テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「はぁ!?」
私のお願いというか提案に心底嫌そうな表情を浮かべる尚。
「お願い! とりあえず彼氏がいない事には話にならないし、そんなすぐに彼氏作るなんて無理だし……」
「やだよ。めんどくさい。しかも彼氏のフリって言ったら女装出来ねぇから俺の正体バレるかもしれねぇじゃん」
「お母さんそういうのに疎い人だし、まさか久遠のナオが私の彼氏だなんて思わないし、仮に気付いても似てる人だなって思うくらいだって。それに外で会う訳じゃないから他の人にはバレないし! ね? お願い!」
「やだ」
「そこを何とか!」
「やだったらやだ」
暫く押し問答が続く。
(何よ、私は尚に協力してあげてるっていうのに)
そうは思うも、それを口には出さない。
が、しかし、尚が駄目となると代わりの人を探さないとならない。
(尚がダメなら……仕方ない、事情を話して彬にでも頼むか……)
「分かった、もういいよ。他の人に頼むから」
私が諦めて先に引くと、
「他の人って、誰に頼むの?」
断ったのは自分の癖に、気になるのか誰に頼むのかをさり気なく聞いてくる。
「男友達なんて全然いないし、仕方ないから、彬に頼んでみようかと」
そう私がそう答えると、
「彬? って、あのしつこい奴かよ」
一気に表情が険しくなる。
そう言えば、尚は彬の事を嫌っているのだ。
「仕方ないじゃない。こんな事、他に頼めそうな人いないんだもん」
まさか、いくらフリとは言え、その辺の男の人に頼む訳にもいかないのだから、適任なのは彬くらい。
「早速彬に連絡して――」
善は急げとスマホを手に取り、彬に連絡しようとアドレスから彬の名前を探していると、
「ったく、仕方ねぇな、俺が引き受けてやる」
どういう心境の変化なのか突然、尚が引き受けると言い出したのだ。
「本当?」
正直私としては、彬でも尚でも引き受けてくれるならどちらでも良い。
「ああ、夏子には世話になってるからな」
(そう言うなら最初から快く引き受けてくれればいいのに)
まぁ何にしても、引き受けてくれるというのだから有難い。
尚の急な心変わりを疑問に思いつつも、そこには触れず、
「それじゃあお母さんが来る日だけ、彼氏役よろしくね」
「おう」
尚の気が変わらない内に約束を取り付けた。
何とか彼氏の問題は解決し、お母さんと連絡を取り、同窓会は日曜日にあるらしいから土曜日に尚も混じえ、私の部屋で会う事になった。
「そうだ、嘘がバレないように、細かい設定も決めておかなきゃ」
私と尚の間で矛盾があっては嘘がバレてしまう。
そうならないようお母さんと会うまでにきちんと設定を決めておく事にした。
設定としては、こうだ。
尚は県外の大学に通う、大学四年生。
お母さんと会う当日は、県外からわざわざやって来たという事で、その日は私の部屋に泊まる事にして、尚が帰らなくて済む様な嘘を吐く。
大学四年生という事で、恐らくお母さんは就職についても気になって聞いてくると思うからボロが出ないように、尚は自分が所属している芸能事務所のマネージメントに就くという設定にした。
「マネージャーの仕事ならよく分かってるし、自分の所属事務所の事もある程度分かってるから、ボロは出ねぇよ」
尚は自信満々だ。
後は、どうやって出会ったのかという話だけど、これは友人の紹介という事に決めた。
ひとまず、これくらい決まっていれば後は適当に切り抜けられるはずだ。
とにかくお母さんがやって来る一日だけ乗り切れば大丈夫、そう軽い気持ちで当日を迎えたのだけど――事態は思わぬ方向へ動いていた。