朝8時、君は勢い良くドアを開けた
私が感想を言う前に、いつもは小さい口を大きく開いた
君は、息も切れて、目には光ったものが微かに見えた気がした
張り詰めた空気を和らげようと、私が口角を上げると君はついに言葉を発した
「君は、どうしてそんなに平気そうな顔をしているの? 君、自分が今どんな状況下分かってるの」
2日ぶりに見た君の顔は、いつもの君じゃなかった
少し残念で、私は口角をいつもより少し下まで下げ直した
「ねぇ、君。今日はちょっといつもと違うね」
私は、ベットの横にある棚の上に置いてあったペットボトル飲料水を少年に手渡そうとする
でも、腕は動かせたものの、手に力がどうも入ってくれない
私が床に落としてしまったペットボトルを披露と、君はキャップを開けて一息つく
「ごめんね?心配を掛けてしまった。」
私が少年の顔を覗き込み謝罪すると、君は目を逸らした
よくよく見ると、君の耳は先まで真っ赤に染まり、小さな声で答えた
「いや、別に心配というか。君が無防備すぎるだけで、、、。」
私は口角を上げずには居られず、目を細めてもう一度君を見る
君は、何か変なのか。とも言わんばかりの表情で、自分の髪を手で撫で始める
「あのね、手に力が入らないのは、手術後だから。」
「そして、いま点滴を打っているのは、数値がおかしいとかでさ。」
私は小さく開いた口で、力のない言葉を放つ
心拍数を表す規則的な機械音が和んだ空気を少し固くする
私は、この場に誰か居ること、そしてその彼が、もうすぐ死ぬ私と何違いなく会話をしてくれていることが嬉しくて、
ふと涙が出た
その涙を見た彼は、焦ることもなく口を開く
「確かに、数値が僕の5倍はある。」
真剣な顔で、それなのに上目遣いな君が可愛らしいと思ったのは、君への目線が今日はいつもより低いから。
と自分の中で解釈する
私はきっと、君を私の中での何者かにしたくなんて無かった
何者かにならなくたって、きっとこれからも君と生きていける
そう信じていたかった
それがいずれ、凶と出た日までも
君が買ってきてくれた少し溶けかけたカップアイスを2人で食べ、冷房の効いた涼しい部屋で、私はほのかに夏を感じた
「ねぇ、私がもし死んだとき、君は泣かないでね。私、その涙を知らないから。」
私がふいに、横で黙々と下を向きアイスを食べる君をからかいたくなってしまった
ほんの少しの、出来心
でも、
君は木製のスプーンを落とした
コメント
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フッ、、、ツンデレ彼氏め。( ´_ゝ`)