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家庭科室に行くと既にみんなが揃っていた。
「せーんぱいっ! 会いたかったよ! おかえりなさい」
開口一番にそう言って私に抱きついてきた実里くん。
真っ白なシャツからはふわりと甘い香りが薫ってきた。
「み、実里くん……近い!」
「いいじゃーん、久々なんだよ? 俺、ずっと我慢して留守番してたんだからね」
抱きついていた腕が離れ、顔を覗き込まれる。
「やっと、せんぱいの顔見れた」
十センチくらいの距離まで顔が近づいていて思わず後ずさっても、じりじりと実里くんは詰め寄ってくる。
「あの、これお土産! お菓子と、もしこれよかったら……手作りのトンボ玉のストラップなんだけど」
桃色のトンボ玉のストラップを渡すと、実里くんの表情が緩み、嬉しそうに微笑んだ。
「大切にするね、せんぱい。ありがとう」
喜んでもらえたようなので、ほっと胸を撫で下ろす。
「武蔵先輩も、これどうぞ」
紫色のトンボ玉のストラップを武蔵先輩に手渡す。すると、武蔵先輩は意外そうな表情でストラップを受け取った。
「俺に?」
「はい。もしよければ……手作りなので少し不格好ですけど」
いつもは騒がしい武蔵先輩が静かに微笑む。本当に喜んでくれているようで、私まで頬が緩んだ。
「……なんだ、これ。うまいな」
「和葉食べすぎ」
和葉は潤の作ったお菓子に夢中になっていて、潤は慌ててお菓子をお皿に補充してる。
こんなとき歩くんが止めに入ってくれるんだけど……今日の歩くんはいつもと違う。
ぼんやりとスマホを眺めていて、少し近寄り難い。眉間に僅かに皺が寄っていて、考え込んでるというか、疲れているように見える。
「歩くん?」
「……」
「どうしたの歩くん」
「え? ……ああ、悪い。なに?」
歩くんはぎこちない笑みを浮かべている。
今日は変だ。いつもの歩くんじゃない。
「何かあったの?」
そう聞くと、目を伏せて口を閉ざしてしまった。
「……なんでもねぇよ」
顔を上げた歩くんは痛々しいくらいに無理に笑っているように見えた。それ以上は何も聞けなかった。
歩くんを苦しめているものをよくわからずに触れてしまったら、傷つけることになってしまうかもしれない。だから言葉がうまく出てこなかった。
そして、この日を境に歩くんは学校に来なくなった。
#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙