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「クレハは今頃王宮かな……」


今日は天気も良く風も穏やかだ。気温もそこまで高くない。屋外でお茶会をするには打って付けだろう。クレハの話だと昼過ぎに例の茶会があったはずだ。婚約者の王子との顔合わせは無事に終わったのだろうか。

それにしても、あの歳で婚約とは……あいつの身分的に特段珍しい事ではないのだろうけど。


貴族の結婚は家同士の結び付きが需要視される。生まれた時から相手が決まっていたなんて事すらざらだ。お互いが好き同士で恋愛結婚する方がレアケースなのだ。実際クレハも驚いてはいたが、顔すら知らない王子との婚約を告げられても嫌がったりショックを受けた様子は無かった。妙に達観しているというか……いや違うな。そうするのが当たり前だと思っているのだろう。


『ひと事だから』なんて素っ気なくしてみたけど、本音は少し心配だった。たった1人の人間の子供にここまで入れ込むべきではないと分かってはいる。けれど、この婚約のせいであの銀髪の少女の顔が曇るのはあまり見たくはなかった。我ながら絆されている自覚はある。おかみに知られたら、またお叱りを受けそうだ。

クレハが家に帰ってきたら話を聞かせて貰おう。政略結婚でも仲睦まじい夫婦だっている。その全てを悪い方に考えてしまうのは良くない。相手の王子だって子供だ。もしかしたら将来……お互いが熱烈に惹かれ合うなんて事もあるかもしれないのだから。結論を出すのはまだ早い。


クレハについてはもう1つ気がかりな事があった。あのコンティドロップスのピアスだ。ケーキ屋の主人にペットを助けた礼として貰ったらしいが、コンティドロップスはローシュの国宝みたいな物。他国の人間が簡単に手に入れられる代物じゃない。そんな貴重な石を礼とはいえ、年端もいかない少女にぽんっと渡すのが不自然過ぎる。どう考えても石の使い方を理解した上でクレハに贈ったとしか思えないのだ。

石に込められた魔力の持ち主はメーアレクトの血族だろう。ディセンシア家に所縁ゆかりの者が関わっているのだとしたら、クレハと王子の婚約とも何か関係があるのかもしれない。あんな強い力を宿した人間なんて、そうそういるわけがないからな。それが自身の血筋の者ならば、メーアレクトはそいつを把握しているはずだ。

それはケーキ屋本人なのか、もしくは別の誰かか……。どちらにせよ、メーアレクトが何か知っているのは間違いないだろう。そしてコンティドロップスも恐らくは……

俺はある事を確認する為に、ローシュのコンティレクトに会いに向かったのだった。
















その後、コンティレクトからの情報提供により、予想を確信に変えた俺はメーアレクトの根城である大神殿『リオラド』に足を踏み入れた。


「ここに来るのは久しぶりだな」


『リオラド』……別名を海の神殿とも言う。コスタビューテの守り神として、民から崇められているメーアレクト。彼女を祀る為に建立されたそれは、王宮がある島の隣に位置する小島の上にある。王宮とは橋で繋がっているが基本は立ち入り禁止。祭祀などがある時にしか開放されていない神聖な場所だ。メーアレクトよりも立場が上である俺には関係のない事だけど。


神殿は青みがかった白い石を使った石造りで、壁や柱には細やかで華美な装飾が施されている。海の神殿と呼ばれているだけあって、あちこちに魚や珊瑚など海の生き物をモチーフにした彫刻がある。神殿の入り口の前には円形の大きな噴水があり、吹き上げる水が太陽の光を受けて輝いて見え、幻想的な雰囲気を演出していた。

高めの敷居を登ると、重厚な扉が姿を現す。俺はゆっくりとその扉を押し開けて中に入る。広い通路を歩いていくと、足音が周りの壁に反射して神殿内に響き渡った。そのまま奥まで進んで行く。すると、祭壇のある開けた場所に出た。

広間に入って一番に目に付くのは、メーアレクトをイメージして作られたであろう彫像だ。『美人に作ってくれてる』とか言って、彼女はその像がお気に入りだったな。彫像の腕が抱きかかえるように、祭壇の上には巨大な球状の水槽が設置してある。そこには、なみなみと水が満たされ、中には数匹の魚が泳いでいた。俺はその水槽の前まで近づくと、そこに向かって呼びかける。


「おい! メーア、いるか? ルーイ様の御成だぞ」


直後、水槽の水が揺らめきコポコポと水泡が浮かび上がる。1匹の魚が激しく泳ぎだした。水中をぐるぐると回り、勢いをつけて水面に向かって浮上すると、そのまま外へ飛び出す。

青い鱗に覆われた表皮は水を纏い、そこからこぼれ落ちた雫が周囲に飛び散りキラキラと輝いている。魚は暫し空中を優雅に漂っていたが、やがてその体が青白い光に包まれる。光の中でうっすらと見える魚のシルエットが徐々に形を変えて大きくなっていく。ヒレや尾はまるで人間の手足の様になり、体もまろやかな女性の肢体へと姿を変えた。


「お久しぶりです、ルーイ様」


光の中から現れたのは魚から人型に見た目を変化させたメーアレクトだ。水色の長い髪をたなびかせ、濃紺のドレスに身を包んだその姿は海の女神と呼ばれるにふさわしく艶やかで美しい。


「400年ぶりくらいだな。息災か?」


「ええ、おかげさまで。ルーイ様の方もお変わりなさそうで……相変わらず素敵ですわ」


メーアレクトは祭壇から降りると、俺に向かって挨拶をする。綺麗なカーテシーだ。


「コンティの話を聞いてまさかとは思っておりましたが、本当にこちらにお戻りだったのですね。でも……私の記憶違いでなければ、ルーイ様はリフィニティ様のお仕置きの真っ最中だったはずです。もうお許しが出たのですか?」


「……………」


「ルーイ様……まさか」


「しーっ! 黙ってろ。まだお上にはバレてないんだ。熟睡してるみたいだから後1000年は起きない! お前たちが騒がなければ気づかれる事はない。余計なことはするなよ」


せっかく自由になれたのにまた閉じ込められては堪らない。俺を宝石に閉じ込めた張本人である、お上ことリフィニティ様が昼寝をしていて本当にツいていたのだ。


「そういうことですか。だから私たちに事前に口止めをしにいらっしゃったのですね」


「まぁな。それもあるが、今日お前の所に来たのはちょっと聞きたい事があったからだ」


そうだ。本題を忘れてはいけない。何をしにここまで来たと思ってるんだ。


「あら? なんでしょう」


「メーア、おまえ最近コンティドロップスを人間に渡したという事はないか?」


「……どうしてそんなことを」


「俺はな……とある縁でこの国の人間の子供と知り合ったんだが、そいつの元にコンティドロップスが送られて来た。それに込められた魔力はコンティのものではなかったが、かなり強いものでな。お前のものと酷似していた」


「それを私が送ったのだとお考えで?」


「いや送り主は分かっている。街のケーキ屋の主人だと。だがな……お前も知っての通り、コンティドロップスはコンティのお膝元、ローシュで厳重に管理されてる。外部に簡単に出回るようなものじゃないな。現にコスタビューテでお目にかかった事は、俺ですら一度もない。俺たちのようにコンティ本人に直接貰うことができれば話は別だけどね」


メーアレクトは黙って俺の話を聞いている。その表情から何を思っているか読み取る事はできないが、俺は彼女に更に問いかける。


「なぁ、メーア。そのケーキ屋に心当たりはないか? 十中八九お前の血筋か、それに近しい立場の人間だと思うんだが……。そして俺はそいつに石を横流ししたのはお前なんじゃないかと踏んでる」


「……驚きました」


「うん?」


「あっいえ、質問にお答えしますね。そのケーキ屋の主人ですが……ルーイ様のおっしゃる通り、私には思い当たる人物がおりますわ。過去、その人物にコンティドロップスを渡した事もあります」


「やっぱりそうか。石の魔力がお前のものと似てる時点で無関係ではないと思ってはいたがな。実はここに来る前にコンティにも確認してたんだよ。メーアレクトが石を貰いに来なかったかってな」


「ルーイ様ったら分かってて聞いたんですね。お人が悪い。コンティもお喋りなんだから。まぁ、ルーイ様から問いだたされれば言わない訳にはいかないでしょうけど」


「メーア、そのケーキ屋はいったい何者なんだ?」


メーアレクトは美しい顔を綻ばせ小さく笑った。


「では、お茶でも飲みながらゆっくりお話し致しましょう。奥の部屋にテーブルと椅子がありますので……あっ! ルーイ様のお好きな甘いお菓子もありますよ」


いつの間にそんな物が……前に来た時は無かったぞ。しかし、甘いお菓子とは非常に魅力的だな。俺はメーアレクトの提案に従うことにする。彼女の後に付いて奥の部屋に向かった。


「まさか、あの子が言ってた不審な人物の正体がルーイ様だったなんて……」


「はぁ? 何のことだ」


「ルーイ様、その縁があって知り合ったという人間の子供って……公爵家のお嬢様じゃありません?」

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