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第54話 〚見逃さない者たち〛(仲間と玲央が動く)
花火の音が、夜空を震わせている。
歓声の中で、
えまは腕を組んだまま、じっと人混みを睨んでいた。
「……今の、絶対おかしかった」
「うん」
しおりが短く答える。
「人の流れ、あそこだけ不自然だった」
みさとは、
澪と海翔の姿を何度も確認する。
「……まだ一緒にいる。よかった」
その隣で、
相馬玲央は、視線を逸らさなかった。
「恒一だな」
低い声。
「さっきから、距離の詰め方が変だ」
えまが小さく舌打ちする。
「やっぱり……」
「でも」
みさとが不安そうに言う。
「直接何かしたわけじゃ……」
「だからこそだよ」
しおりが静かに遮る。
「“その前”に止めないと」
玲央は、
スマホを一度だけ確認してから、周囲を見回す。
「俺が後ろを見る」
「えま、しおりは左右」
「みさとは、澪の視界に入る位置に」
自然な指示。
誰も反論しなかった。
それぞれが、
何気ない“花火を見に来た人”を装って、
ゆっくりと動き出す。
――その頃。
澪は、
胸の奥に残る違和感を、まだ消せずにいた。
(……さっきの、なんだったんだろう)
でも、
海翔の手は、変わらずそこにある。
「……人多いな」
海翔が言う。
「疲れてない?」
「うん……大丈夫」
澪は微笑んだ。
その背後。
少し離れた場所で、
恒一は足を止めていた。
(……囲まれてる)
はっきりとは見えない。
けれど、
視線が増えた感覚だけは、確かだった。
偶然にしては、
多すぎる。
恒一は、
一歩、距離を取る。
その動きを、
玲央は見逃さなかった。
「……引いたな」
「一旦、様子見かも」
えまが低く言う。
しおりは、
澪の方を見て、少しだけ肩の力を抜いた。
「今は、大丈夫」
花火が、
夜空いっぱいに広がる。
光の下で、
誰にも気づかれない“防衛線”が、
確かに張られていた。
澪はまだ知らない。
自分の背後で、
静かに、
たくさんの手が伸ばされていることを。
――守るために。