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そして、翌日。王城の控え室で、私は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。コルセットで締め上げられた息苦しさに耐えながら、これから始まる「愛のない結婚生活」への覚悟を決める。
その時、ガチャリと扉が開いた。
入ってきたのは、金銀の刺繍が施された豪奢な礼服を纏った青年。しかしその纏う空気は、夜の闇そのものだった。
光を吸い込むような漆黒の髪が、白い肌とのコントラストを残酷なまでに際立たせている。前髪の隙間から覗くのは、感情を凍らせたアイスブルーの瞳。その鋭い眼差しは、不用意に近づく者を拒絶する「冷徹な支配者」の風格そのものだ。
この国の第一皇太子、カイル・フォン・オルディス。かつて私が「一番の推し」だと画面越しに熱狂し、そして私を処刑台へ送る張本人。
(やっぱり、悔しいけど顔だけは最高ね……)
見惚れそうになる自分を戒める。彼は部屋に入ってくるなり、鬱陶しそうに手を振って人払いをした。侍女たちが一礼して部屋を出て行くと、室内に重苦しい沈黙が落ちる。
カイル殿下は私の方を見もしない。窓の外を向いたまま、氷点下のような冷たい声で言い放った。
「……勘違いするなよ、ソフィア」
その声には、隠そうともしない侮蔑の色が滲んでいた。
「この結婚を受け入れたのは、父上の命令だからだ。俺の心にあるのは聖女シェリーだけだ。お前のような性悪女を愛することなど、一生ない」
振り返った彼の瞳は、ゴミを見るような目で私を射抜いていた。
「世継ぎのため、一人だけ子供は必要だが……それ以外で、お前と関わるつもりはない」
――プツン。
私の中で、何かが切れる音がした。 前世の記憶が、濁流のように蘇る。
『義務感でそういうことするの、しんどいんだけど』
私を家政婦扱いし、子供を作るための機械としか見ていなかった元夫の言葉。それと全く同じ言葉が、皇太子の口から発せられたのだ。
(ああ、そう。あんたもそっち側の人間なのね)
恐怖も不安も、すべて吹き飛んだ。代わりに湧き上がってきたのは、二度の人生分の、身勝手な男たちへの怒りと呆れ。
私はゆっくりと立ち上がり、手に持っていた扇子をパチリと閉じた。
(上等じゃないの。そんなに嫌なら、その減らず口を塞いでやるわ。覚悟しなさい)