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大聖堂の重厚な扉が開かれると、パイプオルガンの荘厳な音色が降り注いできた。バージンロードの先には、国王陛下や高位貴族たちがずらりと並び、冷ややかな視線を私に向けている。悪名高い公爵令嬢と、彼女と結婚せざるを得なかった哀れな皇太子。彼らの目にはそう映っていることだろう。
私はカイル殿下の腕に手を添え、祭壇へと歩を進めた。彼の腕は強張っていた。私に触れられているのが不快でたまらない、といった様子だ。
横目で彼を見上げる。彫像のように美しい横顔は、一切の感情を排していた。まさに「氷の皇太子」。
(……すましているのも今のうちよ)
前世の私は、夫の顔色を伺い、嫌われないようにと縮こまって生きてきた。でも、今の私は悪役令嬢ソフィアだ。愛されないなら、愛される努力なんてしない。私を踏みにじったことを、その体で後悔させてやるわ。
祭壇の前で二人は立ち止まった。司祭の長い説教が終わり、誓いの言葉が交わされる。カイル殿下は淡々と、事務的に誓いを立てた。まるで書類を読み上げるような、温度のない声。そして、最後の儀式――誓いの口づけの瞬間が訪れた。
「……」
カイル殿下が、ベールをゆっくりと持ち上げる。至近距離で合う視線。アイスブルーの瞳は、私を透過してどこか遠くを見ていた。彼はわずかに顔をしかめ、義務を果たすためだけに顔を近づけてくる。唇ではなく、頬へ。それも、触れるか触れないか分からないほどの、形だけの接触で終わらせるつもりなのが見え見えだった。
(なめられたものね)
その侮蔑的な態度が、私の怒りの導火線に火をつけた。彼が顔を近づけてきた、その瞬間。