「初日で模擬戦って付いてないね〜」
そう言いながらもどこか楽しそうにしている蜂楽の目元にはゴーグルがかけられており、動きやすいようにスポーツウェアで片手に拳銃を持っているという異様な姿で同様の格好する知里へと顔を向ける。なぜ、そのような姿なのかは1時間前に遡る。
シュミレータートレーニング(模擬訓練)を指示された際、チームZに絵心はあることを告げた。
『条件で、今回の模擬訓練に知里は必須参加だ』
『は!?』
チーム内全員が知里を見てから再度絵心へと顔を向ける。そこにはわけが分からないということが表情から読み取れた。チームZ内の隊長である久遠が全員が思っている疑問を絵心に投げかける。
『なぜ、彼女を突然そんな模擬訓練に……』
『いいから黙って準備しろ1時間後には始めるぞ』
蜂楽、潔は知里に付けと指示をするとそのままモニターの画面は真っ暗になってしまう。わけが分からないままこうして模擬訓練の準備をしているためチーム内の混乱は凄まじい。
「とりあえず、俺と蜂楽がフォーメーション組んでどっちかは知里を守りながらで……」
「そ、そんな!潔くん、私も戦うよ!2人に守られているだけなんて……」
そう食いかかるも潔は、それでもスレイヴになりたての子と1週間は訓練をしている俺らじゃさすがにブランクはあるから、と説明しさすがに反論できずただ口を噤むことしかできなかった。自分が弱いことは、わかるもののここまで守らなければならないような存在として認識されていることに情けなさと悔しさが入り交じる。
「時間だ、行こう」
***
模擬訓練の場は、危険区域を模して作られた超高性能仮想空間で行われる。スレイヴは3対3で先に相手を全滅させた方のチームが勝利するというサバイバルゲームチックなものとなっている。そのため実弾ではなく実弾の代わりにペイント弾を使用される。今回は、知里、潔、蜂楽のチームで1組である。相手には、國神、千切、イガグリの3人であった。これらの組み合わせは、個人間の能力と身体能力に差をできるがきり失くすためのものではあるものの女性である知里は圧倒的に6人の中で不利である。
「おそらく、國神達は知里をまっさきに狙ってくる。だから、少数制圧でいく。俺と知里はこのまま2人で行動、向こうは単独行動に向いている千切と國神、イガグリの二手に別れてくるから2分の1の確率で知里と一緒にいるどちらかがどちらかと衝突する。その際知里を守れる確率が高いのは蜂楽だ」
潔の事前の作戦立案により、知里は蜂楽と共に建物の陰に隠れ周囲を警戒する。知里は2度目に持つ拳銃を見つめる。アウトサイダーを打った時のものは実弾のはずであり、今はペイント弾ではあるものの人を打つことに抵抗を感じている自分がどこかにいた。それでも今は蜂楽の足を引っ張らないことに集中しようと被りを振る。
すると、角から銃を構えたイガグリと國神の姿が現れた。潔の読みは当たったのである。知里は深呼吸すると銃を握り込む。その時知里の手に大きな手が覆う。顔を上げると目の前に普段の明るい雰囲気ではなく静かで大人のような微笑みを浮かべる蜂楽がいた。
「大丈夫、俺が守ってあげるから」
そう言うと手を離し、自身の銃を確認すると躊躇なく建物の陰から飛び出していく。
「蜂楽!」
「やっほー!」
笑みを浮かべた蜂楽は、そのまま勢いよく國神へと飛び込んでいく。後方へと下がった國神に蜂楽は1発放つ。それをギリギリ交わすと横へと走りながら蜂楽へと國神も1発。蜂楽もそれを近くのドラム缶の裏へと隠れ防ぐ。ドラム缶を土台に跳躍すると今度は蜂楽は、蹴りを打ち込むもそれを腕で防ぎまた銃を発砲する。それを蜂楽は後方へと跳躍して避ける。彼らの攻防に知里は物陰から見ることしか出来なかった。自身が想像していた以上に彼らの模擬戦の実状は圧巻なものであった。そこに運動が苦手な先程訓練を少ししただけど女が邪魔をしてはいけない。ふと、國神と共に行動していたイガグリの姿がないことに気づくと銃を胸に構え周囲を見渡す。ふと、背後に気配を感じ振り向く。
「あ、バレちった……悪いね知里ちゃん。せっかくの模擬訓練、これも評価が上がる事だからさ……南無三!」
そう言いいがぐりは発砲する。その数秒前、知里は不思議にも「視える」と反射的に思ったのだ。ペイント弾は、知里の顔を狙って飛んでいく。が、それは彼女の髪を数本靡かせて後方へと着弾した。
「え?……な、南無三!」
再度放つ。今度は、肩を狙って撃つもそれを知里は体を横にして避ける。が、地面に転がっていた空き缶に足を取られ、わ!と声を出して地面へと転ける。
「……さ、さすがにびびった……銃を避けるとか、はは、凄いね知里ちゃんたまたまにしては凄い所業だったぜ!」
「……あ」
目の前に向けられる銃口に思わず声が漏れるその瞬間発砲が周囲を包む。しかし、知里を銃弾は捕えなかった。撃たれると思い目を反射的に瞑るもなにも衝撃が来ず、浮遊感を感じ目を開けると横に近く蜂楽の顔があり、思わず頬に熱が籠る。
「え!?あ、あの……ば、蜂楽くん、なんで……」
「言ったじゃん守るって」
そう言いはにかむ彼に思わず見蕩れてると、おい!と横から声が飛ぶ。そこには何故か悔しそうな表情で地団駄を踏むイガグリがいた。
「なんか、ピンチのヒロイン救うヒーローじゃん!蜂楽!それだと俺は敵になっちまうじゃん!」
「え、今の模擬訓練の状況ならそうなんじゃないの?」
「ちげえええよ!そこじゃねえ!目の前でイチャつくの見せられてる敵の虚しさを感じてんだよ!」
ふと、知里は蜂楽に横に抱えられておりなんとも羞恥心が沸き起こる状態だった。降ろして欲しいと知里は言うものの蜂楽はそのまま抱え直すと、イガグリの横を勢いよく駆けていく。
「一旦、体勢を整えるの巻!」
そう言いながらなんと彼は勢いよく跳躍して建物の屋根を伝っていく。自分を抱えながらの彼の身体能力に驚きが隠せないで彼の顔をじっと見つめることしかできなかった。
***
「ま、まぐれにしては凄いですね……彼女……」
モニタールームで先程知里が見せた動きに、帝襟アンリは驚く。ブルーロックを管理する絵心は基本的にスレイヴの能力強化を重視しており日常生活での環境整理は基本的にアンリの仕事である。
彼女の隣で椅子に座った絵心は面白そうに不気味な笑みを浮かべる。
「やはりな……予想よりも早かった……卓越した観察力と動体視力で相手の筋肉の動きを見て次の動作を予測し、それにより弾道を読み避ける」
絵心の言葉に言葉を失うアンリ。ありえない、人の少しの動作で弾道を読んで避けるなど漫画やアニメでしかないものだと思っていたのだから。すると、絵心はタブレットを取りだしアンリへとある画面を見せる。
「篠崎知里は基本的にスタミナやフィジカル、スピードは中の下のランクだが……ここを見ればわかるでしょアンリちゃん、瞬発力と動体視力はトップランク帯のものだ」
そこには、スタミナやフィジカル、ジャンプ力や体幹など事細かに枠組みされた知里のデータがありほとんどが最低ランクのDであるものの瞬発力や動体視力は最高ランクのSとアンバランスなステータスデータとなっていた。
そのデータにアンリも信じざるを得ず再度画面の知里を見つめる。
「彼女は……何者なんでしょうか……」
***
「ごめん、蜂楽もう1回聞いてもいいか?銃弾を……なんて?」
「だから、避けたんだよ。ひょいひょい!って」
蜂楽と知里はのちに潔と合流し、再度作戦を練ることにし廃れた工場内に身を潜めていた。そこで先程起きた出来事を蜂楽は擬音が多い説明を潔にする。事の顛末を知った潔は、未だ信じられないと知里を見る。
「知里、あれはたまたま避けたのか?」
「え、えと……」
「たまたまじゃない!でしょ?知里」
2人から熱い視線に知里は、しどろもどろになりながらも言葉を紡ぐ。
「その……信じてくれないとは……思うけど、確かにあれは避けた、んだと思う……あの時イガグリくんが銃を私に向けた瞬間に何故かわからないけど……その、どこに銃弾が来るかわかる、みたいな……」
自分でもなぜわかったかわからない。それでもイガグリが知里へと発砲する直前には知里は、無意識下に弾道を予測していたのだ。
すると、知里の説明を聞いた潔は俯きながら、口元に指を起き目を左右に流していく。数分後、ピタリと彼は目の動きを止め意を決したように息を吐く。
「作戦を考えた」
***
30分前
蜂楽と知里が逃げた方向を見つめた國神とイガグリは呆然と彼らが去った方向をしばらく見つめていた。
「な、なあ!おい!見たかよ!國神!さっき、ち、知里ちゃん銃弾を……避け……」
「落ち着け、偶然かもしれねぇだろ」
イガグリを嗜めながら顎に伝う汗を拭った國神は、先程の光景を再度脳内に呼び起こす。いや、あれは偶然じゃない。偶然にしてはあんな銃弾が「どこにくるかわかったような」動きを普通の女ができるとは思えないのだ。彼女はおそらく化ける。その予兆が先程見たものなのだろう。すると、イガグリと國神に近づく人物が1人。千切だった。
「千切、お前潔はやれたのか?」
「いや、あいつの能力に有利な地形だったから一旦距離取った……そっちは」
「こっちは逃げられた再度作戦立てるしかないな……」
「なら、國神と俺で潔と蜂楽を叩くか……」
「あー……いや、それが少し厄介な相手かもしれない」
先程の出来事を國神は千切に伝えると千切は、怪訝な顔を浮かべる。そりゃあ、誰しも人が銃弾を避けるなどと聞いたらわけが分からないだろう。
「確かに、わからないような事だが事実だ……だからこそ、篠崎をやるのも骨が折れるかもしれない」
「國神、お前なにも相手を倒す際に銃だけで排除しろとルールで言われてないだろう。知里ちゃんをやるのになんでそこまで銃だけで倒そうとすんだよ!」
イガグリの問に國神は、何故かいや、その……と言い迷う。
「訓練だとしても、女に……手上げるのか少し抵抗がある」
彼の言葉に思わずイガグリはいや、いい男過ぎない!?と思わず突っ込む。
「なら、國神お前はこのまま蜂楽やれ俺は、潔相手にしながら篠崎もやる」
そう言うと銃を担いで歩みを進める千切に俺は!?と再度声を上げるイガグリ。しかし、千切は彼の声を無視してそのまま歩き続けていく。仕方がない、そう思い國神も千切の後に続く。
***
模擬戦では、1時間ごとに相手チームがどこにいるかを互いのチームのメンバーの装着したゴーグルに送信される。それにより潔らの位置を把握した國神達は壁に背中をつけながら銃を構えて工場の入口に入り込む。
「お!来たね!」
入ってすぐに銃を肩に担いだ蜂楽が爽やかな笑みを浮かべて立っていた。
「なんだ、お前だけかお出迎えは」
「大丈夫、直ぐに接待してあげる!俺じゃなくて……知里が!」
彼の言葉を合図に蜂楽の背後から突如、銃を構えて跳躍した知里か現れる。知里は3発発砲するも、千切と國神は両サイドに大きく交したことにより地面へと銃弾が着弾し、地面を青く染める。蜂楽は、直ぐに國神へと突っ込んでいき銃をバットのようにフルスイングする。それを銃身で受け止め押し返す國神。後方へと後退した蜂楽はそのまま國神と対峙する。
千切は、避けた勢いで銃を構え知里へと発砲する。銃弾は彼女から逸れて壁や棚を赤のペイントに染めた。たしかに、國神の言う通りそのまま撃っていても避けられると思った千切は近くの部屋に入り込む。それを追いかけようと踏み込もうとした瞬間背後にイガグリが現れる。
千切は自ら囮となり知里をイガグリか背後から撃てるようにしむけた。
「貰った!」
1発の発砲が木霊する。しかし銃弾は彼女に当たるどころか知里は、今までで見た事のない跳躍を見せ2階の手摺に着地したのだ。それを見た千切は、蜂楽へと顔を向ける。
「蜂楽のエゴか」
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