テラーノベル
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何時間経った?
まだ一時間ちょっとか……。
隣には俺にぴったりくっついている女がいる。
さっきまで白蓮の方が、とか言ってなかったっけ?
くそっ、一発目からボトル飲んだせいで、もう酒が回ってきてる。弱くなったな、俺も。
「あれっ?流星くん、もうこんなに顔が赤いわ?」
両手で顔を挟まれる。
触れるな、そう言いたいが我慢をする。
「失礼。こんなにも姫が美しくて」
お世辞だよ、お世辞。
「まぁ!上手いのね。さぁ、まだまだ持ってきてちょうだい?」
こんな嘘っぱちな言葉でここまで上機嫌になるなんて、幸せなやつだな。
「失礼します。俺も同席させてください」
春人が女を挟むような形で座った。
「いいわ。あなたも人気キャストさんよね。ふふっ。今日は楽しいわ」
春人と目が合う。
「少し休め」
言葉には出さないが、そう言っている気がした。
「ちょっと席を外します」
立ち上がったが、腕を掴まれる。
「ダメよ。じゃあ、せめてこれ飲んで行ってちょうだい?あなたのために頼んだの」
「俺が……」
春人が手を出すが
「私は流星くんに飲んでほしいの」
アルコール度数の高いものばかり出しやがって。一気飲みをして、一礼をし、テーブルを後にする。やばい、ふらつく。
酔っているのは、あの客も同じだった。
最初は飲まなかったが、雰囲気に煽られたのか酒が進み、飲むペースも後半一気に上がっている。
カウンターの後ろに下がり、水を飲む。
「流星さん、大丈夫ですか?」
歩夢が話しかけてくる。
「お前にだけ話すけど、ちょっとヤバい」
「あの客のこと、わかりました。某有名企業の社長の妻らしいです」
調べてたのか?
「マネジャー、あの人、今いくらくらい使ってんの?」
「もうすぐで二百万くらいです」
「んじゃ、そろそろ声かけてきて」
「わかりました」
マネジャーがあの女の席に行き、説明をしている。
「お客様、このオーダーを持ちまして、お預かりしていたご金額になります。これ以上ご注文されますと、別途、料金がかかってしまいますが」
「えー。もう?サービスしなさいよ。そっちの不手際で白蓮がいなくなっちゃったんでしょ?」
「担当がいなくなった場合、他の担当に交代させていただくという決まりについては対応させていただきましたので」
「そんなの認めないわ!じゃあ、お金を払うからもっとお酒持ってきて。流星くんはまだ戻って来ないの?」
「流星は、違うお客様対応中です」
「何よ!?それ!」
酔っていて気持ちも大きくなっているのか、グラスを床に投げつけた。
違う客からは
「きゃあー!」
悲鳴も聞こえた。
「おやめください」
「うるさいわね!」
酔って暴走した客は、さらにグラスを床に投げつけた。
「他のお客様にご迷惑となりますので……」
必死にマネジャーと春人が止めようとしている。
「他の客なんてどうでもいいのよ!?私が一番……」
そろそろ伝えに行くか。
くそっ、ふらつくな。
「おやめください。そのような行為をされると、他のお客様に迷惑です。こちらが声をかけて、やめていただけないのであれば、出入り禁止の対応をさせていただきます」
「あんたまで、調子に乗るんじゃないわよ!」
出入り禁止という言葉を聞いた客は逆上して、先ほどよりも勢いよく、グラスを投げつけようとした。
近くのテーブルのお客さんに当たってしまう。
ガラス片が届きそうなテーブルの前に立ち、パリンとグラスが割れた瞬間、お客さんに当たらないよう盾になった。
手で防御したが欠片が手の甲に刺さり、出血する。
店内からは「キャアー」という悲鳴が飛び交う。
そこへ――。
「こっちです」
歩夢が通報したであろう、警察を連れてきた。
「お酒が入っていても、ダメですよ。こういうことしちゃ」
「私は何も……」
警察官を見た瞬間、急に威勢がなくなった。
「この人がグラスを投げつけて、こいつ、ケガしたんです。早く捕まえてください」
春人が警察官に俺の傷を見せる。
「これから警察署に来てください」
数人の警察官が取り囲む。
「それは、グラスが落ちちゃっただけで」
必死で言い訳をしているが、目撃者が多いため言い逃れはできないだろう。
「違うわよ!あのおばさんが勝手に怒って床にグラスを投げつけて。キャストさん達は、必死に止めてました。でも、何度も故意にグラスを投げつけて。流星さんが破片が飛びそうなところに立ってくれて。そしたらケガしちゃって」
今日、俺のことを指名で来てくれたお客さんが説明している。
あとでお礼言わなきゃな。
「誰かご家族の方や身元を引き受けてくださるような方はいますかね。ただ、お兄さんにケガさせちゃってるんで、すぐには帰れないと思いますよ」
チラッと警察官との会話が聞こえてきた。
「お願い、家族には言わないで!」
態度がガラッと変わり、投げつけた客は泣きそうになっている。
「ああ、この人、この会社の社長の奥さんらしいっす。ネットで出てきました」
店側では、歩夢が警察官とやり取りしていた。
「まぁ、なんとかなりそうだな。お兄さん、ケガしているけど、自分で救急車は呼んだ?」
「まだです」
「念のため通報受けた時、呼んでますよ。このあとの処理のためにも……」
「わかりました」
しょうがないな。
渋々了承するしかなかった。
コメント
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ヤバい客…😰瑞希くん、大丈夫かな。