TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

朝の講義前。悠翔がキャンパスに足を踏み入れた瞬間、周囲の空気がわずかに揺れた気がした。微細な違和感。それは目には見えないが、確かに身体に刺さってくる何かだった。


スマホを確認するのが怖かった。だが、すでに周囲の視線が告げていた。「出ている」と。


指が勝手に動いた。SNSの“大学の闇”アカウントに、新たな投稿が浮上していた。


“深夜1時の灯り、君のため” 「もう、逃げられないんだって。ね、悠翔くん」




そこに添えられていたのは、窓の向こうから撮られた自室の写真。シャツを脱いだまま、床に膝をつく自分の姿がぼやけて写っていた。背後には影が三つ。顔は映っていない。だが、誰だかは分かる。――陽翔、蓮翔、蒼翔。あの夜の光景が、切り取られていた。


講義に入っても、視線は絶えなかった。囁き声。机の下に滑り込んでくるメモ。プリントに書き加えられた落書き。


「“兄に犯されても泣かなかった”ってホント?」 「次はいつ? ライブ配信、待ってます」




椅子に座っているだけで、腰に鈍い痛みが走った。昨夜、蒼翔に踏まれた場所。蓮翔に噛まれた跡。陽翔の低い声。全部、まだ皮膚の下に残っていた。


教室の空気が次第に遠のく。喧騒の中で、別の音が混じり始める。


――パシン。


乾いた音。幼い頃、あのリビングで響いた音。


「泣くな。泣くなよ、男のくせに」




「こいつ、ちょっと痛めるとすぐ従うから楽だよ」




陽翔と蓮翔の声が、過去と現在で溶け合う。視界がにじむ。記憶が混線する。





休み時間。トイレに駆け込むと、壁に貼られたステッカーが目に入った。誰かが悠翔の写真を加工して貼ったもの。


「俺は兄たちの所有物です」 「感謝しています。もう逃げません」




サインまで捏造されていた。


便器のふちに座り込む。汗と涙と冷気で身体が震える。


――なぜ、逃げなかった?




そう思った瞬間、幼少期の記憶が容赦なく蘇った。


畳の上。押し入れの中。陽翔に腕を捻られ、蓮翔に泣き顔を覗かれ、蒼翔に名前を踏まれたあの夜。どれも今の現実と、区別がつかなくなっていた。


現実は、ただ静かに侵食し続けていた。



空白の肖像 悠翔 大学編(未完)

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

45

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚