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第55話 〚胸に残る違和感〛(澪視点・不安が形になる)
花火は、きれいだった。
空いっぱいに広がる光。
歓声。
夜風。
――なのに。
澪の胸の奥は、
ずっとざわついていた。
(……さっきから、変)
理由は、はっきりしない。
怖いことが起きたわけでもない。
でも、
“何か”が引っかかって離れなかった。
「……寒い?」
隣で、海翔が気づいたように聞く。
「ううん」
澪は首を振る。
「大丈夫」
そう答えながら、
無意識に、海翔の袖をぎゅっと掴んでいた。
(離れたくない)
その気持ちが、
自分でもはっきり分かる。
花火の音に紛れて、
心臓の音が、少し早い。
(……あれ?)
その瞬間。
澪の視界が、
ふっと歪んだ。
頭が、
少しだけ重くなる。
――妄想(予知)。
でも、
今までと違う。
痛みは、ない。
ただ、
断片的な映像が流れ込んでくる。
人混み。
夜。
背後から、近づく影。
そして――
“見られている”という、感覚。
(……これ、さっきの)
澪は、
思わず立ち止まりそうになった。
「澪?」
海翔が、すぐに気づいてくれる。
「……ごめん」
澪は小さく息を整える。
「ちょっと、ぼーっとしてた」
海翔は何も聞かず、
ただ手を握り直した。
その温度に、
少しだけ安心する。
(……大丈夫)
そう、思いたかった。
でも。
さっき見た映像の中で、
はっきりしなかった“顔”。
それが、
妙に気になって離れない。
「……ねえ、海翔」
澪は、勇気を出して言った。
「今日は……あんまり離れないでほしい」
一瞬、
海翔は驚いたように目を瞬かせる。
それから、
優しく笑った。
「うん」
「離れない」
その一言で、
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
でも。
不安は、
消えてはいなかった。
それは、
まだ形にならない“予兆”。
夜空では、
次の花火が上がる。
その光の下で、
澪は初めて――
「守られているのに、怖い」
そんな感情を、
はっきりと自覚していた。