない。これじゃ、ただ家族のためだけに仕事して疲れてるだけじゃないか!」
「……そんな言い方……私たち家族は、必要ないのね?いらないのね?」
「あ、あーそうだ。その方がせいせいする」
「わかりました。私や娘たちがあなたの邪魔になっているというのなら……あなたが離婚したいと言うのなら、仕方ありません。私は娘たちを連れて出て行きます。でも、あなたにも父親としての責任があるから、養育費は払ってもらいますからね!」
「……」
「こんなにあなたのことを思っていたのに、まさかあなたから離婚してくれと言われるなんて」
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ポチ。
これは、あの朝の会話。夫から離婚を切り出した証拠になるだろうか?少なくとも私が勝手に私のわがままで家を出てきたわけではない、それだけはわかるだろう。
___さて、次は……
私は、着々と準備を進めることにした。