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翌朝。勇斗 のスマートフォンには、昨日から何度も同じ名前が表示されていた。
仁人。
もちろん、仁人からの連絡ではない。 勇斗が昨日撮った、あの一枚の写真。 四人で並んでいる写真の端に、偶然写り込んでいた仁人の姿。勇斗 はそれを何度も見返していた。
「……やっぱり、覚えてるよな」
「何回言うの、それ」
隣で柔太朗が呆れたように言った。
「昨日からずっとそれじゃん」
「だって、あれは絶対そうだろ」
「俺だってそう思ってるよ」
柔太朗は少し黙ってから、窓の外を見た。
「でも……だったら、なんで逃げるんだろ」
その言葉に、勇斗は答えられなかった。
放課後。 四人は昨日と同じ場所に集まった。仁人を 見つけた駅前。
もちろん、仁人が来るはずはない。 それでも、誰も帰ろうとはしなかった。
「俺たち、何してるんやろうな」
舜太が苦笑する。
「待ってたら来ると思う?」
「…来るわけないやろ」
太智が言った。
「でも、帰るのも嫌なんよな」
四人とも、同じ気持ちだった。 せっかく見つけた。 何度も探して。 何度も生まれ変わって。 ようやく、また会えた。
それなのに。
たった一度会っただけで終わるなんて、納得できなかった。
「……明日、仁ちゃんの学校に行かへん?」
舜太が言った。
「学校?」
「昨日の写真に制服が写ってた。学校くらい分かるやろ」
「そこまでやる?」
「やるに決まっとる」
即答だった。柔太朗 がため息をつく。
「……まあ、俺も行くけど」
「俺も」
「俺も行く」
結局、四人ともついていくことになった。
翌日。 昼休み。 四人は仁人の学校の近くにいた。 門の向こうに、生徒たちが行き交っている。
「……おった」
太智が小さく言った。 校舎から出てきた仁人。 友達らしき人と話しながら笑っている。 その笑顔を見た瞬間、四人の胸が痛くなった。
「普通に笑うんだな」
柔太朗が呟く。
「俺たちの前では、あんな顔しなかったのに」
勇斗は仁人を見つめていた。昔 と同じ。 笑うと少しだけ目が細くなる。 困ると右手で髪を触る。 何か考えていると、少しだけ視線が下がる。 全部、知っている。 知りすぎている。 だからこそ、分かった。
仁人は四人に気づいている。 視線が一度だけこちらを向いた。
そして――
すぐに逸らされた。
「……気づいた」
勇斗が言う。
仁人は友達に何かを言って、校舎の中へ戻っていった。
「追う?」
「うん」
四人は走った。 廊下の角を曲がる。 階段を上がる。 けれど。
もう、いない。
「……また逃げられたやん!」
舜太が息を切らしながら呟いた。
「でも、分かったことがあるで」
太智が言う。
「何?」
「仁人は、俺たちがいる場所をちゃんと見とる」
四人が黙る。
「本当に記憶がないなら、あんなふうに逃げへんと思う」
確かにそうだった。 知らない人なら、怖がる必要もない。 わざわざ避ける必要もない。 なのに仁人は、四人を見つけるたびに逃げる。
まるで――
見つかってはいけないと思っているみたいに。
「じゃあ、どうする?」
柔太朗が聞く。勇斗 は少し考えてから答えた。
「待つ」
「待つ?」
「追いかけるだけじゃ、また逃げられる」
勇斗は校舎の向こうを見た。
「だったら、俺たちはここにいるって分かってもらう」
「……それで?」
「仁人が戻ってくるまで」
柔太朗が笑った。
「気が長いな」
「だって、俺たち何回目だと思う?」
その言葉に、三人も笑った。 何度も出会って。 何度も別れて。 それでも、また見つけた。 だから。
一度逃げられたくらいで諦める理由なんてなかった。
その日の帰り道。 四人は学校から少し離れた場所で、仁人が出てくるのを待った。
夕方。 空がオレンジ色に染まる。 やがて、門から仁人が出てきた。
四人の姿を見つける。 仁人は立ち止まった。 そして、ゆっくりと視線を逸らした。 そのまま反対方向へ歩き出す。
「仁人!」
勇斗が呼ぶ。仁人 は止まらない。
「待って!」
今度は舜太。 それでも止まらない。 四人が追いかける。仁人 は走り出した。
息が苦しくなるほど走って。 角を曲がって。 人通りの少ない道に入ったところで。
「……なんで」
仁人が立ち止まった。 背中を向けたまま、肩を震わせている。
「なんで、追いかけてくるの」
四人も足を止めた。 勇斗がゆっくり近づく。
「だって――」
「来ないで」
仁人の声が震えた。
「もう、来ないでよ」
「仁人…」
「お願いだから」
振り返った仁人の目には、涙が浮かんでいた。
四人は何も言えなかった。 仁人は泣きながら笑った。
「俺たち……初対面なんでしょ?」
「……」
「だったら、もう俺のことなんて放っておいてよ」
その言葉に勇斗 は、静かに首を横に振った。
「無理だよ」
「……どうして」
「だって、俺たちは――」
勇斗は一度言葉を止めた。 そして、仁人をまっすぐ見た。
「ずっと、お前を探してたから」
仁人の目から、涙が一つ落ちた。 それでも仁人は、 何も答えなかった。 ただ、小さく呟いた。
「……探さないでよ」
その言葉だけを残して。 また、四人の前から消えていった。
コメント
1件
読みました……「探さないでよ」という仁人の言葉がすごく胸に刺さりました。涙を浮かべながら「初対面なんでしょ?」って言うところ、なんでそんなに必死に逃げるんだろうって切なくなります。追いかける四人も当然で、何度も生まれ変わって探してきた執念がひしひしと伝わってきました。続きが気になります!
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