テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
124
16
待ち合わせ場所に着いたとき、四人ともほとんど口を開かなかった。 駅前の広場。人 の行き交う中で、勇斗は何度もスマートフォンを確認していた。
「……本当に来るんかな」
太智が呟く。
「来るよ」
勇斗は迷いなく答えた。
「俺たちが見つけたんだから」
「でも、連絡には返事なかったで」
「それでも来る」
そう言ったものの、勇斗自身にも確信はなかった。 四人が知っている仁人は、いつだって約束を守る人だった。
だから、来てくれる。 そう信じたかった。
午後四時。
五時。
六時。
空が少しずつ暗くなっていく。
「……今日は、帰ろうか」
柔太朗がそう言ったときだった。 駅の向こうから、一人の少年が歩いてきた。
黒い鞄。 少し長めの髪。 伏せられた目。
写真で見た通りだった。
「……仁人」
勇斗が呟く。
その声が聞こえたのか、少年が顔を上げた。
目が合う。 その瞬間。
仁人の足が止まった。
四人も動けなかった。
何年ぶりなのか。 何十年ぶりなのか。 そんなものは、もう分からない。 ただ、ずっと探していた。 何度生まれ変わっても、探していた。
ようやく見つけた。
「……仁人?」
太智が一歩近づく。 仁人の唇が、ほんの少し震えた。
――太智だ。
名前が頭の中に浮かぶ。 何も言わなくても、隣にいてくれた。
隣にいる舜太。 昔からくだらないことで笑っていた。
柔太朗。 優しくて、誰よりも人の気持ちに敏感だった。
そして勇斗。 いつだって、五人の真ん中にいた。
全部、覚えている。
忘れるはずなんてなかった。
「……久しぶり」
勇斗が笑った。 仁人の胸が締めつけられる。
本当は言いたかった。
久しぶり。 ずっと会いたかった。 また会えて嬉しい。って。
でも。
「……誰ですか」
仁人はそう言った。
四人の表情が止まる。
「え?」
「俺、あなたたちのこと知りません」
「……仁人?」
「人違いじゃないですか」
声が震えそうになる。 それでも、笑った。 できるだけ知らない人を見るように。
「ごめんなさい」
仁人は頭を下げた。
「俺、急いでるので」
そのまま横を通り過ぎようとする。
「待って!」
勇斗が腕を掴みかけて――
止まった。 仁人が、怯えたように一歩後ろへ下がったからだ。
「……ごめん」
勇斗は手を下ろした。 仁人は何も言わない。 ただ、四人を見ないようにして歩き出した。
数歩進んだところで。
「仁ちゃん!」
今度は舜太が呼んだ。 仁人の足が止まる。
「……俺たちのこと、本当に知らない?」
長い沈黙。 仁人は振り返らなかった。
「……知りません」
それだけ言って、今度こそ歩いていった。 その背中が見えなくなるまで、四人は動けなかった。
「……何、あれ」
柔太朗が呟いた。
「記憶がないのかな」
「分からない」
勇斗は仁人が消えた道を見つめていた。 でも。
一つだけ、確かなことがあった。
「……あいつ、嘘ついてる」
三人が勇斗を見る。
「どうして?」
「目が、昔と同じだった」
勇斗は拳を握った。
仁人は、四人を見た瞬間。 泣きそうな顔をしていた。 あれは、知らない人を見る目じゃない。
まるで。
会いたくて仕方なかった人に、ようやく会えたような目だった。
「俺たちを覚えてる」
勇斗は確信した。
「でも、何か理由があって……俺たちを拒んでる」
その頃。 仁人は駅から少し離れた公園にいた。
誰もいないベンチに座り、顔を伏せる。
「……最悪だ」
声が震えた。
会えた。 本当に会えた。 嬉しかった。 嬉しくて、泣きそうになった。
でも。
「……会わないって決めたのに」
仁人は両手で顔を覆った。 さっきの四人の顔が、頭から離れない。
勇斗の優しい目。
太智の声。
舜太の困ったような顔。
柔太朗の怪しんで俺を見る目。
全部、前世と同じだった。 何も変わっていなかった。
だからこそ怖い。 また同じ未来になる。 また五人で笑って。 また五人で幸せになって。
そして最後には――。
仁人は目を閉じた 。 思い出したくない。 あの日のことだけは。 絶対に。
「……今度こそ、俺だけでいい」
そう呟いたとき。 ポケットの中で、スマートフォンが震えた。
一件のメッセージ。 送り主は、勇斗。
『今日は突然ごめん。』
少し間を置いて、もう一通。
『でも、俺たち、また会えて嬉しかった。』
仁人は画面を見つめた。 指が震える。 返信欄を開く。
――俺も。
そこまで打って。 全部消した。
代わりに、スマートフォンの電源を切った。 そして、誰にも聞こえない声で呟く。
「……俺のことなんて、嫌いになってよ」
その願いだけは。 どうか、叶ってほしかった。
コメント
1件
うわ、この再会シーン、胸が痛すぎる……! 仁人が「知りません」って言うときの震える声とか、泣きそうな顔してたって勇斗が気づくところとか、もう画面見ながら「あああっ」ってなったわ。ほんとは覚えてて、会いたくてたまらなかったのに拒絶する理由があるってのが切なすぎる。最後の「嫌いになってよ」の願い、叶ってほしくないよ……。次どうなるか気になって仕方ない!