テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第62話「社内恋愛にライバルが現れる」
大阪出張から一週間。
営業企画部。
午前十時。
受付から内線が入った。
部長が電話を取る。
「はい。……ああ、分かりました」
電話を切る。
「相沢、森野」
「はい」
「大阪の取引先から三浦さんが来てる」
森野が顔を上げた。
「今日でしたっけ?」
「いや。近くまで来たから挨拶したいって」
相沢。
「分かりました」
田中。
「三浦さん?」
森野。
「大阪の担当者です」
「男性?」
「そこ重要ですか?」
「一応」
「三十五歳の男性です」
田中。
「独身?」
「知りません!」
応接室。
三浦拓海。
大阪でプレゼンを聞いていた担当者。
背が高く、スーツの着こなしもきれいだった。
「突然すみません」
相沢。
「いえ。先日はありがとうございました」
森野。
「正式採用になったと伺いました」
「はい。森野さんたちのおかげです」
「こちらこそありがとうございます」
三浦。
資料を出す。
「今後のスケジュールなんですが」
打ち合わせ。
三十分。
完全に仕事。
最後。
三浦が資料を鞄に入れる。
「それでは」
「ありがとうございました」
森野も立つ。
三浦。
少し迷ってから言った。
「森野さん」
「はい」
「大阪、また来られます?」
「案件次第だと思います」
「そうですよね」
三浦。
笑う。
「もし来られたら、おいしい店案内しますよ」
「ありがとうございます」
「前回、あまり大阪らしいもの食べられなかったでしょう?」
森野。
「どうして分かるんですか?」
「相沢さんと居酒屋に行ったって聞きました」
森野。
止まる。
「どこから?」
三浦。
「うちの担当から」
相沢。
「情報回るの早いですね」
「狭い業界なので」
森野。
「怖いですね」
三浦。
笑う。
「じゃあ次は僕が案内します」
「機会があれば」
三浦。
帰る。
廊下。
相沢。
森野。
二人。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「静かですね」
「そう?」
「さっきから」
「仕事終わったから」
「そうですか」
「そうです」
森野。
横顔。
見る。
「もしかして」
「何?」
「何でもありません」
営業企画部。
戻る。
田中。
待っている。
「どうでした?」
森野。
「順調です」
「三浦さん」
「仕事の話です」
「森野さんに大阪の店紹介するって」
森野。
止まる。
「なぜ知ってるんです?」
「廊下」
「聞いてたんですか?」
「偶然です」
「絶対嘘」
田中。
相沢を見る。
「相沢さん」
「何?」
「大丈夫?」
「何が?」
「ライバル」
相沢。
「取引先だよ」
「余裕ですね」
「普通です」
森野。
自分の席へ。
パソコンを開く。
五分後。
メール。
三浦から。
森野宛て。
相沢。
CC。
『本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。』
普通。
その下。
『次回大阪へお越しの際は、ぜひお声がけください。おすすめのお店をご案内します。』
森野。
読む。
相沢も。
読む。
相沢。
「返信する?」
「しますよ」
「何て?」
「普通に」
森野。
入力。
『こちらこそありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。』
送信。
相沢。
「店のこと触れないんだ」
森野。
「仕事のメールですから」
「そう」
「何です?」
「別に」
森野。
少し。
笑う。
「安心しました?」
「してない」
「じゃあ」
森野。
わざと。
「次に大阪へ行ったら」
相沢。
見る。
「三浦さんに」
「うん」
「お店」
「うん」
「案内してもらおうかな」
相沢。
「二人で?」
森野。
「さあ」
「森野さん」
「はい」
「遊んでる?」
「少し」
相沢。
「性格悪いな」
「相沢さんが分かりやすいので」
翌日。
午前十一時。
三浦とのオンライン会議。
画面。
三浦。
森野。
相沢。
三人。
三浦。
『よろしくお願いします』
「よろしくお願いします」
打ち合わせ。
納期。
予算。
広告展開。
真面目。
二十分。
三浦。
『森野さん』
「はい」
『昨日送っていただいた修正版、すごく分かりやすかったです』
「ありがとうございます」
『森野さんが作られたんですか?』
「相沢さんと二人です」
三浦。
『そうなんですね』
森野。
「むしろ相沢さんの修正のほうが多いです」
相沢。
少し。
森野を見る。
三浦。
『お二人、本当に息が合ってますね』
森野。
「長く一緒に仕事してますので」
相沢。
「そうですね」
三浦。
『羨ましいです』
会議終了。
画面。
消える。
相沢。
「森野さん」
「はい」
「今」
「何です?」
「俺のこと褒めた?」
「事実を説明しただけです」
「珍しい」
「失礼ですね」
「家でも褒めていいよ」
「考えておきます」
「考えるんだ」
昼。
社員食堂。
相沢。
森野。
田中。
藤堂。
四人。
田中。
「オンライン会議どうでした?」
森野。
「普通です」
「三浦さん?」
「普通です」
「相沢さん?」
「何?」
「嫉妬しました?」
「してない」
森野。
箸。
止まる。
「してないんですか?」
相沢。
「え?」
田中。
森野を見る。
「何で森野さんが不満そうなんです?」
「不満じゃありません」
「嫉妬してほしい?」
「そんなことありません」
相沢。
「少しはしたよ」
森野。
止まる。
「少し?」
「結構」
森野。
「……そうですか」
田中。
「嬉しそう」
「今日のカレーがおいしいだけです」
藤堂。
「今日、そばです」
森野。
「藤堂君」
「はい」
「静かに食べてください」
数日後。
午前十時。
受付から。
また内線。
「森野さんにお客様です」
森野。
「どなたですか?」
『三浦拓海様です』
森野。
「今日?」
部長。
予定表。
見る。
「入ってないぞ」
相沢も。
顔を上げる。
田中も。
顔を上げる。
森野。
受付へ。
三浦。
立っている。
手に。
小さな紙袋。
「すみません」
「どうされました?」
「近くまで来たので」
紙袋。
差し出す。
「これ」
「何です?」
「大阪のお菓子です」
森野。
受け取ろうとして。
止まる。
「会社に?」
三浦。
少し。
迷う。
「森野さんに」
森野。
表情。
変わる。
そのとき。
後ろ。
相沢。
資料を持って。
歩いてくる。
三浦。
相沢に気づく。
「あ」
相沢。
「こんにちは」
「こんにちは」
三人。
微妙な。
沈黙。
三浦。
森野を見る。
「森野さん」
「はい」
「あの」
少し。
緊張。
「今度」
「はい」
「仕事抜きで」
森野。
察する。
三浦。
「食事、行きませんか」
相沢。
止まる。
森野。
数秒。
黙る。
「あの」
「はい」
「すみません」
三浦。
「……」
森野。
「私」
一瞬。
相沢を見る。
そして。
はっきり。
「付き合っている人がいます」
三浦。
「あ」
「なので」
「そうだったんですね」
「はい」
三浦。
苦笑。
「知らなくて」
「会社ではあまり言っていないので」
「すみません」
「いえ」
三浦。
紙袋。
引っ込めようとする。
森野。
「あ」
「はい?」
「それ」
紙袋。
「会社へのお土産ということなら」
三浦。
笑う。
「そうしてください」
「ありがとうございます」
三浦。
帰る。
受付。
森野。
相沢。
二人。
相沢。
「森野さん」
「はい」
「俺」
「何です?」
「出番なかった」
「私の問題ですから」
「そうだけど」
「何です?」
「ちょっと嬉しかった」
森野。
「何が?」
「付き合ってる人がいるって」
「事実でしょう」
「俺って言わなかったけど」
森野。
「他にいたら大問題でしょう!」
営業企画部。
戻る。
田中。
待っている。
「どうでした?」
森野。
紙袋。
机。
置く。
「大阪のお菓子です」
「それだけ?」
「それだけです」
相沢。
「食事に誘われてた」
森野。
振り向く。
「相沢さん!」
田中。
立ち上がる。
「詳しく!」
「仕事してください!」
部長。
紙袋。
見る。
「それ、みんなで食べていい?」
森野。
「どうぞ!」
「じゃあ問題解決」
田中。
「部長、それでいいんですか?」
「菓子に罪はない」
午後三時。
大阪のお菓子。
配られる。
相沢。
一個。
食べる。
「うまい」
二個目。
取る。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「二個目です」
「うん」
「一人一個です」
「余ってる」
「それ私のです」
相沢。
止まる。
「食べる?」
「食べます」
「じゃあ半分?」
森野。
少し考える。
「……半分なら」
給湯室。
二人。
一個のお菓子。
半分。
相沢。
「森野さん」
「はい」
「三浦さん」
「はい」
「結構かっこよかったよね」
「そうですね」
「認めるんだ」
「客観的に」
「俺とどっち?」
森野。
「会社でその質問します?」
「今誰もいない」
「答えません」
「じゃあ家で」
森野。
「家なら」
「うん」
「考えます」
夜。
自宅。
夕食。
相沢。
「で」
森野。
「何です?」
「昼の質問」
「忘れてませんでしたか」
「俺と三浦さん」
森野。
味噌汁。
飲む。
「比較できません」
「何で?」
「種類が違います」
「種類?」
「三浦さんは」
「うん」
「爽やかで」
「うん」
「仕事もできて」
「うん」
「スマートです」
相沢。
「全部褒めるじゃん」
森野。
「相沢さんは」
「はい」
「一緒にいて」
少し。
間。
「楽です」
相沢。
「それ褒めてる?」
「ものすごく」
「もっとない?」
森野。
考える。
「冷蔵庫の残り物を食べてくれる」
「それ?」
「ゴミ出し忘れない」
「生活能力」
「私が朝起きられないと起こしてくれる」
「彼氏としては?」
森野。
黙る。
相沢。
待つ。
「……好きです」
相沢。
「もう一回」
「言いません」
「聞こえなかった」
「絶対聞こえてます」
「もう一回」
森野。
「食器洗ってください」
「逃げた」
「今日は相沢さんの担当です」
翌朝。
会社。
相沢。
機嫌がいい。
田中。
すぐ気づく。
「相沢さん」
「何?」
「何かいいことありました?」
「別に」
森野。
遠くから。
「田中さん」
「はい」
「聞かなくていいです」
田中。
二人を見る。
「昨日何かありました?」
二人。
同時。
「何もありません」
田中。
「絶対あった」
その日の午後。
部長。
「相沢、森野」
「はい」
「来月の展示会」
資料。
渡す。
「二人で担当して」
森野。
「分かりました」
相沢。
「了解です」
部長。
「三日間」
「はい」
「会場で一緒に立ってもらう」
田中。
すぐ。
「三日間ずっと一緒」
森野。
「仕事です」
部長。
さらに。
「今回は来場者対応だから」
二人を見る。
「会社の顔だと思って頼むぞ」
森野。
「はい」
相沢。
「任せてください」
部長。
去る。
森野。
資料。
開く。
「かなり大きい展示会ですね」
「忙しくなりそう」
「ちゃんと準備しましょう」
「了解」
田中。
「三日間、ずっと隣」
森野。
「だから仕事です」
相沢。
「でも」
「何です?」
「三日間ずっと森野さんと一緒か」
森野。
「嫌ですか?」
「逆」
森野。
一瞬。
黙る。
「……会社です」
相沢。
「まだ何もしてない」
森野。
資料。
相沢へ。
渡す。
「これ読んでください」
「照れた?」
「仕事してください」
次の。
二人の仕事は。
三日間。
朝から夕方まで。
ずっと。
隣。
森野はまだ知らなかった。
その展示会で。
相沢が。
会社中に知られるほどのことを。
してしまうことを。
コメント
1件
第62話、めっちゃ良かったです!三浦さん、爽やかで仕事もできるイケメンライバル登場かと思いきや、森野さんが「付き合っている人がいます」ってはっきり断るシーンで胸がスッとしました🔥 その後、相沢さんが嬉しそうに「出番なかった」とか言い出すところも可愛いし、お菓子を半分こするくだりにほっこりしました。ラストの展示会で「会社中に知られるほどのこと」って伏線、何が起きるのか気になりすぎます!次の話も楽しみにしてます📖