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6限目の授業が終わったあと、俺はひとりため息をついた。
と、いうのも。
今日は2月14日。そう、バレンタインの日。
周りは女子も男子も浮かれてふわふわしていた。
なんだかんだ誰もがこの日を楽しみにしていたんだろうな、という雰囲気。
そんな中、俺が沈んでいる理由___
“らんから何もなかった”
俺が密かに想いを寄せる幼馴染のらんからは、毎年何かしらいただいている。
朝には「今日いっしょにかえろ!」って誘いに来てくれるのに。
今日はほんとうになにもなかった。
普通に話しかけてはくれるし、俺が行っても話してくれる。
けど、一切バレンタインには触れなかった。
で、結局放課後。
荷物もないから、もう帰っちゃったんだろうな。
「…まあ……らんも好きな奴くらい、いるよな…」
ちょっとだけ、後悔が押し寄せる。
今まで幼馴染という近い距離に甘えて行動してこなかったこと。
幼馴染だからってずっと一緒ってわけじゃ、ないのにな。
「…部活だし…まあ、いいけど」
なんて呟いても、強がりには変わりなかった。
「ただいま、」
あれから、らんからは連絡もなし。
暗い気持ちで家のドアを開け、さっさとリビングにあがった。
「あ、いるまおかえり〜」
ソファに座ってる俺の姉・すみれがひらひらと手を振ってくれる。
俺がらんを好きだってことを知ってる数少ない人のうちのひとりである。
「すみ姉〜っ、やっぱ俺、らんに言っとけばよかった…」
「なんで、どしたん」
俺の暗すぎる雰囲気にぎょっとした目をされる。
「…らん、たぶん好きな人できたんだと思う…」
俺の返答に、一瞬きょとんとしたすみ姉が、くすっと笑みを浮かべた。
「じゃあ聞いてみなよ。…ね、らんちゃん」
「…は?」
すみ姉が視線を向けた先。
そこには____
「おかえり、いるま…」
エプロンをつけてキッチンに立つ、らんがいた。
「…え?あぇ、は?……なんで?」
全然状況が飲み込めない。
今日はさっさと帰ったかと思えば…俺んちにいるって、なに?
え、俺んちに帰ってきてたってことか?
「できたて、食べてほしくて…?」
そう呟くらんはさっきから目を合わせてくれない。
俺がいまだにぽかんとしていると、すみ姉がふいに立ち上がった。
「じゃ、私は部屋行ってるから〜。ふたりで、仲良くね」
すみ姉が部屋をあとにしたのを見届けてから、らんが再び口を開いた。
「あと10分くらいかかるから…お風呂、入ってきていいよ」
「…わかった。」
とりあえず頷くしかなかった。
「あがった。おまたせ」
髪までしっかり乾かして、ちゃんと10分。
なんとなくらんが来てる理由がわかってきて、期待してしまう。
「じゃあ…いるま、これ…」
そっと差し出されたお皿には、ガトーショコラがきれいに盛り付けられている。
周りのフルーツとか、チョコソースでお皿をデコレーションしてあるのとか、すごく凝っていて完成度が高い。
「わ、すげぇ…」
ほんとに食べるのがもったいないくらいだ。
「いいの?こんなすごいの、俺に?」
思わず確認すると、ちょっと照れたようにはにかむらんがこくりと頷いた。
「いるまに。…ハッピーバレンタイン。いつもありがとう」
ようやく目を見てくれた。
ぱちっと目が合う。
ふいににこっと笑いかけられて、きゅんと胸が高鳴った。
一瞬、思考が停止してしまうほど、うれしかった。
ふわりと微笑み返して、そっと頭を撫でる。
「…ありがとう。…じゃあ、いただきます」
ひとくち分に切って、ぱくっと口に運ぶ。
甘すぎない。ビターさがちゃんとある。
なめらかっていうより、しっとり。
添えられたクリームや果物ともすごく相性がいい。
「うっま。…やば、めっちゃおいしい」
さすがは幼馴染。俺の好みを熟知している。
「よかった」
きっとこれに仕上げるためにたくさん練習してくれたんだろうな…
そう考えるだけで胸がじんわりあったかくなる。
だって本人はそういう裏話、ぜったいしないから。
けど、言わないだけで本当にいっばい頑張っているタイプ。
だからこそ、ぜんぶが愛しくなる。
“あぁ、好きだな”
って。本気で思う。
同時に、伝えなきゃ、とも。
半分くらいまで食べて、途中で静かにフォークを置いた。
「らん」
目の前に座ったらんの目をまっすぐ見つめ、ゆっくり口を開く。
「俺…今日、学校でらんから何もなかったから、誰か他のヤツのとこ行っちゃったのかと思って…焦った。」
らんの目がすこしだけ大きくなった。
ひとつひとつ、言葉を紡ぐ。
「今までにちゃんと伝えればよかったって…めっちゃ、後悔した。だから…いま、言う」
一度言葉を切って息を吸い込む。
本音を言うのって、こわいけど。
でも、伝えるって決めたから。
「らんが好きだ。」
らんは驚いたように目を見開いて、ぱっと顔を赤らめた。
なにか言おうとして、言葉が出てこないみたいに口をぱくぱくさせたあと。
じわっと目に涙が浮かんだのがみえた。
「ずるいよ…今日こそは、自分から言うって、思ってたのに…」
席を立って、たたっと駆けてくる。
俺が腕を広げるのと同時に、勢いよく抱きついてくる。
「わたしも、だいすき」
耳元で呟かれた言葉に安心した。
ドキドキする嬉しさ、っていうより、落ち着く温度感。
気持ちが同じって、こんなにも幸せなんだ。
今回で、痛いほどわかった。
相手への気持ちは、ちゃんと伝えないと、伝わらないってこと。
だから___
これからは、待たせないから。
わかるまで、言い続ける。
「…愛してる」
Fin.
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