TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

無名の灯 番外編

一覧ページ

「無名の灯 番外編」のメインビジュアル

無名の灯 番外編

3 - 第3話 きみが、わらった。

♥

3

2025年07月19日

シェアするシェアする
報告する


──放課後の図書室。

夏の終わり、外はまだ明るいのに、ここだけ季節が置き去りにされたみたいに、静かだった。


遥は窓際の席に座り、ページをめくるふりをしていた。けれど、文字は頭に入ってこない。

視線は本に落としていても、意識はまったく別の場所にあった。


「……まだ帰ってなかったんだ」


声がした。

びくりと肩を揺らす。

でも、振り向かなくてもわかった。


──日下部だった。


「おまえ、よくここにいるよな。暗くなるぞ」


日下部は、教科書を小脇に抱えて、遠慮のない足取りで近づいてきた。

そのまま、遥の隣に勝手に座る。


「別に。用事ないし」


「家、帰りたくないんだろ」


言われて、無言になる。

図星、だった。


「……おまえには関係ない」


「まあな。俺も帰りたくねえし」


そう言って、日下部は机に突っ伏した。

視線を外の空に向けながら、ふっと笑う。


「なんか、さ。……全部うまくいってるふりするの、疲れんだよな」


その言葉に、遥は、初めて本を閉じた。


「おまえ、そんなふうに思うんだ」


「意外?」


「うん。おまえ、強そうだし。いつも、誰にも負けなそうな顔してる」


「……そう見せてるだけだよ」


日下部の声は、淡々としていた。

でも、どこか遠くを見つめるような響きだった。


「俺だって、怖いときある。泣きたくなるときも。……でも、泣いたって、誰も助けてくんねえからさ」


遥は、しばらく黙っていた。


そして、ふと呟く。


「──泣いてもいいよ」


日下部がこちらを見る。目を細める。


「泣かねえって」


「嘘でも、言っとく。……オレは、泣けなかったから」


それは、誰かに許してほしいわけじゃなく、ただ、誰かに同じ思いをさせたくなかっただけの言葉だった。


日下部は、しばらく遥を見ていた。

そのあと、ふいに、少しだけ笑った。


「……おまえ、優しすぎるよ」


遥は顔を伏せた。

そう言われるのが、いちばん苦しかった。


(優しさで生きてこれるほど、この世界は甘くなかったから)


──でも、その日、二人は何も起こらなかった。

何も、壊れなかった。


ただ、同じ空気の中で、同じように、誰にも見せない顔をした。


その記憶は、遥のなかで

ずっと、「泣けなかった日の救い」として残り続ける。



無名の灯 番外編

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

3

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚