コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『蜂楽のエゴを知里に付与させる』
『蜂楽くんのエゴを……付与?』
潔の発言に蜂楽はなるほど、と納得した表情で片手に握りこぶしを置き理解したというポーズをする。
『じゃあここではじめて知里は俺のエゴを見せるね』
そういうと蜂楽の背後か黒と黄色が濁った色合いをした霧が立ち込め人型の形へと成していく。
『俺のエゴ、「かいぶつ」だよ。俺の友達』
かいぶつは、蜂楽の背後で知里を静かに見つめていたが次第に口角を上げ瞳孔を開きその姿を写す。
『あれ、かいぶつ。知里が気に入ったみたいだね、かいぶつが初対面でこんな表情見せるの初めて見た……』
そう言った蜂楽に知里は、このかいぶつをいったいどうするのかと問う。
『かいぶつは、俺と戦ってくれる魂。その魂は俺が対象に選んだ人や物にも付与できるんだ……だから』
かいぶつを知里に憑依させる。
***
蜂楽のエゴだとすぐに気づいた國神は蜂楽を見据える。
「お前の能力か」
「そ、俺の友達かいぶつが知里に力を貸してくれてるんだ」
「なら、お前を倒さないと篠崎はかなり厄介な存在になるってことだよ、な!」
國神は、右足に力を込め左足をフルスイングさせる。それにより瓦礫やそこらに散らばるガラスの破片などが突風に紛れ込み蜂楽を襲う。それを、蜂楽は近くに倒れていたアタッシュケースを盾に防ぐと床にアタッシュケースを足に寝転び銃を構え撃つ。國神は、それを地面を滑るようにし棚の裏へと移動する。
「あいつらが能力を使うなら……こっちも正々堂々と使わせてもらうぞ」
そう言うと國神は、棚に右手を添える。そして、棚の一部を掴むとなんと羽で持ってるかのように片手で棚は持ち上がりそれを投擲する。やば、と呟きすぐさまアタッシュケースから離れた蜂楽。棚は先程國神が羽のように軽く持ち上げられたのにも関わらずアタッシュケースにあたる際にはガゴン、と重い音を立ててアタッシュケースを潰したのだ。
「うわ〜怖っ!」
國神の能力は、質量操作である。触れた物、生物などの質量を自由に操作できこれにより自身が重いものを投げる際には質量を羽根に投げる際には質量を元に戻すかもしくはそれ以上の質量をかけて投げつけることが可能になる。アタッシュケースの潰された様子を見て冷や汗をかく蜂楽の背後に影が迫る。
「戦場には常に気を張っとけよ……蜂楽!」
國神の銃弾は蜂楽の背中にあたり赤色のペイントで彼を染める。
「あら……」
「しゃ!おら!」
「蜂楽!」
國神の雄叫びに惹かれてか、奥の機械から潔が顔を出す。
「お!潔みっけ!」
「ちっ!」
イガグリが同時に潔に対峙し、行く手を阻む。蜂楽が脱落したことによりかいぶつの憑依が溶けてしまった。恐らく、知里には千切が行っている。そう考えた潔は、知里の元へと向かおうと思うもイガグリと國神がいることにより不利な立ち位置に追い込まれていた。
そんな潔の様子を2階から見えていた知里は、どうしようと頭を回す。先程の体の軽さが消えたことから蜂楽が脱落したことに気づき、本来の運動が苦手な一般人に逆戻りしたのだと感じた。ふと、耳に誰かの足音が迫ってくることに気づきはっと息を零しながらも振り返ると、銃口が視界に入る。発砲音が響くも反射的に交わした知里は、何とか棚の裏へと隠れる。
「お前、初日でこの訓練は荷が重いんじゃね篠崎」
「千切……くん」
美しい赤髪を揺らした千切は、その少し冷めたような目つきで知里を射抜く。
「ここはそんなに甘くない。お前みたいな奴は直ぐに死ぬ」
彼の温度のない言葉はただ事実を述べているように聞こえた。実際、千切はただ事実を言っているのだ。女だからや元々無力な一般人だからなどのものではなく、ただ彼女の性格から潔同様お人好しな人間なのだろうと千切は思いここを慈善活動の場だと勘違いさせないように。無駄死にをさせない為に。
「でも私はここにしか居場所がないんです……ここを出たら直ぐに死ぬと思う」
「家には帰らないっていうのかよ」
彼の言葉に知里は言葉を詰まらせる。帰らないではなく帰れないと彼に言う勇気が出なかったのだ。恐らく、自分が異世界から来たことを知る人間は潔と蜂楽そして絵心ぐらいなのだろう。なら、他の人間からしたら突如として現れた異質な存在に知里は映ることになる。無言になった知里に話はしないらしいと感じた千切は、知里へと歩を進める。
「悪いが女でも手加減はしない。俺は勝負事で手抜くの嫌いだし」
「手加減はいいですよ……平等じゃないですかその方が」
知里も立ち上がると千切の前に姿を現す。対峙した瞬間、互いに銃を構える。冷静になれ、相手の視線を肩、腕、手の動き指の動き、全ての筋肉の動きを見ろ。そして、予測しろ。千切の指先の力が籠る。発砲音が響く。
銃弾は、知里ではなく後ろのガラスに着弾した。再度数発撃つも知里は、完全に千切の撃つ弾の動きを予測し正確に避けた。これで完全に把握した、相手の微妙な動作一つ一つが見えて交わしているのだと。人間離れした所業に千切は舌打ちを打ちそうになる。すると、千切の発砲を避け続けた知里も構える。
撃つ。
弾は千切
から大きく逸れた棚に着弾する。
「あ」
「…………お前」
着弾した弾と知里を交互に見て信じられないという表情でいる千切。壊滅的射撃センスのなさ。
「……なら」
知里が千切に突っ込む千切も後退しながら銃を撃つも知里はそれら全て交しさらに近づくとほぼ3m近くで発砲する。青のペイントが千切を染めた。
***
「くそ……」
「どうした潔!やっぱりお前は蜂楽がいないとなにもできないのか?」
知里が千切との勝負がついた頃、潔は未だ防戦一方の状態でいた。潔の能力では、幻を見せるだけであって環境を変えることが出来ない。また、自身のイメージでできる幻であるため綻びはすぐに見えてしまう。その綻びが「自分が動いた瞬間に生まれる空間の歪みである」これにより潔は自分の作る空間に自分自身を隠しきれないでいるのである。そのため、能力を使ったところで直ぐにバレるのである。
何とか滑り込みで物陰に隠れるも時間の問題である。蜂楽がいないこの状況で、知里の元へ向かうこともできない自分で不甲斐なさを感じ苛立つ。自分にもっと強い能力があれば、自分にもっと戦闘に向いた身体能力があればそう考えるもないものねだりなのだと考え被りを振りそのマイナスな思考をかき消す。どうする、と考えている間も國神とイガグリは潔に迫っていた。
その時だった。
「潔くん!」
はっと國神らがいる方向から聞こえた声に顔を出す。國神達も驚愕してただその方向を見つめていた。知里が息を切らしながら立っていたのである。
「嘘だろ……千切を倒したのかよ……知里ちゃん」
「……マジで何もんだよ、あいつ」
3人が驚く中知里は、1歩足を踏み込んだ瞬間はっと我に返ったイガグリが銃を構え発砲する。それを横に避けると歩みを早めていきイガグリ達へと駆け寄ってくる知里。國神も銃を構え知里を撃つもそれを交しさらに加速する。彼女の人間離れしたそれに得体の知れないなにかを感じ國神は、思わず近くの棚を投げつける。それには、知里も歩みを止めてしまう。
「ひっ!」
ギリギリしゃがんだことにより棚を避けたものの小さな悲鳴に國神は我に返る。
「……っ!」
その隙を潔は見逃さなかった。物陰から飛び出した潔は、國神の脇腹目掛けて発砲。國神を青く染めた。
「隙ありだ!國神!」
「なっ!」
「マジかよ!」
残ったイガグリは、急に2対1に逆転したことにより意気消沈してしまう。そして、タイム降参!と宣言した。
***
「知里凄かったな!さっきの!あれどうやったんだ!」
シュミレータートレーニングを終え、大部屋へと戻れば開口一番に今村が知里の元へ向かい先程の訓練の感想を興奮気味に伝える。彼の後に続いて他のチームZのメンバーもつられて集まり知里を囲む。
「え、えと……その……」
「あんな動き並大抵のことでできることじゃないよ!凄いね!知里さん!」
糸目が特徴の少年久遠も知里へと賞賛の言葉を送る。真正面から褒められることに慣れない知里は、恥ずかしさと照れくささがあった。自分がしたことがどれほど凄いことなのか未だ実感できない部分もあるが、皆の反応からそれを僅かながら感じる。
「お疲れ様、知里」
後ろからシャワーを浴びたのか髪を濡らした潔が知里に労いの言葉を投げる。
「潔くん、お疲れ様!ありがとう、あの時助けてくれて……」
「え、あー……お礼を言うのは俺の方、知里があの時國神の隙を作ってなかったら、危なかった 」
頬を掻きながらはにかむ彼の表情は少し恥ずかしそうであり嬉しそうにも見えた。
「うんうん!凄かった!知里は!」
「あ、蜂楽くんお疲れさ…ひゃ!」
潔の後ろから現れた蜂楽に知里は声をかけようと覗き込めば蜂楽の姿に咄嗟に両手で顔を隠し蜂楽から顔を背ける。
「ちょ!蜂楽!お前、服着ろ!」
「お前!今は知里もいるんだぞ!」
蜂楽は全裸だった。潔同様シャワーを浴びたからなのはわかるがまさかの全裸だった。それには羞恥心と申し訳なさで顔を真っ赤にさせた知里は、み、みてないから!みてないから!と必死に抗議する。
「あはは!ごめん、ごめん!」
「たく……そうだ!知里がこんなに動けるなら今後の編成も知里込みでやるべきなんじゃない?」
成早の意見に隊長である久遠は渋った表情をする。まだ身体能力面では完全に自分たちよりも不利な彼女は肉弾戦に持ってかれたら勝ち目がないからである。また、スタミナなどもないため今の時点での知里を入れた編成はリスキーだった。
「それにしても模擬訓練の意味ってホントにあるのか……?相手は基本アウトサイダーだろ?」
「だが実際テミスの奴らも現れる。なら、訓練してるに越したことはないだろ」
「でもさ、俺らはここにいるのは何しも生き残るだけじゃないぜ」
「どういうこと?」
成早は知里の様子にあれ?知らないの?と知里へと向き直る。
「ここ、ブルーロックは確かに選ばれたヤツらしか入れない登竜門だけどなにも上位になれば贅沢な生活ができるだけじゃわざわざ命をかける必要なんてない、「ここのヤツらの頂点に立てば願いをなんでも叶うことができるから」らしいぜ」
「願いを……」
ブルーロックは、知里が思ったよりも複雑で不安定な場所なのだ。己が生き残り望むものを手に入れるために自身の命さへも賭けるイカれた人間たちの巣窟。最下位10名に入れば死、逆に上に登り詰めれば自分が1番欲しいものを手に入る。人間の欲望が渦巻く場所。それがブルーロックであった。
「でも、なんでもって……一体どうやって……」
「絵心の能力だ」
成早ではなく、答えたのは國神だった。シャワーから戻ったのかいつもボリュームのあるオレンジの髪は垂れて水が滴る。
「絵心さんの……?」
「あいつは、この世界じゃ貴重な2つの能力を持つ「特別保護能力者」だからだ」
特別保護能力者、政府が定めた人口の約1割の中で2つの能力を持つ人間のことを指す。
「絵心の能力は「千里眼」と「神通力」」
千里眼とは、遠い所のできごとや人の心などを、直覚的に感知する能力の事で絵心の場合相手の潜在能力を見通すことが出来る模様。そして、神通力とは何事も自由自在になしうる力無敵な力とみなされるが能力使用には使用者と契約者の代償が望むものに比例して大きくなるという。
「つまり、この世界を元に戻すなどは……」
「不可能だな、神通力でも空間や世界の秩序を変えること自体が禁忌に等しいもしも、変えた際には何かしらさらに歪みが発生しこの世界以上に悲惨なことになるからだろう」
國神の説明に納得がいった。なら、この場にいる皆には本気で叶えたいなにかを持っているのだろう。それを聞くのはとてもでは無いが彼らの人生の1部に触れる気がして、下手に踏み込むことが出来ないものであった。
「人の能力をペラペラと、お前らのその回る軽い口はもっと他のことに使うべきなんじゃないのか?」
「絵心……」
大部屋のモニターに絵心が眼鏡を光らせて現れる。
「さて、これから先お前らもこのブルーロックで蹴落とし合いをしながら生活することになるが……ここからはチーム事に戦ってもらいランキング変動を行ってもらう」
「チーム事?」
「ブルーロックは5つの棟からなる施設であり、それぞれの棟に5チーム11人で組まれている。だが、この組み方は俺の独断と偏見で選定して組まれたチームであるため実力によって組まれたチームではない。これから、その調整を行うため同棟内で5チームによる総当りグループマッチを行う」
「グループマッチ?」
知里が反芻した言葉に絵後はメガネのフレームを直すしながらその無機質な瞳を光らせる。
「全10試合終了時勝ち点上位2チームが勝ち残り、下位3チームは敗退。下位3チームの中で最下位10名はブルーロックから強制退場し残ったメンバーはスレイヴの生活を支える雑用やトレーニングをして貰う。ただし、復活ルールとして下位3チームの中でも最多得点者つまり脱落者を多く出させた人間もしくは本陣の心臓部の破壊回数の多い人間は勝ち上がるシステムとする。チーム内で最多得点が並んだ際にはフェアプレーポイントを採用し、ペナルティーポイントの少ない者を勝ち上がりとする」
フェアプレーポイント、サッカー用語となるがここでは能力強化の道具利用や指定された銃口以外の使用、また相手が死に至るほどの危険行為試合の中でのチート行為などにイエローカードやレッドカードがつくようになっている。
「己の得点かチームの勝利か、そんなスレイヴの宿命がこの1次選考では試される。これは、軍を0から作る戦いでもある。第1試合は、1週間後それまでに篠崎や未だ実力が足らぬものは備えとくように」
そう伝えると絵心は直ぐにモニターから消えた。
「1次選考……もしかして、このチームはまだ即席で作られただけのチームってこと?」
「そうなるね……元々ここに呼ばれたのはエゴが目覚めた人間が招集されて、絵心の独断と偏見で集められたんだ。それを今度はブルーロック内で整理するんだろう」
久遠の説明からするに、ブルーロックはまだ設備としてできあがったのは最近ということになる。それなら危険区域までの任務などはなぜあの時潔や蜂楽に行かせたりしていたのだろう。
「ならどうして、潔くんと蜂楽くんはあの時任務に……」
「あーそれは」
「たしかに選考前のトレーニングの一貫にもなっていたんだよね。チームでそれぞれ2人1組もしくは3人1組で任務を3回するっていう」
そこで俺たちは知里と出会った。
「そうだったんだ……」
「あ?ちょっと待て、お前らこの女は危険区域にいたっていうのかよ……なんの冗談だ?」
ギザ歯の少年、雷市は先の蜂楽の説明に疑惑の念を覚える。
「あ、いや、ちが!」
「なら!なんでこいつアウトサイダーなんかになってねえんだよ!どうみても怪しいだろ!テミスの連中の差し金かもしんねえんだぞ!」
そう言うと雷市は知里を指しながら潔へと凄む。雷市の言い分は理解できる。自分らと同じファントムアージの人間と思ったが先の蜂楽の説明からテミスのスパイという疑惑が過ぎるのだ。
「そ、それは大丈夫だ!知里はそんなヤツらの仲間じゃない!グリートホールに落ちてきたんだ!」
「その証拠かねえじゃねえか!そいつが猫かぶってる可能性だってあんだぞ!」
「ちょ!一旦落ち着け!雷市!」
「一旦離れろ!女子いんだぞ!」
久遠と今村が潔と雷市の間に入り2人を制する。2人の言い合いに知里は、自分が原因でチームに蟠りができたのだと感じ罪悪感と居心地の悪さを感じ始める。自分はこの世界の人間てはない。余所者であり、彼からしたら得体の知れない存在なのだと。
「ごめんなさい、ちょっと……」
「あ!ちょ!篠崎さん!」
久遠の呼びかけに反応を見せず知里はそのまま大部屋を出ていった。チームZのメンバーはただ出入口を見つめるのみだった。雷市はそのままちっ!と舌打ちをすると続いて部屋から出ていった。