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ver.1
「渡せなかった…」
本当は今日、好きな人に想いを伝えるつもりだった。
バレンタインに合わせて、苦手なお菓子作りも頑張って。
今日こそ、って思ってたのに。
「なつくん、人気なんだもん…」
彼の周りに人がいすぎた、なんてのは言い訳だってわかってる。
なつくんに渡しに来る可愛い女の子たちになんて勝てるわけがない、って、怖気づいただけ。
それを乗り越えてまで伝える勇気が、出なかったんだ。
こさめの心が、弱かった。
…こんなに、好きなのにね。
誰もいなくなった教室で、なつくんの席に座って、意味もなく包みを手の中で転がす。
もう、自分で食べちゃおうか____
外の景色に目をやりながら、諦めていたとき。
「ねぇ、それ、誰に渡すの」
ふいに背後から聞こえた声に肩がとびはねた。
「…なつくんっ!?」
「そんな驚かんくても」
「いや、だってそりゃあ…ね」
好きな人、まさに張本人ですからね。
なんてまあ…言えないけど。
それより、なつくんが登場した驚きで、軽くパニックになってるのを、どうにかしたい。
「で、それ、誰に?…いるま?らん?すち?みこと?」
「あ、え、えっと…」
早口で問い詰められるような言い方。
こころなしか前のめりだし、すごいなにかの圧を感じる。
あなたです、なんてとても言えないような剣幕だ。
すると、ため息をついたなつくんにぐっと手首を掴まれた。
「…ふーん、誰か用ではある、ってことね。
……なにそれ、めっちゃ腹立つんだけど。」
言いながら、だんだん強く力が込められていく。
痛いくらいに。
そのままなつくんが顔を近づけてきて、そっと顎を持ち上げられた。
めっちゃ近い。
真正面から見つめられて、すごく居心地が悪い。
……嬉しいけど。
「すげぇ嫉妬すんだけど。ねぇ、俺じゃだめなの?俺にしなよ」
いつものなつくんとは雰囲気が違う。
穏やかでやさしいかんじじゃない。
こんな強気ななつくん、見たことない。
ていうか…その言葉、期待してもいいの?
だとしたら…諦めようとした告白、考え直しても、いいかな。
「…っ//…………よ」
「…え?」
「…さいしょから!なつくんだけだよっ//
これも…なつくんに渡したくて、作ったの…!」
意を決して言葉にした。
すごく心臓がばくばくしてる。
当のなつくんからは、え?というすっとんきょうな声が返ってきた。
「…俺に?」
信じられないというように目を丸くする彼に、こくりと頷いてみせた。
「そうだってば。…こさめは、なつくんのことが好き、なのっ…」
言えた。
言っちゃった。
ぎゅっと握りしめる手に力を込める。
彼がどんな反応してるか、見るの、すごくこわい。
けど、目を逸らしたくなるのを必死に抑えて、彼だけを見つめ続けた。
「まじで?……え、さっきは…ごめん。けど、やべぇ、うれしい」
口元を押さえるように顔を隠してしまった彼の耳、真っ赤だ。
よかった。
こさめの気持ち、伝わってくれた。
「…なつくんは…?」
ん?となつくんが顔をあげる。
「そこまで言っておいて…聞かせてくれないの?」
さすがにこれで期待するなというのは無理がある。
聞いても、いいよね?
なつくんの大きな手がこさめの頬に触れた。
あったかい温度が伝わってくる。
「こさめが、好きだよ」
やわらかく微笑んで伝えてくれたなつくんの表情は、一生、忘れないと思う。
さっきまでの強さが嘘みたいに、繊細で、やさしくて、あまい。
「じゃあ…?」
「うん」
ふたり同時に息を吸い込む。
お互いに手を取って握り合う。
「「付き合ってください」」
Fin.
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