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「お母さん、手紙届いたけど、何よ、お見合いって」
『前々から話は出ていたんだけど、相手の方が夏子の写真を見て、すごく気に入ったみたいでね』
「写真? っていうか、勝手に見せないでよね」
『まぁいいじゃない。それで、お見合いの事だけど、会うだけ会ってみて欲しいのよ』
「嫌よ、私絶対会わないから」
『そんな事言わないで、一度会うだけでいいから』
「嫌ったら嫌よ」
電話で断るはずが、お母さんは一歩も引いてはくれず、言い合いが続き時間だけが過ぎていく。
いつになっても決着のつかない電話に嫌気がさしてきた頃、いつまでも首を縦に振らない私にお母さんは、
『そんなに頑なに拒むなんて、あなたもしかして彼氏がいるの?』
お見合いを断る理由なんて、ただ単に気乗りしないだけだけど、ここは理由を作るのが手っ取り早い気がした私は、
「じ、実はそうなの! だからね、お見合い出来ないの」
『彼氏がいる』と嘘を吐く。
『あらそう、彼氏がいたのね。それならそうと言ってくれればいいのに。それじゃあ嫌よね、お見合いするの』
それを聞いたお母さんは私が頑なに拒んでいた事を納得してくれた。
(何だ、最初から嘘ついちゃえば良かったな)
これでお見合いの件は片付いたと心の中で喜んでいるとお母さんがとんでもない事を言い出した。
『実はお母さん、来週同窓会があって一度日本に戻るのよ。だからその時、色々聞かせてちょうだい』
「え? 同窓会? こっちに来るって、まさか私のマンションに泊まるつもり?」
『そのつもりでいるけど、無理ならいいわ。ホテルでも予約するから。彼氏がいて、お見合いしたくない気持ちは分かったけど、相手の方は会社の社長の息子さんだし、あなたの将来を考えたら悪い話じゃないのよ。だから、お母さんが納得出来るくらいの人であれば、お見合いの話は断るわ』
「そ、そんなっ!」
『分かってちょうだい。あなたはお父さんとお母さんの可愛い一人娘なのよ? 将来を心配するのは当たり前でしょ?』
「いや、でもっ!」
『理想を押し付けてるかもしれないけど、お母さんたちはね、夏子には苦労して欲しくないし、幸せになって欲しいのよ。お見合い話はお父さんも大賛成なの。だからね、今お付き合いしている彼がお見合い相手より相応しい人でないと、お父さんも納得はしないと思うわ』
「そんなぁ……」
『とにかく、来週一度時間作ってちょうだい。また連絡するわ』
「え、ちょっと、お母さん!?」
まだ言いたい事は沢山あったのだけど、無情にも電話は一方的に切られてしまった。
「どーした? 断れなかったのか?」
リビングに居た尚は電話が終わった事に気付いたらしく、私の居る寝室へひょっこり顔を見せてきた。
そんな尚に私は、
「どうしよう、尚……」
困った表情を浮かべながら事の次第を説明した。
「――そりゃ、難しいな、だって相手は社長の息子なんだろ? それより良い条件の相手なんていねぇよ」
私の話をひと通り聞き終えた尚は、ズバリ言い放つ。
「いや、それはそうかもしれないけどさ、相手が社長の息子だろうと何だろうと、私はお見合いなんてしたくないのよ」
尚の言う通り、見合い相手以上の人なんてそうそういないと理解はしている。
けど、だからって簡単にお見合いをOKする訳にはいかない。
「つーか、そもそも夏子に彼氏なんていねーじゃん」
「そんなの分かってるわよ。そう言えば諦めてくれると思ったんだもん」
「無理だったんだから、諦めて見合いして来いよ。するだけして、やっぱり合わないとか言えばいいんじゃねぇの?」
「お見合いした時点で話が進みそうで怖いし、それ以前に会って相手が更に私を気に入ったりしたら余計ややこしくなりそうで嫌だよ」
「嫌だって言ってもなぁ……」
私の言葉に尚は困った表情を浮かべて頭を掻く。
「尚だって、行くところなくなるんだよ? 困るでしょ?」
「そりゃそうだけど、どーしようもなくないか?」
「それを一緒に考えて欲しいの」
「考えるっつったって……」
とはいえ、短期間で彼氏を作るなんて無謀過ぎる。
何か手はないか考えていると、私の中である案が浮かんできた。
「ねぇ尚」
「ん?」
尚の名を呼んで一呼吸置いた私は、
「私の彼氏のフリをしてくれない?」
今さっき思いついた『尚に私の彼氏役をやってもらう』という案を口にした。