テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
183
48
どの位経っただろう。ほんの十数秒の気もするし、もっと長い時間が経った気もする。
「お前は、俺の弟だ」
漸く口を開いたかと思えば、凛はそう静かに答えた。
「それだけ?」
「……あぁ」
「本当に? 他に、何か思う事ない?」
「無い」
即答で返されて、蓮は唇を噛んだ。そんな筈はない。だって……。
「嘘だよ」
「何故そう思う?」
兄の声が僅かに低くなる。これ以上余計な詮索はするなとでも言いたいのだろう。だが、ここまできて引くわけにはいかない。
「兄さんは優しいから、僕に今まで気を遣ってくれただけなんだろ? 自分の気持ちを押し殺してさ」
「何の話だ?」
「僕はどうにも人の気持ちには鈍いみたいで、ずっと気付かなかったんだ。兄さんが僕の事をどんな風に見ていたかなんて」
「……だから何の話だと聞いている」
兄の声が僅かばかり荒くなる。それでも構わずに蓮は言葉を続けた。
「ナギのお陰で漸く気付いた。このままじゃ良くないって。だから、ちゃんと話してよ。兄さんの気持ち」
「くだらん。急に呼び出すから何事かと思えば……」
凛が苛立たし気に舌打ちをして、蓮を睨み付けくだらないとばかりにはき捨てるとソファから立ち上がった。
「何を勘違いしているのかは知らんが、お前は俺の大事な弟だ。それ以上でもそれ以下でもない」
それだけ言うと、そのまま玄関へ向かおうとする。このまま兄を行かせてしまったら、この関係はきっと修復のしようのない程こじれてしまう。なんとなくそんな気がした。
「兄さんは……そうやって意地張り続けて、ずっと一人で生きていくつもりなのかい?」
「っ……」
ドアノブに掛けた手がぴたりと止まり凛が、一瞬言葉に詰まる。
「……お前には関係無い事だ」
「あるよ。だって、僕は兄さんの事が好きだ。だから、本心を知りたい。血が繋がってるとかそんな事は抜きにして、一人の人間として、僕は兄さんと向き合いたい」
凛は何も言わなかった。
ただ射抜くような眼差しで蓮を見つめ、その沈黙は、壁に掛けられた時計の秒針の音さえ耳障りに感じるほど重くのしかかる。
それは蓮の不安を際限なく煽り続けた。
これは完全に自分のエゴだ。そもそも凛は、自分の気持ちを知ってほしいなんて思っていないのかもしれない。
それでも――このまま兄に本心を偽らせたまま行かせたくない。
どうか、その重い口を開いてほしい。
祈るような気持ちで見つめ続ける蓮に、やがて凛はわずかに眉を寄せると、長い沈黙の末に口を開いた。