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ニーニルどころかに「エルトフェリアの怪」という怪談話が広まって数日。


「いやちょっと待って。なんでもうそんなに広まってるの!?」


噂話が広がる早さが尋常ではない事に、ネフテリアは心底驚いていた。


「それだけ有名になったって事では? 今や各国からの客も多いですし」

「ぐうぅ……それもそうね。ってゆーか、シスも怪異の1人だからねっ」

「テリア様は被害者役みたいですね」

「役とかゆーな」


実際エルトフェリアには世界中が注目している。現役の王女が始めた新しい商売。これまでに無かった数々の新しい服を生み出す高級ブランド店、王族と多数のリージョンによって1日中の商売を容認されたラスィーテ人による食堂。そして店で働くこれまで見たこともない服を着た美女達。

訪れた一般人は口コミでこの店の事を順調に広めていき、密偵達は店の様子を事細かに母国の中枢へと報告していたので、各国の内外から猛スピードで話が広まっていったのだ。いい噂も怪談も。


「それにしては、客は増える一方だけど……」


怪談という悪い噂は人を遠ざけるのが普通なのだが、エルトフェリアは怪談が出来てから人が激増していった。

その事はネフテリア以外も疑問に思っていたようで、オスルェンシスがしっかり調査していたのだった。


「それについては、このような集計結果がでております」


1位:怪異なんぞで俺達の愛は止められねぇ!

2位:化け物から店員さんを護るチャンス。あわよくば……。

3位:人がいるときなら怖くないから。

4位:度胸試しに来てみたら、店員さんが可愛過ぎた。ここに住みたい。

5位:怖い物見たさ。


「え、みんな図太っ。ってゆーかこれ、うちの子達大丈夫なの?」


別の心配事が生まれたようだ。

客にとっては、怪異それ怪異それ、実際に見ていない恐怖なんかよりも可愛い姿の推しに会う方が大事なのだろう。この結果は頑張る店員達とアリエッタデザイナーの功績とも言えるかもしれない。


「もういいや。考えるだけ無駄っぽい」


ネフテリアは怪談とその悪影響について、考えるのをやめた。


「じゃあ、ニオの様子はどう?」

「言われた仕事をこなしてます。数日見守っていましたが、とても賢い子ですよ」

「そう。今日でこの件は最後だし、終わったらミューゼの所にいきましょうか」

「何していたか説明して、無事生き残れますかね?」

「……隠せる所は隠すから。あれからちゃーんと色々考えておいたから」


めでたく(?)フラウリージェの新人となったニオ。案の定店員全員から可愛がられ、色々な服を着せられながら手伝いを頑張っている。

特に食事の時間は甘やかされ、しかも料理が美味しいせいで「どうしよう、帰りたくない……」と真剣に悩んでいた。


「一度ニオの実家に挨拶した方がいいわよね」

「そうですね。ネフテリア様が動けなければ、ミューゼさんにでも頼みますか?」

「……ミューゼが行くならわたくしも」

「失言でした。無難なところでハウドラント人のシーカーに頼むとかでしょうか」

「むー、それが一番いいかぁ……」


ニオは他国から来たファナリア人で、転移の塔が無い町からやってきた。最寄りの転移の塔を使うための資金は親がくれたらしく、それ以外の移動や手続きは自分でなんとかしたらしい。その幼さに合わない賢さと行動力に、ネフテリアやノエラ達も驚いていた。


「そういえば、まだニオをミューゼさん達に紹介してなかったですよね?」

「ここの暮らしにも慣れてきたみたいだし、そろそろアリエッタちゃんとも合わせてあげないとね」


アリエッタにとっても、ニオは貴重な同年代の女の子の友達になるかもしれない。本当ならすぐに合わせてあげようかと思ったが、修理代の借金生活で追い詰められている所に、言葉の通じない友達は疲れないかと思い、紹介を後回しにしていたのだった。

そんな話をしながら廊下を歩いていると、とある部屋のドアが開いた。


「あ、エリーティオ。おつかれー」

「ネフテリア様、ちょうど終了したところですよ。このまま見送ってきます」

「うん。ありがとね」


部屋から出てきたのは金髪ショートヘアの少しキリッとした感じのする美人フラウリージェ店員、エリーティオ。男性はもちろん、そのボーイッシュな顔立ちは女性にも人気が高い。

ちなみにエリーティオには、以前お洒落なバーテン風の服のデザイン画をアリエッタに直接渡され、試しに作って試着。そのままヴィーアンドクリームの手伝いに出たら、女性ファンが爆増したという経歴を持っている。

今はエプロンドレスを着て、少し眠そうなニオを抱っこしている。そのまま礼をして裏口の方へと歩き出すと、部屋の中から男が1人出てきた。その顔は紅潮しており、胸を押さえながらぼーっとしている。


「……幸せ?」

「はい♡」


そんな幸せいっぱいの返事をした男は、フラフラとした足取りでエリーティオについていった。


「よし。わたくし達もいくわよ」

「はい。既に代表格は待機しています」

「それじゃ先に行って、ミューゼ達を呼んできて」


オスルェンシスが影に入っていき、ネフテリアがそのまま裏口へと歩を進める。外に出ると、エリーティオとニオが先程の男を見送っていた。


「今日はありがとうございました。またお店の方に来てくださいね」

「さよならー」

「はひっ。今日の幸せは決して忘れませんっ! ありがとうございましたっ!」


そして男は惚けながら去っていった。


「エリーティオ」

「はい」

「ニオを借りるわね。ミューゼ達に紹介するから」

「分かりました。ニオ、今日はもういいから、ネフテリア様と一緒にいてね」

「はわっ、ひゃいっ」

(慣れてきても、突然だとこうなるのよねぇ……)


相変わらずニオはネフテリアを怖がっている。そのうち解決策を見つけないとと考えてはいるが、今は優しく接する以外の手段が無い。

エリーティオがエルトフェリアの中に戻っていくと、今度は入れ違いで男が3人


「きゃっ」


ニオが驚いてネフテリアの陰に隠れた。


「ひえっ!?」


と思ったら、真上にあったネフテリアの顔に驚いて少し離れた。


「あはは……」

「あわわ、ごめんなさいごめんなさい!」

「落ち着いて、息を吸ってー、吐いてー」

「すーはーすーはー……はうぅ」


なんとかニオが落ち着いた所で、ミューゼの家のドアが開いた。


「こんにちはー」


ミューゼが出てきた。後ろにオスルェンシスがいて、さらにその後ろにパフィとアリエッタが待機。パフィは男達を見て、アリエッタを守る態勢に入っている。


「へああああっ!?」

「お?」


ミューゼを見たニオが悲鳴をあげた。そのままネフテリアにしがみつく。


「えぇ、ミューゼもなの?」

「?」


前回のように魔法をうっかり撃ってしまうという事はなかったが、ネフテリアやオスルェンシスと同じ反応をミューゼにもしてしまった。

こうなると、ニオから年齢不相応の落ち着きが失われてしまい、


「ああああっ!」


再び抱き着いていたネフテリアに驚き、慌ててこの場から逃げようとしてしまった。

しかし、オスルェンシスに回り込まれ、逃げられない。


「ぴいいいっ!」


オスルェンシスにも驚いて、涙目になって別のところから逃げようと走り出す。

しかしその行く手に、パフィが立ちふさがった。


「なんなのよ? この子なんで怖がってるのよ?」

「ふにゃああああああ!?」

「えぇ……パフィもなのぉ?」


ニオはパフィも怖がり、その場で腰を抜かしてしまった。

どういうわけか恐怖を抱く対象4人に囲まれ、泣きながら震えている。うっかり魔法を発動しそうになったが、ネフテリアが「修理代!」と言った事で、なんとか留まった。


「えっと、なんでこの子怖がってるんですか?」

「なんか夢を見たって」

「夢? ドルネフィラー関係なのよ?」

「さぁ、それは分からないけど」


中心にいる少女の取り扱いに困る4人。横で見ている男達は、オロオロしながら見守っている。


「こんな時は、警戒心を解かないと。ちょっと強引だけどアリエッタちゃんに仲良くなってもらおう」

「ですね。アリエッタ、おいでー」


ちょっと待ってと言われて待機していたアリエッタは、呼ばれた事でトテトテとミューゼのところにやってきた。丁度ニオが背を向けて震えているので、お互いの顔は見えていない。


(誰だろ? 初めて見る子だ)


アリエッタはニオの後ろ姿を気にしながら、ミューゼの所へとたどり着いた。


「アリエッタちゃんも気になってるようね。仲良くしてくれると嬉しいなー」

「ほら、アリエッタ。話しかけてみる?」

「はなす?」(話しかけていいのかな?)


なんとなく察したアリエッタが、ニオに後ろから近づいた。そして肩をポンポンと叩き、声をかけた。


「こにちわっ。あたし、アリエッタ。あなた、なーに?」

「ふぇ?」


初めて聞く声に反応したのか、幼い声に安心したのか、ニオはゆっくりと振り向いた。


「………………」

「………………?」


ニオが完全に停止した。そのまま汗がダラダラと流れていく。

全身どころか表情すらも止まっているニオを見て、アリエッタは首を傾げた。それが合図となったのか、ニオが動いた。


「っびゃあああああああああ!!」

「ぅにゃあああああああああ!?」


これまでにない大きさの悲鳴。至近距離で叫ばれたアリエッタも、同じように叫んでいた。そして、


「ぁっ……」

「ふえぇ……」

ぱたり


ニオは白目を向いて涙を流しながら気を失った。

一方アリエッタは、気絶こそしなかったが、突然の目の前からの悲鳴に驚いて、目を回しながら腰を抜かしていた。


「……なんで?」


今までで最も酷いリアクションに、ネフテリアとオスルェンシスは困惑する事しか出来なかった。

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