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「人生何が起こるかわからないから、
今を楽しむんだよ。」
誰の言葉かも覚えてない、ただの綺麗事のように聞こえるのに、なぜか僕の心に強く響いた。
(今日は痛い日だな…)
俺は西澤 周哉。
小学生の頃に田舎にある地元から都会であるこの街に引っ越してきた。小さい頃から頭痛持ちで、それ以外特になにもない高校2年生だ。
毎日いつもと同じように通学し、いつも通り帰宅して1日を終える。そんな全く代わり映えのない日々を過ごしていた。
そして今日もまた一人こうやって通学する、
予定だったのに。
「おはよう!」
声が聞こえて振り返ると、そこにいたのは
「まだ7月なのに本当暑いね〜」
栗原 凛花だ。
小中高と一緒で家が近いから仲良くなった活発的で明るい女子だ。親同士も仲が良くて昔は何度も家に遊びに来ていたこともある。今年は中学生ぶりに同じクラスになっていてこのように一緒に登校する機会も増えた。
「朝から本当元気だな」
「周哉もいつも通り仏頂面だね!」
こいつはかなりやかましい。
俺だって昔はこんなに暗かったわけじゃない。
いつ、なぜなど全くわからないが知らない間にこんな捻くれた性格になってしまっていた。
「うるさいな、今日は痛い日なんだ」
「あ…」
「そうなんだ、ごめんね」
こういうところはしっかりしている。
凛花は俺の頭痛持ちに理解がある。だけどいつも頭痛の話をすると悲しそうな顔になるのがよくわからない。だがこうやって俺自身が素を出して話せるのも凛花ぐらいしかいない。
「周哉!凛花!おはよう!」
後はこいつぐらい。
「しんみりした雰囲しちゃって〜もしかして告白か?」
「本当に!やめて大輝…」
「いやーびっくりしたよ、まさかようやく凛花がk」
「それ以上言ったら本当にわかってるよね?」
中原 大輝。こいつもこいつでやかましい。
でも何でも相談に乗ってくれる良い奴だ。
いつもこの三人でいることが多い。
この三人でいるとすごく気楽でいれる。
すごく不思議だ。
「そういえば夏休みどっか遊びに行ったりしねぇーの?」
「本当だ!どっか遊びにいこーよ!夏休みにやりたいこといっぱいあるんだ!」
夏休み…
夏休みは10年ぶりに地元に帰る予定だ。
特にその街に居た記憶もないけど、俺の両親がそこで大事な話があるらしく特に予定もない俺は行くことになっていた。
「ごめんな、夏休みは地元に帰るんだ」
「え…そうなの?」
「そっか!お前こっちに越してきたんだよな!ならしゃあない!二人でどっか行くかー凛花?」
「…」
「凛花!」
「あ、ごめん…」
凛花はまた悲しそうな顔をしてる。なんでだ?もしかして俺と遊べないことをこんなに辛く感じてるのか?わからないが、それなら悪い気はしない。
「そういえば、もうすぐ10年だよな。あの震災から。」
「…」
あの震災。それは10年前の8月に起こった震度7の巨大地震。僕はちょうどその地震を回避してこっちに引っ越していたが僕の地元は壊滅的な被害を受けたらしい。死者は出ていないらしいが、行方不明が一人と家屋が津波に流されてとすごく酷い被害だったらしい。
「…この話やめない?楽しい話しようよ!」
「そうだな、すまん二人とも。」
「…周哉大丈夫?」
「え?別に大丈夫だけど」
なんで俺に聞いてきたのかはわからないが、確かに頭痛持ちの奴にはかなり痛い話かもしれない。でもそこまで気にすることはないはずなんだが…なんだろうこの感じ。
「…とりあえず学校着いたからまた後でね」
「おう!またな凛花!周哉!」
なんだろう、この感覚。
数日後…
「よーしお前ら、明日から夏休みだからって勉強サボるなよ、受験を見据えてるやつは2年生から勉強し始めてるからなー
それじゃ羽目外しすぎずに」
あの日から特になにも変わらない日常を送ってきた。ただ、明日からは夏休みだ。明日の朝に電車に乗って地元に向かう。楽しみだ。ただずっと俺は何かに囚われている感覚がある。怖い。でも行かなければ行けない気がする。ずっとそんな不思議な感覚が自分を苦しめていた。
「お疲れ様!」
声をかけてきたのは凛花だった。
「あれ、大輝はいないのか」
「大輝は補習、成績に1が着いてたから…」
「さすがにやばいな」
「…ねぇ、周哉」
「なんだ?」
「…明日から本当に地元に戻るの?」
「さすがにもう明日って時に行かないのは厳しいだろ」
「…どうしたんだ?凛花」
凛花の様子がおかしい。明らかに切なそうなのに、笑っていて。悲しそうなのに明るく見える。
「じゃあこの言葉だけ覚えていって」
「…」
「人生何が起こるかわからないから、
今を楽しむんだよ。」
「!?」
頭の中に電撃が走ったように感じた。今までに一切ない感覚だ。怖い、怖い。何かが頭の上に浮かんでくる。懐かしい。なんだろう。
「…周哉、大丈夫?」
「あ、ごめん…用事あったの忘れてた、帰るわ」
「うん、また帰ってきて遊ぼうね」
「おう、大輝にも言っといてくれ」
本当は用事なんかない、ただこの場を出たかった。凛花は何者なんだ?
(もうこんな事忘れよう)
そう思って帰路に着いた。
『周哉くん…周哉くん!』
『…凛花?』
『私だよ!私!』
『…︎◻︎◻︎◻︎!』
『もう行かなきゃ…』
『待って!君に伝えたいことが』
「周哉!周哉!」
「…ん、ここは?」
「何寝ぼけてるの、電車の中よ」
そうだ。今地元に向かって電車に乗っている途中だった。変な夢だったな。妙に懐かしいような、苦しいような。
「もうすぐ着くわよ。」
母が言っていた通り電車はすぐに着いた。あまり窓を見ていなかったから気づかなかったが駅におりてみると一面に緑の田園風景が広がっている。蝉の声がどこからともなく聞こえてきており、川のせせらぎも聞こえてくる。何かすごく懐かしい気持ちになった。
「もう駅からすぐだから、おばあちゃん家」
そうか思い出した。ここはおばあちゃん家があるところだったんだ。今までにずっと既視感という懐かしさを感じていたがその正体がわかったような気がして少しだけスッキリした、ように感じた。
少し歩くと…
「…ここよ」
少し大きめな庭園のある木造建築の家についた。すごく立派だが、今にでも壊れそうな見た目だ。
「おじゃまします」
中を開けて入ってみた、すると
「周ちゃんよく来たねぇー10年間も会えないですっごく寂しかったのよー」
すごく元気なおばあちゃんがいた。
そうか、10年前の震災が起こるちょうど前ぐらいに引っ越したから10年ぶりなのか。
「おかあさん!10年前の話はちょっとこの子には…ちょっと来てもらえますか」
「周哉、お前は少しこの町を散歩してきてくれるか?少し夏の風景を味わうのもすごくいいぞ」
と父に言われ、
「わかった。ちょっと行ってくる」
子供には聞かせれない話をするんだなとすぐにわかった。だから俺はすぐにその言葉を飲んだ。
「それじゃ、行ってきます」
町を歩いてみても、周りは田んぼしかない。この辺には海もあったはずだが、海も見えない。
ただすごくいい風景だ。遠くに見える入道雲、蝉の鳴き声、緑の山や田んぼ、青が広がる空など全てが映える。
(こういうところに一人で歩くのもいいな)
そう思いながら歩いていると、ひとつの鳥居を見つけた。
(ここは、神社?)
赤い鳥居の先には階段が石の道が続いており周りは木々に囲まれていて神秘的な雰囲気を醸し出している。なぜかそこに惹き込まれ、俺は吸い込まれるように入っていった。中は木々の影のおかげですごく風が涼しく外の暑さなどを一切感じさせない空気感になっていた。
少し眠たくなってきた俺は木に体を寄せて座り込み少し眠ろうとした。
「周哉…周哉!」
頭が痛い、だれかから声をかけられてる気がする。目を開けてみると…
「…凛花?」
「違うよ私!三浦 涼夏!」
白いワンピースの女の子が立っていた、年は自分と同じくらいだろうか。全く見たことがない子だ、それは当然か。
「私のこと…覚えてないの?」
「…はい、全く」
でもこの子はなぜか俺がこの子を知っているのが当然であるかのように話してくる。生憎全く知らない。ただ…
「もう、忘れん坊だな〜周哉くんは相変わら ず。じゃあこの町のこともほぼ覚えてないん だ」
「…はい、全く」
ただ…
「もう〜!じゃあ私が案内してあげる!
着いてきて!」
「ちょっと…!勝手に引っ張らないでくださいよ!」
どこかであったことがあるような。
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