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第61話「二人だけの大阪出張」
月曜日。
午前九時。
朝会。
部長が予定表を見ながら言った。
「来週、大阪出張あるから」
相沢が顔を上げる。
「例の新商品ですか?」
「そう。先方の役員向けプレゼン」
森野も資料を見る。
「担当は?」
部長。
「相沢と森野」
田中。
すぐに反応。
「二人?」
森野。
「田中さん」
「まだ何も言ってません」
「顔が言ってます」
部長。
「一泊な」
田中。
「一泊!」
森野。
「大きな声出さないでください」
「だって」
「出張です」
「分かってます」
「仕事です」
「分かってます」
「ホテルは当然別です」
田中。
「そこまで聞いてません」
森野。
止まる。
相沢。
笑う。
「自分から説明してる」
「相沢さんは黙ってください」
午前十時。
会議室。
プレゼン準備。
相沢。
「先方は八人」
森野。
「役員が二人です」
「質問多そうだな」
「前回のメールを見る限り、価格より継続性を気にしています」
「じゃあ実績データを前に出そう」
「賛成です」
二人。
資料。
直す。
相沢。
「ところで」
「はい」
「ホテル」
森野。
手。
止まる。
「何です?」
「会社が取ってくれるよね」
「そうでしょうね」
「同じホテルかな」
「知りません」
「別のホテルだったら面倒だな」
「同じホテルでも」
森野。
相沢を見る。
「部屋は別です」
「知ってる」
「確認です」
「誰に?」
会議室。
ドア。
開く。
田中。
「私ですか?」
森野。
「何でいるんですか!」
「資料取りに来ただけです」
「今の忘れてください」
「ホテルは同じで部屋は別」
「忘れてない!」
出張当日。
東京駅。
午前七時二十分。
相沢。
先に到着。
コーヒー。
森野。
七時二十七分。
キャリーケース。
持ってくる。
「おはようございます」
「おはよう」
「早いですね」
「森野さんも」
「仕事ですから」
「朝飯は?」
「食べました」
「何?」
「パン」
「俺も」
「どうでもいい情報ですね」
「朝から冷たい」
新幹線。
隣同士。
森野。
窓側。
相沢。
通路側。
発車。
最初の一時間。
二人とも。
パソコン。
仕事。
森野。
資料。
確認。
「相沢さん」
「はい」
「三十七ページ」
「うん」
「数字違います」
「本当だ」
「直します」
「お願いします」
名古屋。
通過。
森野。
パソコン。
閉じる。
「少し休みます」
「寝れば?」
「寝ません」
「昨日何時に寝た?」
「十二時」
「起きたの?」
「五時半」
「寝たほうがいい」
「大丈夫です」
十分後。
森野。
寝る。
相沢。
横を見る。
完全に。
寝ている。
さらに。
二十分。
森野の頭。
ゆっくり。
傾く。
相沢の肩。
乗る。
相沢。
動けない。
スマートフォン。
ポケット。
取れない。
コーヒー。
飲めない。
でも。
起こさない。
京都。
森野。
目。
開く。
「……」
自分の位置。
確認。
すぐ。
離れる。
「すみません」
「大丈夫」
「どれくらい?」
「四十分」
「起こしてください」
「気持ちよさそうだったから」
森野。
窓。
見る。
「会社の人に見られなくてよかった」
相沢。
「写真撮ればよかった」
森野。
振り向く。
「撮りました?」
「撮ってない」
「本当に?」
「本当」
「ならいいです」
少し。
間。
「……撮ってもよかったですけど」
「え?」
「何でもありません」
大阪。
午後一時。
取引先。
会議室。
役員。
担当者。
八人。
森野。
説明。
「今回の提案では、短期的な売上だけではなく――」
質問。
「この数字の根拠は?」
森野。
「過去三年間の実績値と、同規模案件五件の平均値です」
別の役員。
「予定通り進まなかった場合は?」
相沢。
「第二案へ切り替えます」
資料。
表示。
森野。
「こちらです」
二人。
連携。
森野が説明すれば。
相沢が数字。
相沢が話せば。
森野が資料。
ほとんど。
打ち合わせなくても。
次が分かる。
一時間半。
終了。
先方。
「非常に分かりやすかったです」
森野。
「ありがとうございます」
「社内で前向きに検討します」
相沢。
「よろしくお願いいたします」
外。
ビル。
出る。
森野。
大きく。
息。
吐く。
「終わりました」
「お疲れ」
「相沢さんも」
「うまくいったね」
「たぶん」
スマートフォン。
確認。
午後四時二十分。
相沢。
「会社から直帰扱い」
森野。
「大阪なので帰れません」
「直ホテル」
「そうですね」
「夕飯どうする?」
森野。
「経費ですか?」
「自腹」
「では安いところで」
「現実的」
ホテル。
チェックイン。
森野。
八階。
相沢。
九階。
フロント。
カードキー。
渡される。
森野のスマートフォン。
通知。
田中。
『ホテル着きました?』
森野。
返信。
『着きました』
十秒。
『同じホテル?』
『はい』
五秒。
『部屋は?』
森野。
『別です』
即。
『残念』
森野。
スマートフォン。
閉じる。
相沢。
「田中さん?」
「はい」
「何て?」
「教えません」
午後六時。
ロビー。
待ち合わせ。
森野。
仕事用ジャケット。
脱いでいる。
白いシャツ。
黒いパンツ。
相沢。
「雰囲気違う」
「仕事終わりましたから」
「似合ってる」
森野。
少し。
止まる。
「ありがとうございます」
二人。
大阪の街。
歩く。
「何食べる?」
「何でも」
「一番困る答え」
「相沢さんが決めてください」
「たこ焼き」
「夕食ですよ」
「お好み焼き」
「粉から離れてください」
「大阪なのに」
結局。
小さな居酒屋。
カウンター。
二人。
乾杯。
森野。
「今日は」
「うん」
「ありがとうございました」
「何が?」
「プレゼン」
「ああ」
「途中、私が資料を飛ばしたところ」
「気づいた?」
「当然です」
「俺が戻した」
「はい」
「森野さんも俺の説明一個飛ばしたの戻したでしょ」
「お互い様ですね」
相沢。
「息合ってた」
森野。
「長く一緒に仕事してますから」
「それだけ?」
森野。
グラス。
置く。
「それだけじゃ」
止まる。
「何?」
「言いません」
「気になる」
「仕事の話しましょう」
「もう仕事終わった」
森野。
少し。
笑う。
「そうでした」
食事。
続く。
会社の話。
田中の話。
部長の話。
どうでもいい話。
森野。
珍しく。
よく笑う。
午後八時半。
店。
出る。
ホテルまで。
歩く。
森野。
「出張」
「うん」
「意外と楽しいですね」
「仕事だけど」
「仕事です」
「また来たい?」
「案件があれば」
「俺と?」
森野。
歩く。
「それは」
「うん」
「誰でも」
「誰でも?」
「……」
数歩。
「相沢さんのほうが」
「うん」
「やりやすいです」
「仕事が?」
「仕事が」
「そこ強調するんだ」
「当然です」
ホテル。
エレベーター。
二人。
八階。
止まる。
森野。
降りる。
「では」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
扉。
閉まりかける。
森野。
「あ」
相沢。
開くボタン。
「何?」
「明日」
「うん」
「朝食」
「一緒に食べます?」
「もちろん」
「七時半で」
「了解」
森野。
降りる。
扉。
閉まる。
九階。
相沢。
部屋。
入る。
十分後。
スマートフォン。
通知。
森野。
『今日はありがとうございました』
相沢。
『こちらこそ』
森野。
『仕事のことです』
『分かってます』
一分。
『食事も楽しかったです』
相沢。
少し。
笑う。
『俺も』
『おやすみなさい』
『おやすみ』
終わり。
と思った。
一分後。
通知。
『一つだけ』
『何?』
入力中。
消える。
入力中。
また。
消える。
三回。
ようやく。
『同じホテルなのに別々の部屋なの、少し変な感じがします』
相沢。
読む。
『毎日一緒に寝てるから?』
既読。
返信。
来ない。
五分。
十分。
十五分。
ようやく。
『その質問には回答しません』
相沢。
笑う。
翌朝。
七時半。
朝食会場。
森野。
先にいる。
「おはようございます」
「おはよう」
「昨日のメッセージ」
森野。
「忘れてください」
「まだ何も言ってない」
「忘れてください」
二人。
朝食。
相沢。
「今日、十時の新幹線?」
「はい」
「少し時間あるね」
「九時半には駅へ行きます」
「真面目」
「仕事ですから」
背後。
「あれ?」
声。
二人。
振り返る。
会社の。
別部署の社員。
偶然。
同じホテル。
「相沢さん?」
「おはようございます」
「森野さんも?」
「おはようございます」
社員。
二人を見る。
朝。
ホテル。
二人。
同じテーブル。
「二人で出張?」
森野。
「はい」
「同じホテル?」
「会社が予約したので」
「なるほど」
少し。
笑う。
森野。
「部屋は別です」
相沢。
「森野さん」
「はい」
「また自分から説明してる」
森野。
止まる。
社員。
「何も聞いてませんよ」
森野。
「……」
月曜日。
営業企画部。
田中。
走ってくる。
「森野さん!」
森野。
顔。
上げる。
「もう知ってるんですか」
「大阪で同じホテルだったって!」
「出張です」
「朝一緒にいたって!」
「朝食です」
「二人で!」
「二人で出張ですから!」
田中。
「楽しかった?」
森野。
「仕事です」
相沢。
隣。
「楽しかったよ」
森野。
振り向く。
「相沢さん!」
「出張が」
「付け足すの遅いです!」
田中。
笑う。
部長。
「お前ら」
四人。
見る。
「大阪の結果」
森野。
「はい」
相沢。
「すみません」
部長。
メール。
画面。
見せる。
「正式に」
「採用決まった」
森野。
「本当ですか?」
「おう」
相沢。
「やった」
森野。
思わず。
相沢の手。
握る。
「……」
「……」
田中。
見る。
部長。
見る。
藤堂。
見る。
森野。
気づく。
ゆっくり。
手。
離す。
「今のは」
田中。
「勤務時間中ですね」
森野。
「採用が決まったので!」
「仕事上の握手?」
「そうです!」
相沢。
「俺、握手だと思ってなかったけど」
森野。
「相沢さん!」
部長。
笑う。
「まあ」
「結果出したから」
二人を見る。
「今日くらい好きにしろ」
森野。
「好きにはしません!」
営業企画部。
笑い。
その日の昼。
社員食堂。
森野。
相沢の隣。
座る。
田中。
正面。
「今日は堂々と隣ですね」
森野。
「プロジェクト成功のお祝いです」
相沢。
「じゃあ明日から離れる?」
森野。
少し。
考える。
「……席が空いていれば」
「うん」
「座ってもいいです」
田中。
「会社でもだんだん恋人になってきましたね」
森野。
否定しようとして。
やめた。
「まあ」
相沢を見る。
「少しくらいなら」
会社でも。
恋人でいるのは。
悪くない。
そう思い始めていた。
コメント
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読了しました…🌙 もう、今回の大阪出張回、心臓に悪かったです…。 新幹線でうたた寝して肩に頭を乗せちゃうシーン、起こさない相沢さんの優しさがにじんでて、"写真撮ってもよかったです"ってあとから言っちゃう森野さんのツンデレが尊すぎて倒れるかと思いました。 「毎日一緒に寝てるから?」って返し、それ反則ですよ相沢さん…(笑) 最後、握った手を離したあとの、「少しくらいなら」って会社でも恋人でいるのを認める森野さん、一歩進んだのがひしひし伝わってきて、すごく嬉しかったです。 nashirinさんのこういう、日常に溶け込む甘さが本当に好きです。素敵な話をありがとうございます🍀