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深冬芽以
「…身代わり? 何を言って……」
私は震える声で問いかけた。
スマホのレンズ越しに見るミチルの顔は、ノイズの走る画面の中でドロドロと溶けていくように醜く歪んでいる。
モニターに映し出されたのは、10年前の事件当日の、屋上とは反対側の「裏階段」の映像だった。
そこには、制服を着たミチルが、自分と背格好の似た
身寄りのない転校生の少女を言葉巧みに呼び出し、背中を押す瞬間が鮮明に記録されていた。
「……あの子が死ねば、私は『悲劇のヒロイン』として消えられる。美波たちに一生消えない罪悪感を植え付けて、私は影から彼女たちの人生を弄ぶ神様になれる……。完璧だったはずよ!」
ミチルは狂ったように笑い、ナース服のポケットから鋭く光るメスを取り出した。
「結衣……!あんた、死に損ないのくせに余計な真似を!栞も、そんなに真実が知りたいなら、あの子と同じ場所へ行かせてあげる!」
ミチルがメスを振りかざし、私に飛びかかってきた。
私は点滴のチューブを絡ませながら必死にベッドを転げ落ち、床を這う。喉の痛みで叫ぶこともできない。
その時、病室のモニターが切り替わった。
病院の駐車場に、タイヤを悲鳴させながら滑り込んでくる一台の車。
九条刑事だ。
彼は、私が先ほど無意識に送った「位置情報」と「録画のライブ共有」に気づき、引き返してきたのだ。
(九条さん……!)
私は心の中で叫んだ。
ミチルはモニターの九条を一瞥し、さらに形相を険しくする。
「……あいつが来る前に、あんたを殺す!」
メスが私の喉元へ振り下ろされる。
10年前、美波が熱湯を注ごうとした時と同じ絶望。
だが、今の私は、あの時とは違う。
私は床に落ちていた金属製のトレイを掴み、ミチルの腕を渾身の力で叩いた。
カラン、とメスが床に転がる。
「……っ、この、ゴミがぁ!」
ミチルが私の髪を掴み、床に叩きつける。
その瞬間、電子錠が解除される音がして、病室の扉が激しく蹴破られた。
「警察だ!動くな、ミチル!」
九条の声。彼は銃を構え、肩で息をしながら立っていた。
背後には、病院の警備員たちが呆然と立ち尽くしている。
ミチルは一瞬で「被害者の顔」を作り、泣き崩れるフリをした。
「九条さん、助けて! 栞ちゃんが、急に暴れ出して……!」
だが、九条の視線は冷徹だった。
彼は壁のモニターに映し出された「10年前の殺人映像」を指差した。
「……ミチル。君の回診は、ここまでだ」
九条の背後から、スマホを持った結衣のアイコンがモニターに踊る。
【Game Over】
ミチル様。あなたの復讐劇、私が『完結』させてあげたわ。
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